報告
暮れてしまうと、暗くなるのは早かった。夜店に向かう人と家路につく人の間をすり抜けながら、ファンは急いで城に向かった。シンは心配しているだろうか。城で龍化した時にもシンや朱明は真っ先に気付いて来たのだから、おそらくさっき竜化したことにも気付いているだろう。なら、きっと心配している。
ようやく王宮が見えてくると、シンらしき人影も門の傍に見つけた。隣にいる赤い服の女性は南王だろう。慌てて門の間を走りぬけようとしたら衛士に止められたが、すぐに南王が中に通してくれた。
「今、使いを出そうかと言っていたところ」
南王はよかった、と笑みを浮かべると、奥へと歩いていった。ファンは上がった息を整えながら、背負っていた荷物を下ろす。
「すみません、師匠! 遅くなりました!」
「……無事ならいい。とはいえ、何があった? さっき一度龍化しただろう」
ファンが下げた頭をぽんと軽く叩き、シンが問う。顔をあげると、シンは安堵の表情を浮かべていた。仮親のそれに似ていて、ファンは懐かしい感覚を覚えた。
「龍化は、俺もまさかするとは思わなくて、町でちょっと同じ年くらいの子達に絡まれたときに、不意に……」
「そうか。とりあえず中へ入ろう。南王と朱明に、わかったことを話さないとな」
歩き出したシンの後について、ファンも王宮の中へ入る。廊下にはすでに明かりが入っていて、天井画がさらに鮮やかに照らされていた。歩きながら、シンが言う。
「勝手に力が出て来るとなると、今度は抑える術も必要か」
「あ、でも、今は何か龍化しようとしても、出来なくて……」
引っ込んだきりの青龍の力は、まだ前のように体の中を吹き回る様子がない。
「不意に出たのを無意識に押さえたからだろうな。安定しないとどちらも無理か」
玉座の間に着くと、南王がすぐ人払いをした。玉座の後ろから朱明が出てきて、玉座の横の床に胡坐をかいて座った。部屋の中を照らす明かりに、自分の焔を足して明るさをあげて、満足気に頷く。全員が揃ったのを確認し、南王は二人に座るように言った。玉座に対しておかれた円座に腰を下ろし、シンは自分の荷物から、一つの包みをおく。包みはざらりと音を立てる。
「記されていた家の治療はすべて終えてきた。――やはり毒だ」
シンが包みを解くと、中身がざらざら音を立てて広がった。貴金属、装飾品の類がほとんどで、色は黒に緑が混じる独特のものだった。
「ファンが見つけた。どうやらこの色の装飾品から出た毒が肌に沁みて、病を起こさせていたようだ。病人の周りにあったこれらを出来る限り集めてきた。どうだ、朱明」
朱明は立ち上がり、広げられた中から指輪を一つ拾い上げる。
「確かに、瘴気はこれらからでておるの。どれ」
朱明はふっと息をその指輪に吹きかける。淡紅色の火がその指輪を包み、消えると指輪の石は灰のような塊になりさらさらと崩れてしまった。
「間違いないの。ただの毒ではない、邪なる者が関わっておる」
「そういえば、その色。この間、献上品の中にあったけれど、なんだか気に入らなくてしまったままだわ」
南王はそう言って装飾品の前まで来て、それらをじっと見つめる。
「これだけの種類で流行れば、広がるわけね。食べ物よりもこの町には効くわ。……珍しい色ではあるけど、どうしてこれが?」
「それなんですが、あの……」
自分の番だ、とファンは荷物を下ろし、油紙にくるまれたあの羽根を装飾品の横に置いた。
「町に出て、色々わかったことがあります」
ファンは三人の顔を見回す。一様に頷きが返ってきて、南王がどうぞ、と話の先を促す。ファンは息を整えると、口を開いた。