第一章 『出会い』 (2)
ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・
「・・・うるさい」
手探りで目覚ましを止めてまた俺は夢の中へ戻ろうとするが・・・・
ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・
再びそれは鳴り出す
頭の中で睡眠欲と学校に行かなければならないという義務を天秤にかける
「うん。睡眠欲」
圧勝だった
ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・
それでも関係ないといった様子で目覚ましはなり続ける
ピピピ・・ピピピ・・ピピピ・・ピピピ・・
ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!!
「うるせえ!」
目覚ましを叩きつけるようにして止める
結局、目覚ましに負ける俺だった
「ハア」
仕方なしにキッチンへとまだ起きて間もないためフラフラとしながら歩いてゆく
「まあ、簡単なものでいっか」
見てみると時間もいつもより少し遅れている
とりあえず簡単に食事をすませた
「昼食は・・・まあ学校で買うか」
いつもなら弁当を作るのだが・・・仕方ない
学校へ行く用意をすませて俺は玄関を開けた
「れーーーーいくーーーーーん!!」
「おつかれさまでした」
すぐにドアを閉めた
と同時にバン!とドアが大きな音をたてる
一拍おいてから再びドアをあけた
「よう」
ドアにへばりついているやつに声をかける
「お・・・は・・・よ・・・う・・・」
ずるずるとそのまま落ちていく
腕時計を見た
時間。ちょっとヤバイな
「ほら、早く行くぞ」
倒れたまま動かないこいつ・・・秋を無理やり持ち上げる
「なんだよーーー零。いつもより遅いから迎えに来てやったのによーー」
そう愚痴を言いながら秋は立ち上がる
「わりいわりい、ちょっと寝坊してさ」
「まあ、別にいいけどよ」
秋のこういうところが俺は好きだ
さっぱりしてるっていうかひきずらないっていうか
「行くか」
「ああ」
そう言って秋はすたすたと歩いていく。俺はちょっと小走り
秋が陸上部であるのと関係があるのかないのかは分からないが、こいつは歩くのが速い
特に階段。こいつすべってるんじゃねえか?ってぐらい速い
そのおかげでこっちは結構全力で歩かなくちゃならない
いや、もう少し遅く歩けって言ったことはあるんだが
「おう、わりい」
そうあやまると再び同じスピードで歩き出す
もうあきらめてるから別にいいんだけどな
俺の住んでいるところはマンションの二階
エレベータをつかうにもなんだか微妙な距離のため普通に階段で降りる
既に秋は半分以上降りていて後ろ姿である少し茶色がかった髪が見えた
別に染めているわけではないのに日光にあたるとなんだか茶色に見える
一度染めているのか聞いたことがあるのだが秋は
「めんどくさいから、それに俺がしても意味ねえだろ?」
・・・こいつは、自分の顔が並だと思ってやがる
事実は秋の考えとはちがって普通にかっこいいし、モテる
腹が立つことに高校に入学して1ヶ月で何人かにコクられた
しかも全部こいつはそれを拒否していた
「おせーぞ」
秋は階段を降りたところで待っていた
「秋が歩くの速いんだよ」
「零が遅いんだよ」
いつものやりとり
「遅いよーーー零ーーー」
後ろから呼びかけられる
髪を後ろでひとつにまとめたポニーテールの女子・・・春だった
「待ちくたびれて近くのコンビニで昼食買ってきちゃったよ」
「わりいな、寝坊してさ」
「いいよ、別に。あ、あと零も昼食いるでしょ?」
そういってコンビニの袋の中からいくつかパンを差し出す
春のこういうところに驚かされる
いつも俺は弁当を持参している。それは春も知っていることだ
「なんでわかったんだ?」
「ん?なんのこと?」
「昼食」
「いや、零が遅れるときなんて寝坊くらいのものでしょ。弁当を作る時間もないくらい遅れるのは分かってたからってあれ?弁当作ってきた?」
「いや作ってない。サンキューな」
そう言いパンを受け取る
春はよく気が利く。というか俺たち三人は小学校の頃から、俺と春は幼稚園の頃から一緒でなにも言わなくても理解し合えるような存在だった
「時間もやばいし若夫婦さんたち、行きますよー?」
秋はそうヤジをとばしてくるんだけど・・・多分、秋は俺たちが好き合っていると思ってる
けど・・・違うんだなあこれが
「ち、ちがうってば!」
春は、あせったように手をブンブンと振り回してそれを拒否している
春は、秋のことが多分好きだ。しかも小学3年生ぐらいから
俺の直感が正しければ。の話だけど
そりゃあ春が俺のこと好きならうれしいよ?春はかわいいし、よく気が利くし
だけどそれはありえないと思う。というか絶対春は秋のことが好きだ
そんなわけで俺は何も口出しせずに見守ってるんだけど・・・・
発展しないんだわ。これが
秋はそういうのには興味がないのか無反応だし、春は恥ずかしがっているのか何も行動には移してないように思える
まあいつか秋が気づくだろう。って俺も何もしてないんだけどな・・・
と、いうかよく考えてみると俺たち3人の中でモテないのって俺だけなんだよな・・・・
考えるだけで悲しくなる
彼女いない歴16年ですよ!?よりゃあ秋だってそれは同じだけど過程がちがうじゃねえか!
まあそんなことは口にはだせねえんだけど・・・
「なーにしてんだ?零。早く行くぞ今学期学校最後の日だっていうのに遅刻しちまうぞ」
俺が歩くのが遅かったせいか秋が怪訝そうにこっちを見てくる
「少し考え事しててさ・・・そうだな!早くいこうぜ」
夏休みまであと数時間だった