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四神獣記  作者: かふぇいん
赤の国の章
58/199

赤の踊り子

「もう、話の途中でどこかへ行かないでちょうだい、二人とも」

 南王が部屋に入ってきて、子を叱る母親のような口調でそう言った。そして、シンに紙を二枚渡して、説明する。

「こっちは患者のいる家の場所を描いたもの。面倒だから地図にしてもらったわ。あと、こっちは身分証明だと思って」

 三つ折りの紙に、赤い朱雀の印が捺してある。

「南王の印。各家にこれを見せれば間違いなく通してくれるはずよ」

「確かに。では、すぐにでも行こう」

 シンはこちらを見て、行くぞ、と目配せしてみせた。ファンもそれについて、簡単な荷物だけ持って、入口へ向かう。

「あ、ちょっと待って」

 南王に呼び止められ、ファンは立ち止まって振り返る。

「なんですか?」

「これを」

 南王はファンの荷物にあった朱雀の羽根を取りあげると、ファンにじっとしているように言った。南王の手が首の後ろに周り、ファンはどきりとして、体を硬直させる。

「はい、できた。朱雀の加護があるでしょうから、身につけておくといいわ」

 そう言って、南王は離れた。自分では見えないが髪の辺りに違和感がある。朱雀の羽根を結い紐の間に挿してくれたらしい。慣れなさそうに首を傾げるファンを見て、南王は微笑む。

「……大丈夫、女々しく見えたりはしないから。それを持っていれば、下手な扱いは受けたりしないでしょうし」

 いってらっしゃい、と南王は手を振る。朱明も気をつけるのだぞ、と大きく手を振って見せる。ファンは二人に一礼すると、先に歩いているシンの方へと駆けだした。


 二人を見送り、南王――ランファはふふ、と小さく笑った。

「ねぇ、朱明。さっきあの子に朱雀の力上げたでしょう。次の王?」

「ん? 違うぞ。王ではないのに神獣の力を使えるというのでの」

 朱明はひらひらと手を振って見せて、玉座の方へと足を向ける。

「今、この中つ国すべて探しても、余の王はぬしだけぞ」

「あら、そうなの。また、ただの踊り子に戻るってのも面白いと思ったのだけど」

 扇を広げ、一節舞うようにその場で回ると、ランファも朱明について戻る。その言動に朱明は渋い顔で呟く。

「ううむ。余が選ぶ王はいつもそうだ。王座に興味がない」

「あら、別に王様やるのは嫌いじゃないわ。ただ、私はいつも楽しいようにやりたいのよ」

 そう言って、赤い衣でくるくると回って見せる。踊り子の時に人を楽しませたように、王の時も直接楽しませられずとも、「楽」は与えられるはず。それが自分の生き方であり、指針である。

 先に歩いていた朱明が足を止め、小さな声で問う。

「悔いておるか」

 少年の悲しげな声にランファは朱明の後ろへ回って、その小さな体をそっと抱き締める。今、自分の体の中に流れる赤の気がこの背を通し、伝わってくる。

「いいえ、まったく。――神獣の人達って不思議ね。一万年も生きているのに、中身は見たまま」

「どうせ余は子供だ」

 拗ねたような口ぶりで、朱明は言う。

「でも、その格好の方が私は好きよ。赤の国代々の王は美しいものが好き。で、あなたは美しい。あなたと一緒にいられるなら、私はずっと王様でいるわ」

「そうか!」

 嬉しそうな声を聞き、こちらの顔も緩む。ランファは身を放して、玉座へ進んだ。何百とこの国の王たちが座ってきた豪奢(ごうしゃ)な作りの王座を撫で、そこに座る。

「さて。仕事をしなくちゃね。この国の人々すべてが笑顔になるように」

 満足そうな顔で朱明が同意する。東国の彼らは、そろそろ一件目の家に着くころだろうか。ランファは人払いを解き、調査にやっていた家臣を呼んだ。

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