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四神獣記  作者: かふぇいん
赤の国の章2
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習作の少女

 寝息は瞬く間にいびきに戻り、二人はとりあえず、といった感じで辺りを見回した。イェンジーと名乗ったこの男は、(らん)が言ったように過ごしているのなら、起きては酒を飲み、気が向けば描き、そして、こうして眠っているのだろう。

「参ったな。どうやらこの御仁が絵を描くまでは、先に進めん」

 仙人は得てして変わり者だと聞くし、知る限りの仙も確かにそうだと言えたが、よりによって今回もそういう偏屈者にあたってしまったようだ。この異界ですら、イェンジーが頓着せず、居座ることを許したからここに居られるが、もし敵とでも邪魔者とでも思えば、すぐにでもはじき出されるだろう。残れただけでもよかったのか。

「他に方法はないんでしょうか」

 ファンは床に落ちている絵を見て、一枚一枚拾い集めながら、そう訊ねた。

「あるんだろうが……仙の術となると、俺は門外漢だ。だから、本人が解ければ一番早いんだが、無自覚に術を使っているのならそのすべも知るまい」

「やっぱり上書きしてもらうしかないんですかね」

 ファンは床に落ちていた絵を集め終わり、卓子の上でとんとんと打ち揃えた。

「でも、こんなに綺麗な絵を、この人が描いてるってなんだか信じられませんね」

「人は見かけによらんということだな。……ちょっと待て、それを貸してくれ」

 シンはファンから絵の束を受け取り、凝視する。花鳥(かちょう)の絵の中に数枚、人を描いた作品がある。筆(すさ)びに描いたようなものだが、どうも見覚えのある顔。十五、六の少女の、座り込んだ絵だ。どれも後ろ姿や横顔ばかりで、人物画にしては良い向きではない。

「ファン、まだ山歩きできるか?」

 シンは卓子の上に紙を置き、尋ねる。こちらを気にしながらも、食べ物を拾い集めていたファンは、果物を抱えて頷いた。が、小動物の無くような音がして、ファンはさっとその顔を赤らめる。

「す、すいません」

 腹の虫を上から押さえつけて、ファンはこちらを見上げ謝る。それに応えて、シンは笑って首を振る。

「食べても構わんらしい、少し頂戴して腹に入れたらまた山に戻ろう。次は少し林の中に入る」

「林に、絵の人に関わるものがあるんですか?」

「絵の雛型に覚えがあってな。それと、ひょっとすると仙の術を解く方法が得られるかもしれん」

 そこまで言うとファンも、合点がいった、という顔で頷いた。絵の主は当分起きる気配がない。二人はとりあえず(いおり)の床に腰かけ、男が描いたという食べものに、おずおず口をつけたのだった。

 腹ごしらえを済ませ、異界から出ると日は真上から照らしていた。山の上とはいえ流石に暑さを感じるが、山の上へと吹きあがる風のおかげでそれほど酷に思わず済む。

「とりあえず、また切り割りの方へと向かうか」

「その、鸞という人を探しに行くんですよね?」

 ああ、と頷いて返し、その表情を険しくする。

「逃げられなければよいのだが。あの人は姿を見られるのを極端に嫌う」

 鸞ほどの聖獣なら同じ場所にいれば場所も知れるが、それは向こうにとっても同じだろう。顔見知りということで、向こうがあまり警戒していなければいい。とりあえず、先ほどのように藪の向こうでもいいのだが。

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