小花の少女
「うん、今終わったんだけど。君も?」
ファンはその少女に尋ね返す。袖の無い薄紅色の旗袍は少し褪せているが、裾には小さな花の模様が見て取れた。髪は耳の後ろで二つに結ってあって動き易そうな格好だった。少女は言う。
「そう。でも、また来なきゃ。まだ素養が定まらないとか、人に笑われてばっかりだし」
彼女はため息交じりに、そう答えるとファンのほうをじっと見つめてきた。
「この町の子じゃ……ないよね?」
「うん、青の国から来たんだ。俺はファン、君は?」
「シャオファ。シャオでいいよ。この町に住んでるの」
シャオはそう言ってにっこりと笑った。彼女が持っている花はよく見れば、丁寧に作られた造花で、髪飾りになっているようだった。手作りのようだが、ひとつひとつが丁寧に作られているのがわかった。
「どうして、この町に来たの?」
シャオが尋ねる。
「素養が定まらないから、師匠について旅に出たんだ。中つ国を一周するんだって」
ファンがそう言うと、彼女は感心したように息をついた。
「素養が定まったからじゃないんだね、不思議。でも、いいなぁ。私、この町くらいしか知らないから」
「俺もそうだったよ。師匠が俺のいた町に来なかったら、旅どころじゃなかった」
「会ってみたいなぁ、そのお師匠さん。今は別々なの?」
「うん、今病気の治療で別の所で、俺はその間――あ」
そうだ、自分は今、その病原を探すように言われていたのだった。夕刻までには王宮へ行かなければ。
「ごめん、シャオ。俺、町を見て回るように言われたんだった。行かなきゃ」
「あ、それなら私が町を案内してあげる! 結構詳しいよ」
シャオはそう言って、花籠の中身を零れないように敷布でくるんだ。
「最近花飾りもぜんぜん売れないから、暇してたんだ」
邪魔? と尋ねられて、ファンは首を振った。
「いや、すごく助かる! お願いするよ、シャオ。あとは小路だけなんだ」
シャオがにっこりと頷いて、先へと歩き出す。ファンはそのうしろについて、御柱の分祀をあとにした。
※旗袍……ワンピースのようなもの。