第18話 炎の魔神
カエデの起こした爆発で舞い散った火の粉が白く輝き消えると、周囲がグラグラ揺れはじめる。
「火事の次は地震!?」
「火事を起こしたのは小娘だろう!」
「あいたっ!」
しれっと忘れ去っている元凶を頭突きで制裁したイモムシは、我らの情報を確認して異常な状況を看破する。
「しかし妙だ。我らの情報によれば、このビルだけが揺れているな」
「むう……。カエデにコレの相手は厳しいね。帰るよっ!」
額に二本の指を当てていたアゲハはカエデの首根っこを掴むと、その場から飛び退いた。あまりの勢いに「グエーッ」と生きている手荷物が鳴き声をあげる。
同時に廊下は真っ赤に溶け落ちて、無数の炎の腕が巫女達を捕らえんとつかみかかってきた。
「危なっ! 恐っ! なにこれ!?」
「まあ、《《お腹》》の中だよ。カエデも霊力が高まって頑丈になってきたみたいだから、ちょっと手荒に行くよっ!」
「お腹の中? これ以上に手荒って!? ぎゅうう~!?」
一歩の踏み込みで床を崩壊させた巫女は、反動で天井を何度か突き破り、行く手を塞ぐ壁を粉砕し、火頭の群れと炎の腕達を突っ切った。
「サヨナラっと!」
彼女は窓を蹴り破って燃えさかるビルから脱出すると、隣接するビルとビルの間を蹴り登って近くの屋上に着地した。
あまりのメチャクチャな機動に、片手で持ち運ばれている荷物は目をグルグル回して気絶している。
彼女達が脱出したビルは巨大な炎の柱と化し、天よ焼けろばかりに燃えさかる。
地上では大勢の人々が遠まきに火事を見物しており、悲鳴を上げたりスマホで動画を撮ったりと好き勝手に騒いでいた。巨大なガイコツが消えても、まだ残っていたのであろうか。
それを熱気と火の粉のベール越しに見おろした巫女は舌打ちする。
「っち、少し抑えておかないと被害が出すぎるかも。危機感のない連中だよ」
「うっわー! スゴい火事!?」
「貴様の起こした火事だぞ?」
「げぇーっ!? 逮捕されちゃう!?」
先ほどまで気絶していたカエデは早くも目覚め、目の前の大火事に驚いたりイモムシに断罪されたりと忙しい。
緊張感のない依頼主に苦笑したアゲハは、勘違いを訂正する。
「いや、アレは火事じゃないんだよ。さっきお腹の中って言ったよね?」
「そーいえば、お腹の中って言ってたぞ! どーゆー意味だったの?」
「ほう?」
その言葉にビル放火の罪から逃れる一筋の光を見たらしいカエデは、過去最大の記憶力を発揮してビル内で巫女が言っていた言葉を思い出した。
イモムシが感心したような声を漏らしたのは、巫女の言葉への興味からだけではあるまい。
「そうだね……」
灼熱を発する巨炎に巫女が視線を向ければ、燃えさかるビルは真っ赤に赤熱して、まるで赤いロウソクであるかのように溶け落ちていった。
いや違う、溶け落ちたロウは不可逆であるはずの時を遡り炎の元へ戻ってゆき、合わさり、一カ所に集中してゆく。
一メートル大ほどの紅玉と化した炎は妖しげに光りながら大爆発。
ビルよりも大きな人型の爆炎を生み出した。
その頭部は青白く燃えあがる。
「さっきまでの私たちは、アイツの腹の中にいたんだ……。まあ? ちょっとした手違いだよ!」
「えええええ!? デカすぎない!?」
「言ってる場合か!? どうやらあのデカブツ、こちらを睨み付けているぞ!」
「さっきまで散々お腹の中で暴れていたからだよ! ちょっとお腹を壊されて、おこみたいだね!」
仰け反って天に怒りの爆炎を吐き散らした炎の魔神は、燃えさかる怒りの鉄拳を振り下ろす。
それは空を覆い尽くす炎の壁となって巫女達に降り注いだ。




