暁来て
逃げた魔獣の方角を確かめようとして、シンは不意に強烈な眩暈に襲われた。傷はほとんど癒えているが、力を使いすぎたせいだろう。酷使した力はすぐには戻るまい。そこにファンが駆け寄ってくる。
「師匠! 大丈夫ですか!」
「ああ、大丈夫だ。傷はない」
疲労感で体中が浸かっている。刀を収め、そうシンが答えると、ファンはぼろぼろと涙をこぼし始めた。
「また、俺、何もできなかった」
「そんなことはない。助かったよ、お前がいなければ、俺は死んでいただろう。こっちが師として情けないくらいだ。だから、あまり、自分を卑下するな」
そう言って、シンはファンの頭にぽんと軽く手を乗せると、そのまま力なく倒れた。
「師匠!」
ファンが慌てて、屈みこむ。今残っているのは、指一本動かせぬほどの疲労と――
「駄目だ……腹が減った。これ以上動けん」
猛烈な空腹。人型でいれば人並みの食事でも体力を補えるのだが、こうも力を使い、あまつさえ竜の姿になったのだから、体力などもう残ってはいまい。
「なんでもいい、なんか食べられる物を持ってきてくれ、ファン」
ファンは慌てた様子で涙を拭い、辺りを見回した。荷物、と言いかけて、ファンはハッとしてうなだれた。盗賊の根城に荷物を置いてきたのだったか。そして、すぐに顔をあげると、立ち上がった。
「何かないか探してきます」
辺りが薄紫に明けてきている。陽が昇れば早い飯屋は開くだろうが、まだまだ朝と言うには早すぎる。短く返事をしてやると、ファンはどこかにかけていった。そういえば、夜だったとはいえ、町の中で騒いだのだから、町人の一人でも出てきておかしくない。静まりかえる町を不思議に思いながらも、だんだんと思考がぼやけてきた。ファンが来るまで眠ってしまおうか。頬を地面に付けたまま、シンはゆっくり眼を閉じた。