南の王、南の守護者(2)
朱雀は陽山の火口より生まれたとされる。自らの体を焼き、その身を清く保つその神獣は穢なきもの、と呼ばれた。汚れを払う、という浄の意がいつしか美を示すものとなり、今の赤の国の文化が拓かれた。
焔色の翼に、五色が加わる長い尾羽。金属のような嘴と蹴爪はつややかに鋭く光っている。灼厄盤の模様は朱雀の身を描いた物らしい。ファンが今までに見たどの鳥よりも大きく優美で、翼は玉座ごと王をゆるりと覆ってもまだ余りある。
「句芒も、小さき身に収まっていては苦しかろ。人払いしてあるゆえ、ぬしも戻るとよい」
句芒、と呼ばれたシンはゆるゆるとかぶりを振ると、その勧めを辞した。
「旅の間はよほどのことがない限り、龍には戻らぬと決めてきた」
「また、どうして」
「願掛けのようなものだ。それに、この身ならそれほど物を喰わずに済む」
朱雀の問いにシンは笑みをこぼしながら応えた。そういえば、ファンもシンが完全に龍になった姿を見たのは一度きり。それも、檮杌との戦いの中でだ。王宮では神獣は元の姿だと言うから、ずっと化けた状態で旅をしているということか。
「ふむ、ならば余も人になっていようかの。大きさは近い方が話しやすかろ」
朱雀は頷いて翼を羽ばたかせた。光とともに、朱雀の姿が先ほどまでの少年の姿に変わる。
「余もこの姿の方が好きだ。愛き姿であろ?」
白磁のような腕を広げて見せて、朱雀――朱明は言った。そうね、と笑みを浮かべ、南王が頷く。南王はこちらと目が合うと更に楽しそうな笑みを浮かべる。
「朱明の友達なら、無理して偉そうにしてなくていいわね?」
「余は別に偉そうにしろなどと言わぬぞ?」
南王の問いに朱明は小首を傾げる。
「王様は偉そうにしているのが、相応しいし、美しいのよ」
そう言って、南王は立ち上がり、玉座のある一段上からこちらと同じ床に降りた。シンと握手を交わし、ファンにも同じように手を差し出す。
「私はランファ。今の赤の国の王よ。ファン君、だったかしら」
ファンは頷いて、そっと手を差し出した。王と手を握るというのは、本当ならありえないのではないか、と思う。畏れ多くて、さっきからずっと早鐘のように打ち続けている鼓動がさらに早くなった気がした。そして、南王はシンの方に向き直り、尋ねる。