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四神獣記  作者: かふぇいん
黄の地、御柱の章
126/199

神体の麒麟

同じくらいの年の頃ならすぐに見つかるだろう、そう思ってファンは辺りをぐるりと見渡す。ジュジの雰囲気は、やっぱり他の人とは違うからそれもあってのことだ。一目だけでは見つからずに、ファンは集団の外に出るようにして、最後尾につき直す。見つけようときょろきょろしていると、人々が集団を緩ませるように後ろに移動してきた。ファンもそれに合わせて、充分に後ろに下がる。ジュジの姿は、まだ見当たらない。

 聖堂はそれまでの部屋と比べてぐっと天井が高く、明るいせいか解放感に満ちていた。巡礼は参拝の列になり、部屋の中央を進んでいる。その奥には麒麟(きりん)の像がまつられていて、人々は順にそこに礼を行っていた。叩頭(こうとう)を含めて礼には決められた作法があって、ファンも小さな頃にバクから教わっている。

 像は壁や床と同じで陶とも金ともつかず、内側から微かに光っている。天を示す獣、麒麟。四方の神獣がその国の象徴となるように、天の象徴は麒麟だ。四獣は常にその姿があるが、麒麟は世の転機にしか現れないのだと聞いた。数少なく現れた、そのうちのひとつは建国の時。現れるたびに国の危機を救っていくから、麒麟は天の具現と言われている。ファンはそう習った。

(ルオ)を司る央の神が四足の獣なんて、おかしいと思わないかい?」

「ジュジ!」

 声がするまで、横にいることに気がつかなかった。ジュジはいつの間にか隣にいて、同じように列に並んでいた。

「今、なんて? 四足とか、麒麟のこと?」

 首を傾げて返すと、ジュジはええと、と苦笑する。

「ファン、君はどこから来た?」

「東の浅水(せんすい)って町だよ」

護虫(ごちゅう)って聞いたことは? 東の護虫は(リン)で、獣性もそれで定まるんだ」

 護虫。そういえば、東の関でシンがそのような話をしていた気がする。天の配した力の塊、獣人の力の源。もっと記憶を辿れば、シンは自分を――青龍を鱗の眷族(けんぞく)の長だと言っていた。鱗ある、魚やトカゲなどの容を持った気。リーユイやあの獅子の双子のように、そこで生まれたものに、見合う土地の気が結びつく。それが素養なのだと。わかる、と頷いて見せると、ジュジは続けた。

「東が鱗、南が(ユー)、西が(マオ)で北が(ジェ)。そして、中央が(ルオ)。裸が司るのは――人だ」

「人間……じゃあ、麒麟は」

 尋ね返すと、ジュジは微笑みながらも首を振った。

「さあね。ボクは麒麟という生き物がどういうものか知らないから、もしかしたら四方の気をすべて備えているのかもしれないし、あの容でも人を示すのかもしれない」

 意味ありげにわからない、と言ってジュジは中途半端に話を止めてしまった。シンは以前、太極はすべての可能性を持つ、と言っていた。中央の地は四方を統べる所であるから、と。しかし、ジュジの言うように、中央の護虫が人の容を成すものだとしたら、自分の素養とは一体どう現れるのだろう。目の前の麒麟の像は、(ほの)明るく輝き、天の示す色に輝いている。

「ファン、前、前。順番だよ」

 肩を叩かれて、ファンははっと顔を上げる。こうやって考え始めると周りに気が向かなくなるのは悪い癖だ。ファンは習ったように前に出て、麒麟の像の前で膝を折り、静かに叩頭する。

『そう、ファン……ファンがいいわ』

 女性の声がして、今回は軽くうずくように頭痛が奔った。横に目をやると、自分の両隣に女性と男が、同じように叩頭して天へ礼を捧げていた。女性はゆっくりと上体を起こすと、にっこりとほほ笑む。

『この子の名前』

『ああ、いいな。たくさん良い意味を持ってる。ん、待てよ。まったくだめってわけじゃないけど、もし女の子だったらちょっと男っぽすぎないか?』

『大丈夫よ。きっと、男の子だから』

 参った、という顔で男は苦笑を漏らす。女性はゆっくりと立ち上がりながら、後ろで控えていたバクに、嬉しそうに話しかけた。

『神官長様。ファン、という名前にしようと思うのですが、どうでしょう』

 応えて、バクは優しく笑う。

『ええ、良い名前です。その子に輝ける未来が訪れますように』

 三人の嬉しそうな顔。ふわり、と幻は消えて、頭痛もゆっくりと遠のいて行った。ファンの心が、陽が差したように温かくなる。やりかけにしていた礼を再開して、再度の叩頭からファンはゆっくりと頭を上げた。

 やわらかく、あたたかい光を放ち、麒麟の像が微かに笑んだ気がした。

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