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四神獣記  作者: かふぇいん
赤の国の章
53/199

謁見

「やはり慣れないな」

 おれもです、とファンが相槌を打ち、髪を結び直している。結い(ひも)は、帰ろうとした二人に店主がせめてこの国の色だけは、と付けてくれたもので、さすがにこれまでは断れずに、そのまま貰って来たのだ。金に近いファンの髪に朱の紐は鮮やかだ。

 服を買った後一度宿に戻り、二人は今度こそ王宮に向かって歩き出した。改めて歩くと顔色の悪い者をところどころで見かける。年寄りや子供に流行るならわかるのだが、見る限りその者達に共通性は見当たらない。

「妙な空気だな」

 シンは呟く。街を吹き抜ける風は初夏のもの、心地よいくらいだ。だが、その中に瘴気(しょうき)のような、微かな毒気が混じっている。

「悪い物でも出回ったんでしょうか」

「のようだな。だが、食べ物ならこうも広がる前に誰かが気付くと思うが……」

 二人は奇異に思いながらも、通りを歩き抜けた。朱雀門からのびる大通りを行けばすぐに王宮へとたどり着く。王宮の門を見張る衛士に、シンは名を名乗る。

「昇化の為、王にお目通り願いたい。名はシンという。青の国より来る」

 それにファンも続く。

「その弟子、ファン。同じく東より」

「朱雀様にもお伝え願えるか。東野(あずまの)の足のある蛇だと」

 シンは続けてそう言った。衛士は少し待つように、と言って中へ入っていった。

 王宮は都の中央に据えられている。嫌みのない絢爛(けんらん)な王宮は確かに美を司る国にふさわしい。衛士はすぐに戻ってきて、二人を王宮の奥まで案内してくれた。中の細工は更に細かく(ほどこ)され、建国の神話が謁見の間までの廊下に天井画として描かれていた。金で描かれた人物を先頭に、四方の色を(まと)った人物と神獣が魔を討つ場面だ。ファンがそれを見あげているのに気付いたのか、シンは小声で注意する。

「あまりきょろきょろするな。余所見していると(つまづ)くぞ」

 ファンはっとして前に向き直す。目に入れないようにしても天井画はやはり気になる。あの青い服を着た人物は、シンだろうか。いや、神獣が描かれているならば、人物達は初代の王たちということになるだろう。一万年も前の王、神獣たちに選ばれた最初の人間。どんな人たちだったのだろう。

「ファン!」

 また小さく注意されてファンは顔を上げた。目の前はすでに謁見の間だった。螺鈿(らでん)の細工がついた引き手が引かれ、扉が開かれた。

 まず目を引いたのが王自身。国号の色に身を包み、(あで)な様子で座るその女性こそが、赤の国を治める南王その人。紅の口元を鮮やかにたわめ、彼女は微笑んだ。

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