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四神獣記  作者: かふぇいん
赤の国の章2
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神性の獣

「師匠、大きい鳥って、やっぱり肉を食べたりするんでしょうか」

 先ほどの村から離れて少し、ファンはそう訊ねてきた。そうだった、とシンは表情を緩め、心配ない、と笑う。

「朱明が、陽山の主が山を空けていると言っていた。村人が見たのはおそらく彼女のことだろう」

「朱明さんの、お姉さんですか?」

「ああ。(らん)という聖獣だ。俺もあまりお会いしたことはないが、こちらに来られたようだな」

 勾配はだんだんと急になり、いくつも上り下りが続いた。陽が高くなり、空気が熱を持ち始めた頃、二人は休憩を取ることにした。ファンは水の音を聞きつけて、水筒の水を飲み干すと、二人分、新たに水を汲みにいった。山頂まで行かずに山を越えられるのは大いに先人に感謝するところだが、それでも御柱までの道は険しい。衿元(えりもと)を広く開けて空気を入れながら、浮いた汗を拭いた。木立からの風がひやりと肌を撫でる。

 沢から戻ってきたファンはシンの分の水筒を手渡し、横に座る。もらった水を口に含み、ファンは、そういえば、と尋ねて来る。

「師匠、神獣と聖獣ってどう違うんですか? 外の獣とか、魔獣とは違うのはわかるんですが」

 そうだな、と一呼吸おいて、シンは答える。

「随分昔の話になるが、建国の頃、天が世を五つに分けると言いだした。中央は天だが、残りの四方とそこにやった力を統べる者が必要になったんだ」

 建国の頃、と聞いてファンは身を乗り出すようにして、それに相槌を打った。

「だが、天の力は強大だからな、人間がそれにあてられれば、下手をすると死にかねん。そこで、天はもともと四方に在した獣のうち、より力の強いものを選び、守護として据えたんだ。元々の力に天の力を合わせ、他の獣と気を治める。それが、四方一柱の神獣で、東の地は俺が選ばれた。南は朱明だ」

 シンはそこで一度水を含み飲み、ふう、と息をつく。

「天の意に沿い、強い力を持ちつつも使命を得なかったもの、使命を辞したものがいる。それが聖獣だ。今は野の獣が長く生きたり、生まれついたりして強い力をもつと、それを聖獣というようだ。あぁ、霊獣ともいうか。ともかく、神獣以外の力ある獣が聖獣だと思えばいい」

 なるほど、というようにファンは感嘆のため息を漏らす。

「俺もはじめはただの獣だった。天が出て来るまでは、今こうしていることなど、考えもしなかっただろうな」

「なんだか、師匠が獣だなんて、おれには考えられないです」

 ファンが首を傾げながらそう呟き、応えてシンは微笑む。

「俺はずっと人の傍にいて、人と共に過ごしてきたからな」

 山に向かってざあっと風が吹き抜ける。南都の方の青草の匂いが微かに交じる、夏の風だ。体の汗が引いたのを感じてシンは立ち上がり、ファンを見下ろして言う。

「そろそろ行くか。それとも、もう少し休んでいくか?」

「大丈夫です、行けます!」

 ファンは弾かれるように立ちあがり、荷物を背負いこんだ。それでもここまでかなりの距離を上ってきたはずだ。切り割りを抜ければ、御柱が見えるだろう。

 そう思って歩き出して、しばらく。切り割りまで続くはずの林は突然にして途切れ、目の前に開けた場所が現れた。そして、二人は呆然として立ちつくす。そこには、険しい山中とは思えぬほどの、息をのむような花畑が広がっていたのだ。

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