第弐章
私は彼を、強く睨み付けた。
すると、彼は、「無理すんなよ。」と言って、私の頭を撫でた。
「!!」其の瞬間、私の目から白い液体が、頬を伝い、地面に落ちた。
そんな私を見て彼は、「おいおい、何をそんなに驚いてんだ?自分で斬ったんだろうが。」私の顔を除き込みながら、彼は不思議そうに言った。
其の言葉を聞き、馬鹿にされた様な気分がした私は、「其の事に驚いているのでない。瞳から白い液体が、流れ出ている事に驚いているんだ。」
そう、彼を睨み付けながら言った。
「はぁ?…ふっ、そりゃあ、涙って言うんだよ。お嬢さん。」と言って、私の頭から手を話し、一人不逞浪士の遺体を、見舞わっている男の元へと歩み寄った。
「で、遺体の状態は?」と、彼はもう一人の男に聞いた。
「いやぁ、見事なもんだよ。どれも此れも、急所をバッサリ。」と、もう一人の男はさっぱりした表情で言った。
「ねぇ、『彼』新撰組に入隊させようよ。どうせ隊士は多いに越した事ないんだし。其れに、此れだけ早く、的確に殺れる隊士なかなかいないよ。」と、上機嫌で言うもう一人の男を見ながら、彼は、俯きがちに、「おい総司、そりゃ、男だったら俺も賛同してぇところだが、こいつは女だ。土方さんにでも、ばれてみろ。」と言った。
「でも、僕、どう見ても『彼』は『彼』にしか見えないんですよねぇ。」と、おどけた様に言った後、総司という隊士は、「君、もしかして、もう何処かに入ってたりする?例えば、会津とかさ。」と、興味津々な様子で聞いてくる総司に対して私は、「私には、其の様な者達と馴れ合う趣味等ない。」と言って、後ろを向き、其の場を立ち去ろうとした。
が、其の時、強い力で左腕を捕まれ、「で、君、名前は?」としなくったって!」と、其の様子を見ていた彼が、驚き慌て出した。
「ふふっ、左之さん。僕は本気ですよ。だって、なかなか居ないじゃないですか。あの人数を、あれだけの速さで斬っておきながら、涙を流して、しかも、其の涙を知らないで涙に驚く子なんて。それに、彼女、さっきから僕等の事ちっとも恐がらないし。…其れにさっきの、……涙に驚く前の泣き顔、凄く可愛かったですしね。」そう言いながら、総司は私にウィンクをした。
けれども、普段、男同然の生活をしている私は、何も感じないどころか、こ奴の頭は大丈夫なのだろうかと、危うく心配仕掛けた。
「で、教えてくれるんだよね?」と、総司は、再び満免の笑みで私に聞いてきた。
「離したら教える。」と言って、私は総司を睨み付けた。
すると総司の後ろから、右頬を掻きながら、少し照れた様子で、「…教えてやってくれねぇか。」と、彼は言った。
「やっぱり気になるんじゃない。左之さんも。」と、総司はニヤッと笑いながら、言った。
「…うっ、うるせぇよ。」そう言った彼を見て、思わず、私の口元が緩んだ。
その瞬間、弐人の動きが静止していた。
「ふっ、…俺の名前は、紫癒だ。…月詠 紫癒。此れで良いか?」そう言う私を前に弐人は、何も言わなかった為、私は、後ろを向き、其の場からさっさと立ち去った。