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四神獣記  作者: かふぇいん
青の国の章2
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魔の者

 生ぬるい風と、後ろから放たれた殺気にシンはすぐさま檮杌(とうこつ)から飛び退いた。その横を大きな影と陰の気が通り抜ける。

「――今回のところは、引かせてもらいますよ、青龍」

 頭上からの声に、シンは声の主を探した。翼のある黒い豹が、暴れる檮杌を掴み、こちらを見下ろしている。

「放しやがれ、窮奇(きゅうき)!」

 檮杌が吠える。それを無視しながら、窮奇と呼ばれたその黒豹は淡々と告げる。

「この借りはすぐにでも返しましょう。ただ、それまで太極は君に預けておくことにします」

 「待て!」

 追おうとしたシンの足元に、窮奇の羽根が矢のようにいくつも刺さる。それを避ける間に、二匹の魔獣の姿は暁近い夜空の、闇の濃い方へと溶けるように消えた。


「てめぇ、なんのつもりだ、窮奇!」

 陽が昇るのを避けて山間を飛ぶ窮奇に、檮杌は吠えたてた。

「何って、助けてあげたんですよ。不満ですか」

「余計なお世話だ! 俺に『撤退』なんざさせやがって!」

 それを聞いて、窮奇は深くため息をつく。

「僕は君のような馬鹿は嫌いです」

 地を撫でるように飛ぶ窮奇に、檮杌は噛みつくように言い返す。

「だったら、俺なんか拾わねぇで、あの餓鬼拾ってくりゃあ良かったじゃねぇか」

 その言葉に、しばらく返事はなかった。空が紫がかり、いよいよ夜明けが迫る頃、地上にただ一点残った影が浮かび上がる。窮奇は言う。

「……近く、蚩尤(しゆう)様がお目覚めになられます」

「そうか」

 小さな影は近づくにつれて広がり、湖の様を呈する。

「我らが主君覚醒の折に、全員揃わぬなど恰好がつかないじゃありませんか」

 窮奇の言葉に、檮杌は小さく鼻を鳴らす。そして、二匹の魔獣は光すら逃さぬ暗い湖面に音もなく飛び込んだ。大きく広がった波紋がやがて穏やかになったとき、陽の光がその湖を照らした。その瞬間、湖はまるでそこに存在しなかったかのように、唯の草原に変わったのだった。

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