青龍の力(1)
「それが一時のみの力になるとしても、構わないか」
ファンはゆっくりと目を開けると、まず目に飛び込んできたのは、青い鱗に覆われ、割り込むほどに地を踏みしめる龍の足だった。徐々に視点を上にあげると、鞘に収めたままの剣で、獅子男たちの攻撃を防ぐシンの姿だと気付いた。手足だけではない。襟から覗く首筋は青く艶めき、伸びて襟足を撫でる髪は月色に輝いて、天をつく枝のような二本の角を頭上に戴いている。覗き見えた双眸は青く炎を湛えている。鬼の、幽玄の世を見る、この世ならぬ瞳だ。
ファンはその言葉に何度も頷いて見せた。男たちはシンの瞳に、身体を強張らせている。二匹の獅子と押し合いになりながら、シンがこちらに向かって言葉を放つ。
「木行東方を預かりし青龍、鱗の眷族の長として、この者に我が力を分かつ!」
シンから溢れた青い光が、ファンの体を通り抜ける。風が吹き込んできて、体の中を洗ったようだった。身体の底から湧いてくる力にファンは驚きながらも、自分の体に目をやる。
月夜に映える爪、薄明かりを照り返す孔雀藍の鱗。隣に立つ青年と同じ姿で、ファンはきっと男たちを睨み据えた。
シンが二匹の獅子の体を押し返し、剣を手放す。双子の獅子は体の均衡を失って、後ろへと体勢を崩した。
「ファン! 思いっきりだ!」
シンの声に頷き、ファンはその腕にぐっと力を込めた。同じように、シンも腕の狙いを男たちに向ける。
「や、やめろ!」
「も、もうこんなことは!」
獅子の悲鳴が二重に響きわたる。二匹の青い竜はその拳を思い切り、男たちに打ちつけた。