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四神獣記  作者: かふぇいん
黄の地、御柱の章
120/199

降神の地、五行の源

五行説の説明がありますが、若干、本話の為に曲解している部分もありますので、あらかじめご了承ください。

赤の国の章2の続きです。

 秩序は唐突に訪れたという。その頃の中つ国は水泡(みなわ)のようであり、形なく揺れる泥濘(でいねい)のような場所であった。天と地の境なく、明と暗の区別なく、善も悪もなく、気は体を持たず、すべてが混ざり合った坩堝(るつぼ)のようなそこに、何の前触れもなく綺羅星(きらぼし)と共に降りたる剣が御柱とされた。それによって、天と地は分かれ、昼夜が繰り返し、泥濘は体に、気は魂に、それを繋ぐ心に善悪が生じた。

 すべてが大地に広がり満ちた後、それらすべてを統制すべく降臨したのが御柱の主たる“天”だった。天は時間をかけ、無分別にものを生み出し続ける泥濘を固めた。そして、そこを覆う命の源たる気を陰陽に分け、四方へと配した。

 厳しき陰は北の地で水行を生じ、激しき陽は南の地で火行を生じた。

 柔らかき陽は東の地で風となり木行を生じ、優しき陰が西の地で金行を生じた。

 そして、地に根付いたそれらの行から力を得、再び御柱の地、中央に集まった気が土行を生じたのだった。

 天は中央土行を自らの膝元に定め、四方の均衡を取る調停者として君臨した。与えたる秩序は、国を、そこに生きる命を導いた。


 天から四方に渡る力はそれぞれに神獣が受けて国を潤すが、土地から発生する五行の力は相生、相剋の関係を持って循環している。木が火種となるように、木行から火行の力が生まれる。火行から土行が、土行から金行が、金行から水行となり、水行から再び木行が生まれる。相手を強めるこの関係を相生(そうしょう)という。

 一方、水が火を消し、金の刃が木を叩くように、火行は木行を、木行は土行を、土行は水行を、水行は火行を、火行は金行を押さえ弱める力を持っている。この関係を相剋(そうこく)といい、それぞれの力が大きくなり過ぎぬように、抑える働きをする。

 だから、どこかひとつが弱まれば、相剋によって押さえられていた他方が盛り、その地を押さえていた他方も相対的に強くなる。また、相生による力を得られなくなった他方は力が翳る。

 近年では西の凶荒がそうだ。西の地に天変あって、火行が強まり、木行が強まった。力が強まった端的な例が、陽山の噴火である。この国はすべてが繋がり、巡っている。どこかに支障があれば、それは国全体を左右する。だからこそ、四獣や王のつとめは重い。

 だから、本来神獣が国を離れることすら、傾国の大罪といえるのだ――。


「やっぱり難しいですね……」

 ファンはため息交じりに呟いた。黄の地へ入って数日。道すがら、シンから五行について習っていたファンだが、考え始めると足元がおろそかになるのか、今もそれで道に出た木の根につまづいたのだ。

「先生にも教えてもらったんですけど、まだちょっとぴんと来なくて」

「順を覚えてしまえば、あとは慣れてわかるようになる。相生はこの旅と同じ順だ」

 青の国を発って赤の国を訪れた二人は、陽山の噴火で塞がれた道を避け、黄の地にある御柱へ向かうことになった。黄の地は天の見そなわす場所で、ファンの出生の地でもある。この地には町がない。その代わりに点在する小さな無人の宿所で、旅人は雨を凌ぐことができる。何の守りもない簡素な宿舎だが、それでも、四方のような獣への心配はない。それこそが、ファンが特異な人間とされる理由だった。

 黄の地へ入ってしばらくで、ファンもその奇異に気がついたようだ。あまりに濃い緑と、対して少ない動物の声。

「この場所は、気の力が強すぎるんだ。あまりにも力が強いから、木は花も実もつけず、生き物はつがいを作ることがない。だから、獣はここにいることを避ける。ここではすべてが止まっているからな」

「生き死にのない場所、ってことですか?」

「そう考えていい。まぁ、実際は外から入ってくるものの死は普通に起こる。行き倒れもあれば、死に場所に選ぶ者もいる。ただ、それでもこの地で何かが生まれることはまずない。だから、お前は珍しく思われる」

 そう言うと、ファンは少しだけ眉根を寄せた。何か考えているようだった。そして、しばらくして、一言だけ呟く。

「死も、止めてくれれば良かったのに」

 シンはおおよそを察して、何も応えなかった。確かに奇異ではあるのだろう。生を潤してきた天の地でありながら、死のみが許された場所というのは。

 見あげた御柱は近い。すでに柱というより壁に近くなっている。陽の光によって時折金に光るその天の座は、そして、その主はこちらに気付いているだろうか。天がただ一つ許した生と、許しを請いに来た生に。


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