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四神獣記  作者: かふぇいん
青の国の章2
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青の娘(1)

 男たちは東王からの沙汰を待つ、とその後すぐに帰っていった。リーユイは宿営に置いてきていた荷物を持ってきてくれていた。それを預かって、シンはおもむろに立ち上がる。傷はないが、自分の血や檮杌の血で随分汚れている。上着など、来ている意味がないほどに破れてしまっている。ファンから受け取った上着を取り、シンは奥の方にある湯屋に向かった。誰もいないようだから、ファンはもう部屋で休んでいるのだろう。

 上着を脱いだところで、衣を置くための台の上にある水盆鏡に気がついた。湯あがりに身なりを整えるために置かれているのだろう。シンは思いついたように近くの椅子を引き寄せ、その前に座る。水を注いで、鏡の縁をすっと撫でる。鏡は淡い光を放って波立った。

「陛下、いらっしゃるか」

 シンは水の向こうに呼びかける。少し間があって、水に一昨日と同じ少女が映る。青い玉が向こうの水盆鏡の明かりに照らされて、一層優美に少女を彩っている。それを確認して、シンは口を開く。

「こちらの件は片付いた。だが、南への関を壊してしまったから、再建資金と人員を手配して欲しい。町長はそちらに向かったようだ」

「わかりました。配給担当の官にはもう沙汰を申しつけて、次の官を充ててありますから、大丈夫でしょう。そちらにも新しく人を据えねばなりませんね」

「推薦したい奴がいたんだが……」

「断られましたか?」

 シンは頷いてみせる。

「盗賊の話を聞いたか?」

「ええ。配給を奪っていたとか」

「奪って、無料で配り直していた。その首領なんだが、鯉の昇化の男を覚えているか。リーユイという男だ」

 優美に首を傾げた東王は、しばらくして、その顔を明るくした。

「気難しそうな。そういえば、その近くの村の生まれだと言っていましたね。確かに、適任でしょう」

 そうなんだが、とおいて、シンは続けた。

「やむにやまれず、とはいえ盗賊。しっかりと裁いてほしいと頼まれた。これで職など与えては、怒鳴られてしまうだろう」

 うんうん、と頷きながら東王はシンの話を聞いている。

「あと――あ、いや、こちらはおそらく受け付けてもくれぬだろうが、関の衛士長のシュウという男。この一件で随分世話になったんだが、この者は町人からの信が厚く、守ることに長じているようだ。……この関は国の要衝だが、この二人ならば安心して任せられると感じた」

 東王は考え込みながら黙りこみ、しばらくして口を開いた。

「それについては、私に任せてもらいましょう。考えておきます」

「ああ、頼む」

 シンは応えるように頷いてみせると、向こうからも微笑が返ってきた。

 ふと、むずがゆさを感じて、自分の脇腹に目をやる。檮杌から傷を受けた場所だ。もうすっかり治っているのだが、急いで治したところはまだ神経が過敏になっているようだ。何気なく、掻いたつもりだったが、水の向こうのその人は、心配そうな顔をしていた。自分と力を共有するこの少女はおそらく遠い地にありながら、誰よりも近くそれを感じていただろう。何でもない、と言ったが、向こうの表情は曇ったままだった。

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