王威の書
翌朝、ニエンとジンユイにお礼を言うと、二人は関の町へと旅立った。巡礼は大抵右回りに回るために、南都への関は東都側に町があり、関が最も南にある。よって関を持つ町は四方の国ごとに一つになる。次の町は南都へ向かう東の関だ。早めに出発したおかげもあって、関へは正午には着いた。シンは書状を懐に収め、関の主である町長を尋ねた。関所に着く前に、ファンはシンに言う。
「師匠。おれにも何かできることはありませんか。何か手伝いたい」
シンは頷いて、王からの書状を取り出した。文字は少ないが、三つ折りの紙の中央にある青い竜の印こそが王の権威を示すものだ。指先でずらすと、紙は二枚あった。
「王が二枚くれている。一つをお前に預けておく。身を守ることにもなる、手放すなよ。……おそらく、町長の部屋にはお前は入れてくれないだろう。その間、うまく他の奴らから話を聞いてほしいんだ。できる限りでいい」
ファンは大きく頷いて、書状を一枚預かって懐に入れた。
「お前にしか聞けぬ話がある。王の身辺には耳にいれたくない話で、俺には聞けぬ、核心に迫る話だ。頼んだぞ」
ファンの表情がきりりと締まる。心なしか嬉しそうなのは、これまでの過保護な暮らしもあるからだろう。幼く見えてしまうのは、充分に仕事ができるにもかかわらず、バクがこういうことに巻き込ませなかったからだ。正しいが、ファンが焦れたのも納得がいく。だから、なるべく何でもやらせてやりたい。
おそらく、ここに来る配給役の官人よりも、シンの方が、一時的にでも位が高くなっているはずだ。ならば、都合の悪いことをわざわざこちらには漏らすまい。こういうときは上から流された仕事をしている人間の方が断片的にもより多くの情報と疑問を抱えているのだ。ファンが言いだしてくれて助かった。
シンは自分の分の書状を関所の衛士に見せ、長に会いたいという旨を伝えた。どこかから視線を感じるが、気付かぬ振りをして返事を待っている間、ファンに言う。
「くれぐれも無茶はするなよ。何かあれば、俺を呼べ」
ファンは頷いて、上着の胸のあたりを握りしめた。書状のある辺りだ。シンはそれを見て満足気に頷くと、顔色を変えて戻ってくる衛士を見つめた。ファンに頼んでよかった。読み通りのことになっているようだ。
関はそれ自身が役所になっていて、大門を挟むように高い建物が建っている。南都へ向かって左側の建物の一番上が町長であり関の主の部屋だった。
「お伴の方は、こちらでお待ち戴きたい。腰の物も、同様に願います」
衛士の言葉に頷き、ファンが部屋の手前で足を止め、シンは腰の刀をファンに預ける。案内をした衛士がそれを確認し、元の場所に戻っていくのを確かめて、二人は顔を見合わせて頷いた。関の中は意外と人が少なく、動くのは容易そうだ。シンは扉を叩き、返事があるのを待った。