夜明けの笛
だんだんと明るくなる町をファンは走っていた。どこか開いている家でもあれば、何か食べるものを譲ってもらえるはずだ。町が門を閉ざすのと同じく、家々は夜の間しっかりと錠を下ろしている。静まりかえる通りを駆けながら、ファンは人の起きた気配を探した。
「ファン!」
誰かに呼び止められて、足を止める。振り返ると、リーユイとシュウ、他の衛士達が通り過ぎた十字路に集まっていた。
「お前、――ああ、えーと、お師匠さんはどうしたんだ?」
ファンはそちらに走り寄って、尋ねる。
「シュウさん! 何か食べる物持ってませんか?」
「食いもん? どうすんだ」
「師匠、今動けなくて……」
簡単に状況を説明すると、シュウはなるほど、と頷いた。
「それなら知り合いの飯屋が早くから開くから、そっちに連れてったほうがいい。あと、今、町中の封を解く」
「封?」
「いや、面倒なことじゃない。単に、家に籠るように通達を出したんだ。門も開けるなってな。ちょっと待ってろ」
シュウは懐から小さな呼子を出すと、思い切り吹き鳴らした。高い音が朝霧の中を割って、町中に響き渡っていく。しばらくすると、町の入り口や色んな方から、それに応える太鼓の音が返ってきた。
「よし。俺はこの少年の手助けに動く。他の皆は町全体の見回りと、関の担当の奴は関の番に行ってくれ」
シュウは他の衛士に指示を出すと、ファンに向き直る。衛士達がそれぞれに散開していくと、リーユイが言い出る。
「すまないが、私は宿営に戻る。残してきた仲間が心配だ。……すぐに町をでるわけではないのだろう?」
ファンが考え込みながら、頷くとリーユイもそれに返した。
「礼を言いたい。そう伝えてくれ」
そう言うとリーユイは門の方へと駆けていった。それを見送り、シュウは言う。
「さて、ファン。さすがにお師匠さんをいつまでも寝っ転がしとく訳にはいかないだろ。どこにいる?」
「あ、関の方に!」
静かだった町に人の声が感じられる。野次馬が集まっても面倒だし、親切な人に連れていかれても、やはり面倒だ。急いだ方がいいだろう。二人はファンの元来た方へと朝焼けの町を走り出した。
シンはきちんと同じ場所にいて、幸い町人も関の方には来ていないようだった。関の衛士が先に見つけて様子を見ていたようで、仰向けに寝かし直してくれていた。シンは眠っていた。死んでいるのかと思ったと、苦笑いをして衛士達は配置に戻っていった。衛士に礼を言って、ファンはシンに声をかける。
「師匠、師匠! 今戻りました。大丈夫ですか?」
小さく呻いて、シンは眼を開けた。差し始めた陽が眩しいようで、腕で目を覆う。朝日が差し始めて、暗くてよく見えなかった周囲がよく見える。崩れてしまった建物の外は町の外で、新緑の森が広がっていた。ファンがシンの容体を窺っていると、そこにシュウが割り込んで、シンに話しかける。
「あんた、立てるかい?」
「ああ、なんとか。少し寝たら楽になった」
シンは応える。
「立てるなら肩を貸すから、近くの飯屋に行かないか? 知り合いがやってるんだ」
「是非頼もう。色々とすまない、礼を言う」
「町を救ってくれた人が何言ってんだい。それに、あんたほどの人の礼は俺の身に余っちまうよ」
シュウはそう言うと、シンに肩を貸して立ちあがらせた。ファンもシンが倒れないように、いつでも支えられる位置につく。肩が貸せればいいのに、と思ったが、それには頭一つ以上、今より背が伸びないと駄目だろう。