外の者(2)
町とその外を隔てる壁をくぐろうとした時、後ろから声を掛けられた。シャオの父親だった。走ってきたのだろうか、息を切らしている。
「無理したら駄目ですよ! 走ってきたんですか?」
その顔色は薄暗い中でも充分に具合が悪いのが見て取れた。駆け寄ると、父親はファンを見据えて、喘鳴混じりに口を開いた。
「君は何か知っているんだな。――あの羽根は、やはり悪いものなのか」
「……確かではないですが」
そうか、と言って父親はその表情を一層険しくした。
「あの……」
「黙っていてくれないか。いや、もし、これで死ぬ人間が出るなら――我々以外に死者がでるなら、すぐにでもやめよう。だが、原因が羽根だと言うのなら、それだけでも黙っていてほしい。あの踊り子がどういう意図だったかは知らないが……我々には、もうこの場所しかないのだ」
大きく咳きこみ、父親は懇願の瞳を向けてきた。
「あの羽根に触れた者、皆で決めた。何度も天秤にかけて出した答えだ、王に伝えていただきたい。――我々も都の民なのだと」
返すべき言葉が見つからず、ファンは立ちすくんだままその瞳を見つめる。家族が、子が富めるなら、自らの死すら厭わぬ彼らが、恐れるのは全てを奪われることだった。
「病を広げた罪は、我々の死で償おう。どうか、どうか宜しく頼みたい」
白髪の交じる頭を下げて、父親は言った。その姿と、昼間のシャオの言葉が重なって、ファンは声を張った。
「死んだら駄目だ! それじゃあシャオもあなたも救われない、助からないじゃないですか。 必ず伝えます、できるだけのことをしますから」
父親は驚いたような顔をして、こちらを見た。そして、その表情をふっと崩す。
「その年で朱雀羽を貰うだけはある。……持っていくと良い。きちんと包んだがくれぐれも触れないように。あの踊り子が持ってきた羽根だ」
油紙にしっかりと幾重にも包まれたそれを受け取って、ファンは荷物の中にそれを収めた。向こうのほうでシャオの声がするのが聞こえる。父親を探す声だ。よろしく頼む、と父親が背を向ける。同時に、閉門を告げる鐘の音が聞こえて、ファンは急いで壁の裂け目をくぐった。裂け目の向こうに、重たい足取りで帰る父親とシャオの姿を見る。娘を見るのは優しいが昏い目だった。
鐘が鳴り終えると、裂け目の向こうがぼんやりと霞んで見えた。風水の護りの外にある集落の向こうに陽が落ちる。日没に城で。師との約束を思い出し、ファンは慌てて駆けだした。養父と同じように心配する彼の姿が目に浮かんで、ファンは一層その足を速めた。