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四神獣記  作者: かふぇいん
青の国の章
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はじまりの町

 始まりに、天へと続く御柱(みはしら)があった。そこは天が定めたすべての中央にして、礎となるための土地である。天は御柱の四方に四獣を配し、それらを世界の守護とした。天に守られたその土地にやがて人々が集まり、その中から四獣と心通わせる者が現れた。それが王である。四獣とそれと共に在る四人の王が治めしその地こそ、今日我らが生きる国である。

 そして、いつしかその国は、その(かたち)と天授の平和をもってこう呼ばれた。(まどか)なる国、中つ国、と。


 これは、天の治が始まりてより、いよいよ万を数えたというころの話――


 東の王都、東都から南へと向かう街道沿いに、旅客に賑わう一つの町がある。名は浅水。交通の要であるその町は、物と人とが忙しく行き交い、大通りからは人の声の絶えることがない。町の中央にある広場に続く大通りには様々な店が並び、行商たちが少しでも良い場所を得ようと、朝は開門の鐘からすぐ人の声が動き出す。

 そこに並んだ店の中に、それほど大きくないが美味と知られた食堂があった。時刻は正午過ぎ、仕事に出かける者と合間に休む者とが忙しく出入りし、回りの早い時間帯だったが、今日は一席、いつまでも空かない席がある。

「お客さん、本当にちゃんと払えるんだろうね」

 給仕では手に負えぬと出てきた店主は、訝りながらそう訊ねた。その問いの向かう先には、今にも倒れそうな食器の山。店の料理の大半のその後が積まれた中に、埋まるようにして座る青年がいる。あまりの量に、他の客が時々見に来る始末だ。勘定を受け取りに来るたびに次の料理を頼まれるから、とうとう給仕が店主に泣きついたのだった。

 青年は、歳の頃ならば二十代半ば。額と左の上腕に鮮やかな孔雀藍色の布を巻き、拵えの見事な一振りの剣を帯びている。額の布は眉から前頭まで、跳ねがちな黒い髪を押さえて巻かれている。鮮やかな青は東王府の色であるから、そこから来たのだろう。店主の声に、青年は最後の一口をかきこみ、傍にあった茶を飲み干した。

「ああ、大丈夫だ。今終わった」

 青年は懐から手のひらに半分ほどの金の板を取り出し、店主に差し出した。金は市場に出回る銀や銅とは違い、貨幣としては殆ど回らぬ代物だ。店主は延べ金と男を何度も見比べ、じっとそれを検分してから懐にしまった。

「ちょっと待っておくれ、お釣りを持ってくるよ」

「いや、重くなるからいい」

 事もなげにそう言って、青年は空の湯飲みを差し出した。それまで訝しげだった店主は、変わって顔をほころばせ、それに茶を注ぎ入れた。

「本当かい? いやぁお兄さん、気前がいいね。そういや、その青。お兄さん、東都の国士さんか何かかい?」

 店主は問うた。青年の身なりを見てのことだろう。商人でもないし、他の旅人とも少し様子が違う。何より、それなりに良い身なりに見えるのに、連れも見当たらない。街道には時折、人を襲う獣が出るから、一人で旅する者はめずらしいのだ。注いでもらった茶をすすり、青年は笑う。

「いいや。確かに東王のもとから来たが、これは私用の旅だ」

 湯飲みを置き、青年は立ち上がる。とびぬけるほどではないが背は高く、そのせいか細く見えるが、しっかりとした体つきをしている。身のこなしからはどことなく、武術の心得が感じられる。

「ここから次の宿場まで、どのくらいかかるだろうか?」

 店を出ようとした青年は振り返り訊ねる。街道は整備されているとはいえ、町と町の間はそれぞれで、所によっては朝出なければ、次の町につかないことがある。町は日没とともに門が閉まってしまい、朝まで開くことはない。野営するという手もあるが、夜は獣が動くからよほどのことでない限り、それは避けるべきだ。

「そうか、なら今日は出ぬほうがいいな」

「宿を紹介しようかね?」

 店主のその申し出に、青年は首を振る。

「いや、それには及ばん。町を見て回りながら、自分で探そう」

 そう言って、青年は店先に張られた日よけの布をくぐる。

「馳走になった、ありがとう。美味かった」

 青年は礼をいい、大通りへと歩き出す。店主もそれに応えて、店先まで出てそれを見送った。

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