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四神獣記  作者: かふぇいん
赤の国の章
50/199

朱雀の地

青の国の章2の続きです

 山がちだった青の国を離れ、大きな町を三つ、宿場を四つ通り過ぎるとそこには風の吹きわたる平原が広がっていた。一度に開けた視界にファンは感嘆の声を漏らす。見渡す限りの草原と遥か彼方に蒼い峰々が横たわり、一番目を引く大きな山は赤く燃えていた。平原の中央に向かって筋のように街道が伸び、その先には赤の国の都、南都があった。

陽山(ようざん)が火を噴いているのか。風は向こうに吹いているが、どうかな」

 シンは遥か向こうの霊峰を見つめ、心配そうに呟いた。

「山が(あかがね)色だ」

 その一方でファンは目を輝かせて、辺りを見回している。他の国の様子は、各地を回る通商の者か、昇化を目指して旅する者くらいしか知らない。他に漏れずファンも初めてみる他国の様子に、感動が止まらないのだろう。シンも実際に赤の国を見るのは前を思い出せないほどに久方振りだ。国の象徴である陽山の(ほのお)も改めて鮮やかに見える。火の臭いは後ろから吹いてくる風のおかげか、殆どない。煙は山の向こうへと空の高いところを流れていく。

 青の国を出る前に雨季をやり過ごしたおかげで、ここしばらくは足を止めるような雨にあっていない。この地も雨雲に通られたのか、草はずいぶんと丈があるようだ。

「少し休むか。水を飲んでおいたほうがいい」

 シンはファンにそう告げて、道端の草を払って横に倒すと、その上に腰を下ろした。その隣にファンも荷物を下ろして、水の入った筒を取り出す。

「ずいぶん暑いですね」

 ファンは額に浮いていた汗を拭い、水を飲む。

「四方それぞれ気候が違うからな。南は一年を通して他国よりも日が強い。それに、今は陽山が動いているから余計にな。流石は火の鳥が統べる地だ」

「火の鳥……」

 ファンが小さく繰り返して、シンは頷いた。

「俺も久しく会ってないが、まぁ、おそらくあちらは変わられんだろう」

「朱雀様は、その、どんな人ですか? 師匠のような?」

 ファンの問いに、シンはちょっと間をおいて、あぁ、と笑んだ。

「神獣は普段、人の形をとらないんだ。あの姿の方が力を使いやすいしな。もとより神獣は王宮の奥より動かない。会う者といえば王と、昇化の為にやってくる過客がどうしてもという時だけだ」

「えぇと、東王様は師匠がこっちにいることを知っていて、でも、昇化したい人はそれでも会いに来るわけで……」

 シンは笑う。

「陛下には、俺は今機嫌が悪いから近寄らん方がいいと脅して貰っている。――ん?」

 シンが辺りを見回してすぐ、人が伸びをする時のように地面が震えた。陽山からひと際火が噴きあがる。揺れは大きくはなかったが、ファンは思わず水筒を取り落としそうになる。

「陽山から岩でも飛んできたら厄介だな。そろそろ都に向かおうか」

 シンは立ちあがり、都と火山とを見てそう言った。ファンも下穿きについた草を払い落して、荷物を持つ。まだ頭の中が揺れているような気がするのか、少し不安定な足取りだった。


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