向けられた毒
互いに名乗ったところで、主人が尋ねる。
「ところで、失礼だが、貴殿は何の獣人なのだ? 治癒の術とは初めて聞く」
「蛟という幻獣のひとつだ」
シンは右手を龍化させながら言った。事前に言った通りに、ファンも然り、といった顔で澄まして聞いている。なるほど、と主人は頷いたが、よくわかっていなさそうだった。まぁ、それはこちらとしても都合がいい。龍の腕を主人の体の前にかざし、少しずつ力を与える。腕の周りを薄青い光が包む。かざした手で拭うように、主人の体に浮かんでいた斑点を消した。
「ほう! 素晴らしい、こうも治るものか!」
主人が歓声を上げて、自分の腕を見る。水を持ってきた従者もその様子を見て、水を差し出すのを忘れて、見入っている。
「すまないが、完全に治ったわけではない」
「なんと」
水を差すような気もしたが、さすがに伝えねばならぬだろう。
「私の力では、病んだ体を癒すことはできるが、体が持つ力で直せぬ根源は断つことができないのだ。病を完全に断つには、その元そのものを消してしまわねばならない」
「では、どうしたら完全に治るのだ? そもそも、根源は何と見る」
「……毒だ。根本的な対処については、陛下自ら動かれているようだ」
そう言った途端に、主人と従者の顔色が変わった。
「やはり、何者かが毒を……」
「違いない!」
二人は口をそろえて、毒の存在を肯定する。
「何か思い当たることがおありのようだが」
シンが尋ねると、二人は顔を見合わせた。
「いや、誰と決まったわけではない。だが、この暮らしぶりだ、察していただけるだろう」
なるほど、とシンは小さく応えた。毒を受ける覚えはあるが、誰がやったかは知らぬ。否、誰がやったとしてもおかしくない、か。そうなると、ここからだけでは手掛かりは得られなさそうだ。
「同じ病は都中に広がっていると聞いたが」
地図に落とされた朱墨の数は多く、都の隅々に広がっている。
「旦那様、やはり壁の……」
「これ、この方は青の国の方だぞ」
従者が言いかけたのを、主人がたしなめる。何やら不都合があるらしいが、おそらく教えてはくれないだろう。身分の高い者や富める者に多いが、この手の隠し事は正面切って聞いても何も出てこない。ならば、これ以上の詮索は時間の無駄だ。




