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第十四章:過剰火力の隠蔽と、未知の勢力による追跡

14-1 焦土の生還者と、未知の勢力による追跡の開始

先ほどまで鬱蒼と生い茂っていた森の植生は、事前の計算を遥かに凌駕する暴力的な熱量と衝撃波によって完全に炭化し、無残な焦土と化していた。

極端な高温に晒された土壌の一部は融解して歪な硝子状に変質し、周囲には酸素が焼き尽くされた証左である焦げた土の臭いと、濃密な白煙が立ち込めている。


爆発の余波により深刻な物理的損傷を被った双短剣の男――コンラッドは、へし折れた巨木の陰で静かに息を潜めていた。

衝撃波によって内臓は激しく揺さぶられ、肺葉には熱風による火傷が及んでいる。彼は即座に懐から高純度の回復薬を取り出すと、迷いなく喉の奥へと流し込んだ。薬効が強制的な細胞分裂を促し、断裂した筋繊維と毛細血管を急速に結合させていく。


「……ッ、ふぅ……」


呼吸器の機能回復を確認したコンラッドは、ひどく熱を持った空気をゆっくりと吐き出した。

視線の先には、土煙の向こうで周囲を警戒する四人の冒険者――キースたちの姿がある。彼らを「即座に排除すべき標的」と認定したコンラッドは、静かに双短剣の柄を握り直し、跳躍のための筋肉の収縮を開始しようとした。


その時である。


いかなる大気の揺らぎも、魔力の駆動による予兆も持たず、彼の背後から声がかけられた。


「待て、コンラッド」


極限まで研ぎ澄まされていたはずの感知網を完全にすり抜けたその声に、コンラッドは咄嗟に振り返り、刃の切っ先を音源へと向ける。だが、そこに立っていた人物の姿を視認した瞬間、彼は張り詰めていた殺気をわずかに緩め、武器を下ろした。


「無事だったのですか、オスカー隊長!」


「ああ、爆発が起きる直前に使った空間転移がギリギリ間に合った」


冷徹な声で応じるオスカーの外套には、わずかな煤すら付着していない。莫大な熱量が解放される直前、自らの肉体という質量を別の空間座標へと強制的に書き換えることで、あの理不尽な破壊の波から完全に逃れきったのだ。


コンラッドは視線を再び爆心地の惨状へと向け、拭いきれない疑問を口にした。


「隊長、あれはあそこにいる連中の魔法でしょうか? 自分はあの規模の魔法は見た事も無いのですが」


「いや、どうやら魔道具を使ったものらしい。あの規模の魔法は、単独の魔法使いが使えるものではない。戦場にて魔法使いの集団が行使する、広範囲殲滅魔法に近い威力だった」


魔法陣の展開に伴う術式の記述工程や、大気中の魔力が一点に収束する物理的な現象が一切存在しなかった。巨大なエネルギーが、何の前触れもなく一瞬で解放されたのだ。オスカーの冷静な分析に、コンラッドの目に驚愕の色が走る。


「! まさか、そんな魔道具が存在するんですか!?」


「私もこの規模の威力が出せるような魔道具は聞いた事が無い。それこそ、おとぎ話に出てくる錬金術師の集団が作り出した代物に匹敵するものだ」


過去の歴史書にのみ記されている、自然界の法則を無視した禁忌の産物。それを目の当たりにしたという事実に、コンラッドは鋭い視線をキースの背中へと突き刺した。


「そんな威力の魔道具を、何であんな冒険者風情が持っていたのでしょうか」


「私もそれが知りたい」


オスカーは感情の起伏を一切見せず、淡々と今後の行動方針を指示する。目の前の標的を処理することよりも、その背後に隠された情報の獲得を最優先すべきという冷徹な判断だ。


「やつらをここで殺すのは簡単だが、あの魔道具の入手先や、背後に誰かいるかなど、調査する必要がある。私はキメラの死体とディートの死体を回収して、一度本国に帰還する。お前はやつらを尾行し、素性を調べ上げろ」


「承知しました。それではこれより隠密行動に入ります」


僅かな動作と共に、空間が小さく歪み、二人の姿はその場から完全に消え去った。


コンラッドは独自の呼吸法によって体温と心拍数を極限まで低下させ、周囲の環境に自身の気配を完全に同化させる。キースたちが警戒を解き、再び街道の方向へと歩み始めたのを確認した後、彼は一切の痕跡を残さず、密かに追跡を開始するのだった。


14-2 最大の秘密の告白と、避けられない標的

背後で炭化し崩れ落ちる森の残骸を置き去りにし、僕たちは国境の街ガルドンへと続く街道を急ぎ足で進んでいた。


極度の緊張と身体的な疲労が四人の間に重い沈黙を強いていたが、やがて、先頭を歩くガラムが、耐えきれないというように振り返った。


「なあ、キース……。さっきの、あのとんでもねえ爆発は一体何だったんだ? お前の魔法なのか? それとも……」


「待て、ガラム」


僕は一切の感情を排した冷徹な声で、彼の疑問を物理的に断ち切った。


「事前の計算を大きく外れた未曾有の事態だ。未知の敵の監視が潜んでいないという保証はどこにもない。今回の襲撃者やあのキメラの存在は、国家規模の巨大な組織が絡む極めて危険な厄介事である確率が高い」


僕の言葉に、ガラムが息を呑む。


「ギルドへの報告は、そのまま敵対組織へ情報が漏れる致命的な危険を孕んでいる。僕たちが安全な宿の密室に辿り着くまでは、この件に関する一切の会話を禁止する」


徹底した口止めの指示に、ガラムだけでなくリィンやシノも強張った顔で頷いた。僕たちはその後、ただひたすらに前だけを見据え、無言の強行軍を継続した。



約二時間の後、僕たちはどうにかガルドンの街に到着し、取っていた宿の僕の部屋へと集合した。

僕は室内の空気を極限まで減圧して自分たちの周囲に『真空層』の壁を構築する。音波を伝達する媒質そのものを物理的に排除した、完璧な防音空間の完成だ。


重苦しい静寂の中、僕はベッドの端に腰を下ろし、三人の大切な仲間たちへ視線を向けた。


「……これから、僕がひた隠しにしてきた『最大の秘密』について明かそう」


僕は深く息を吸い込み、すべてを告白した。

無から有を生み出す理外の固有能力、『魔法創造』と『物質創造』。

そして、基礎能力の向上に伴い獲得した未知の『無系統』魔法による、『空間収納』と『魔法錬金』の論理的構造。

先ほどの森を消し飛ばした過剰な火力は、僕自身の保有する魔力ではなく、失われた技術を『魔法錬金』によって強制的に結合させ、事前の計算を遥かに凌駕する暴力的なエネルギー解放を引き起こした『爆裂結晶』という広域殲滅兵器によるものだという事実を。


僕の説明が終わった瞬間、室内を満たしたのは沈黙という名の重圧だった。

事前に聞いていたシノを除く二人は、呼吸すら忘れたように僕を見つめている。ガラムの太い腕にはうっすらと鳥肌が立ち、リィンは震える手で自身の口元を覆っていた。


彼らの反応は至極当然だった。僕が語った内容は、一介の冒険者が抱える秘密の範疇を完全に逸脱している。国家の軍事力を単独で覆しかねない禁忌の力。それは彼らにとって、本能的な恐怖と、未知への畏敬を同時に抱かせる圧倒的な事実だったのだ。


「……信じられない。無から物質を創り出し、過去の遺物を錬成するなんて……」

リィンの声はひどく掠れていた。


「これほどの圧倒的な能力を秘匿し続けていたのには、明確な理由がある」


僕はラグリマの地下書庫で調べた歴史的事実――かつて同じ力を持った先人たちが、例外なく凄惨な死を迎えている事実を語った。

これほど理不尽な力が国家に露見すれば、間違いなく軍事兵器として強制的に徴用される。それは、僕の一生働かずに生きるという目的の完全な崩壊を意味し、同時に、僕の最も重要な仲間である君たちをも、取り返しのつかない戦乱の渦へ巻き込むという、致命的な危険だった。


「……すまない。君たちを信用していなかったわけではない。ただ、この絶望的な情報という重荷を、君たちに背負わせるのが恐ろしかったんだ」


僕が深く頭を下げると、部屋の中にはしばらくの間、衣擦れの音だけが響いた。

やがて、ガラムが大きなため息をつき、重い足取りで近づいてくると、僕の肩を乱暴に叩いた。


「バカ野郎。謝るんじゃねえよ。……お前、そんな規格外の爆弾を、ずっと一人で抱え込んで計算してたのか。これほどの秘密がバレそうになったら、普通は俺たちみたいな足手まとい、真っ先に見捨てて一人で逃げるだろうが」


「……見捨てるなんて、あり得ない」


僕は顔を上げ、ガラムの目を真っ直ぐに見返した。


「君たちは僕の人生計画において、決して切り捨てることのできない最高の価値を持った仲間だ。君たちを失う方が、僕にとって莫大な損失になる。だからこそ、絶対に巻き込まないよう計算を続けてきたんだ」


僕なりの不器用な評価の言葉に、ガラムは一瞬目を丸くした後、照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「ガラムの言う通りよ。あんたがどれだけ私たちの命を守るために動いてくれてたか、一番分かってるのは私たちよ。……むしろ、そんな凄い手札を見せてくれて、感謝したいくらいだわ」


彼らの寛容な理解という、僕にとってこれ以上ない最高の仲間たちの存在に、僕は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


「……ありがとう。君たちをパーティーに誘った僕の判断は、やはり完全に正しかった」


盤石な信頼を再構築した僕は、すぐさま冷徹な視点へと切り替える。


「次は、当面の警戒態勢の構築だ。過去の文献から推測するに、あのキメラは自然界の摂理を無視して造られた人工生物だ。そして、あの襲撃者たちの高度な連携と隠密性……あれは間違いなく、隣国ブルームバーグ帝国か、あるいは現在滞在しているアステリア王国の、どちらかが保有する暗部(非公然組織)だ」


国家という巨大な力を持つ存在が直接介入している案件。

もし自国の暗部であった場合、ギルドへの報告は自ら首を絞める行為に等しい。


「明日は宿屋にて一切の活動を停止して待機し、明後日には本来の業務である商隊の護衛に復帰、早急にラグリマへと帰還する。また、敵の残党による夜襲の危険を排除するため、単独行動を固く禁じる。今夜から、ガラムと僕、リィンとシノの二名一組での相互監視体制を構築する」


僕の絶対的な指示に、三人は無言で、しかし力強く頷いた。


翌朝、朝食のために宿の一階へ降りた僕たちは、街に蔓延する混乱の兆候を目の当たりにした。


「おい聞いたか!? 昨日の中立地帯での大爆発!」

「ああ、上空が真っ赤に染まってたらしいな。巨大なドラゴンのブレスに違いねえ!」

「バカ言え、帝国が新兵器を使って侵攻を仕掛けてきたんだ!」


周囲の冒険者や商人たちが交わす、根拠のない噂の数々。

僕が上空で爆裂結晶を起爆させたことで、光と衝撃波が遠方からも鮮明に観測されてしまったのだ。事態が想定以上に大規模な騒ぎになっていることを察知した僕は、顔を寄せ合い、事実確認と今後の動向を探るべく、ギルドでの情報収集を提案した。


ギルドへ向かった僕たちは、前日に討伐したフォレストウルフの部位換金を申し出つつ、窓口の職員への接触を試みた。僕は肩をすくめ、いかにも『昨夜の爆発音に怯えて眠れなかった、気弱な辺境の冒険者』という完璧な擬態を作り上げる。


「あの……すみません。昨日のもの凄い爆発音、一体何だったんでしょうか? もしかして、帝国が攻めてきたんじゃ……」


不安げに尋ねながら、僕は窓口の職員の目の動き、こわばった指先、そしてギルドの奥で慌ただしく書類の束を抱えて走る上層職員たちの動きを、冷徹な目で監査していた。


「ああ、あの騒ぎですか。皆さんも不安ですよね……。ですが、ギルド側でも情報を集めている最中で詳細は不明なんです。明日には現地調査の特別依頼が発行される予定ですが……」


職員の苦笑いと、明確な情報が降りてきていない現場の混乱ぶり。

その回答に、僕は内心で安堵した。組織特有の初動の遅さだ。敵も、ギルドも、まだ事態の全貌を把握しきれていない。僕たちは、追及を逃れるためのわずかな時間的猶予を得た。



再び宿屋の密室へと撤収した僕たちは、今後の長期的な行動方針についての話し合いを開始した。


「結論から言う。ラグリマへ帰還した後、僕たちは急ぎ他国へ拠点を移し、脱出すべきだ」


僕の大胆かつ極端な方針転換に、三人が目を丸くする。


「襲撃者が帝国側であった場合、国境に近いラグリマは位置的に致命的な危険地帯となる。逆に王国側であった場合でも、あの異常な爆発の震源地付近にいた僕たちが疑われれば、国からの苛烈な尋問や拘束は免れない。いずれにせよ、現在の国に留まることは、破滅の道を突き進むに等しい」


「おいおいキース、いくらなんでも大袈裟に考えすぎじゃねえか? 俺たちみたいな下っ端の冒険者が、国から目をつけられるなんてよ」

ガラムが苦笑しながら反論するが、僕は冷水を浴びせるように告げた。


「相手の軍事的な練度を甘く見るな。もしラグリマに留まり、僕たちの関与が疑われた場合、連中は僕たちを直接狙うとは限らない。……最も確実に君たちの身動きを封じるため、君たちの育った『孤児院』を人質として徹底的に攻撃してくるのは当然の帰結だ」


「っ……!」


『孤児院が標的になる』。

その冷酷な事実に直面し、ガラム、リィン、シノの顔から血の気が引いた。彼らにとって、そこは何よりも代えがたい大切な場所だ。


「……すぐに答えを出す必要はない。この重大な決断は、あくまでラグリマへ帰還した後の実行計画だ。今は道中の期間を利用して、各自で考えを深め、覚悟を決めておいてほしい」


未曾有の危機と、自己の人生の根本を揺るがす大きな転換点。

突きつけられた重すぎる課題を前に、四人は夕食の味も感じられないまま、それぞれが己の存在意義と今後の道に思いを巡らせながら、長く静かな夜へと沈んでいった。


14-3 不気味な空白と、近づく破滅の足音

翌朝。冷たい朝靄が立ち込める中、僕たちは当初の契約通り、ラグリマへの帰還を予定しているガロード商会のハンスたちと合流した。


「キースさん……一刻も早く出発しましょう。昨日の中立地帯での大爆発、街中その噂で持ちきりです。もし帝国が新兵器を用いて侵攻を開始したのだとしたら……国境に近いこの街に留まるのは危険すぎます。ラグリマへ、急いで帰りましょう!」


荷馬車の御者台で手綱を握るハンスは、血の気のない顔で周囲をキョロキョロと見回しながら、切羽詰まった声で出立を急かした。その怯えきった様子に対し、僕は努めて平坦な声で返した。


「ええ、同感です。ギルドから正式な危険勧告が発令されていない現状で歩みを止めれば、契約不履行による多額の違約金が発生します。何より、戦争という最悪の事態を想定するなら、この国境付近から速やかに撤退するのが最も合理的な判断です。……ですが、ハンスさん。恐怖に駆られて無闇に馬を急かせば、かえって盗賊や良からぬ輩の目を引く不要な危険を生み出します。僕たちはあくまで『何も知らない一介の護衛冒険者』です。急ぎつつも、外見上は堂々と、予定通りの速度で進みましょう」


僕の極めて論理的な現状分析と方針を聞かされ、ハンスはこわばっていた肩の力を僅かに抜き、深く頷いて馬車を出発させた。僕たちは内心の焦りを隠し、あくまで「日常業務をこなす商隊」としての完璧な擬態を維持したまま、ラグリマへの帰路へと就いた。



商隊の進行中、僕たちは未知の追手の襲撃に備え、極限の警戒態勢を維持し続けていた。しかし、一日目、二日目の野営を終えても、いかなる物理的な襲撃も、魔力による探りの気配も発生しなかった。


そして三日目。ラグリマの手前に位置する農村リルムントへと向かう街道にて、馬車に揺られていたガラムが、堪りかねたように低い声を落とした。


「なあ、キース。……丸三日、全く気配がねえ。俺の勘だが、ただの『追いはぐれ』じゃない。連中、最初から俺たちをこの道中で狩る気なんて無いんじゃないか……?」


Cランクの熟練戦士としての前衛の本能。その不気味な空白に対する疑念は、僕自身の冷徹な予測と完全に合致していた。


「……その直感は正しい。事態は一番厄介な方向へ進んでいると考えるべきだ」


僕は周囲の森へ鋭い視線を配りながら、敵の行動指針における三つの可能性を提示した。


「一つ目は、敵の人員不足だ。キメラと共にいた襲撃者三名のうち、二名は確実に僕たちが倒した。残る一名は、一人で僕たちを追跡するのを諦め、回収した仲間の死体とキメラの残骸を持って、本国へ報告に帰ることを最優先した可能性」


「……なるほどな。それなら、すぐに追手が来ることはないわけだ」


「二つ目は、連中がアステリア王国の暗部だった場合。この場合、既に僕たちの身元は割れている。道中で監視の目を光らせるまでもなく、拠点であるラグリマへ帰還するまで、あえて泳がされている可能性だ」


そこまで告げると、僕は一度言葉を切り、胃の奥に鉛を飲み込んだような重い息を吐き出した。


「そして三つ目。これが二つ目の理由とも重なるが……連中の目的が、僕たちの『排除』から『調査』へと移行した可能性だ」


「調査? なんでだ。口封じするなら、さっさと殺しに来た方が確実だろうが」

ガラムが深く眉をひそめる。


「考えてもみてくれ。あの大爆発という異常な事態を前にして、国はどう動く? あの規模の魔法を僕たちがどうやって引き起こしたのか、また、いつでも発動できるものなのか。それが不明な現状において、ただ殺すよりも、生け捕りにして背後関係や技術を調べ上げる方が、国にとっては計り知れない利益になるんだ」


「……っ」

ガラムの息が止まる。リィンとシノも、僕の言葉の真意に気づき、顔色を変えた。


「殺害が目的ではない場合、僕たちを確実に縛り付けるため、身内を誘拐するなどの『人質をとる』危険性はさらに跳ね上がる。……孤児院が狙われる可能性が、より現実的なものになったということだ」


残酷な結論を突きつけられ、三人の顔が土気色にこわばった。

ガラムの太い腕には青筋が浮かび、リィンは自身の弓の柄を、指の関節が白くなるほど強く握りしめている。彼らにとって孤児院は、自らの命を捨ててでも守るべき絶対の領域だ。



(もし、あの過剰な火力が『魔道具』によるものだと露見すれば、どちらの国の暗部であれ、僕たちは全員捕らえられ、徹底的な尋問を受けるだろう)


馬車の車輪が土を噛む単調な音を聞きながら、僕は内心で最悪のシナリオを組み立てていた。


(……いや、だとしたら最悪のケースは――もしあの爆裂結晶を、僕が無から『創造』できると知られた場合だ)


待ち受けるのは、良くて軍の施設での生涯監禁。最悪の場合は、国家の所有物として奴隷契約を強制され、生きた魔道具の生成装置として一生を終えるという、死以上の絶望的な破滅だ。


孤児院の子供たちや、ガラムたちが人質に取られた場合、どうなる?

かつての冷徹な僕であれば、「致命的な負債」と判断して即座に見捨て、一人で逃亡の道を選んだはずだ。だが――。


僕を信じ、規格外の秘密を共有してもなお笑いかけてくれた彼らを、もはや僕は切り捨てることなどできない。その確かな感情を、僕は明確に自覚していた。


(もし彼らを見捨てれば、僕の人生そのものが完全に破綻する。……だからこそ、国という巨大な力すらも盤上から叩き落とすような、極端な打開策を構築しなければならない)


静かに、しかし強烈な決意が僕の胸の奥で燃え上がる。


(……歴史書に記されていた、あのスキルの『一人目の所有者』の末路。……『巨万の富を得た後、大戦の火に巻かれて戦死』)


以前、『空間収納』の能力を検証した際、僕は一つの推論を立てていた。一人目の所有者はその異常な運搬能力を国家に目をつけられ、軍の補給要員として強制的に徴用された結果、最前線で使い潰されたのではないか、と。


あの時はまだ、最悪の状況を想定した机上の空論に過ぎなかった。だが、今は違う。


『爆裂結晶』という戦況を単独で覆す広域殲滅兵器を錬成できる存在。もしそれが露見すれば、単なる荷物持ちどころの騒ぎではない。国家の最重要兵器として、文字通り死ぬまで鎖に繋がれるのは明白だ。


(僕の現在の歩みが、あの惨劇の軌跡に、恐ろしいほどに重なり始めている……)


近づいてくる不条理な破滅の足音を幻聴のように聞きながら、僕は冷たい汗を握りしめ、リルムントへと続く土埃の舞う街道をただ静かに見据えていた。

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