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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
3章:五頭龍と鉄巨人と此処に来た理由
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93話:高校生 対 神話(浅倉朝太郎)

「浅倉くん! 始まったみたいだ」

校庭からヘリは飛び立ち、江ノ島。五頭龍に向かう中、仲間達は動き出していた。


村尾、峰岸、浜辺。それぞれが陸海空の場において五頭龍の気を引くため、光と音を放つ。

龍に近づいていくと改めてその巨大な存在に圧倒される。


たしかに、あの首から放たられる一撃を受けたら、このヘリは木っ端微塵。自分も壊された破片の一部となり、海の藻屑と消えるだろう。


「くそ。一体どうなってるんだ」

聡美はヘリの操縦に悪戦苦闘していた。というのも、当然で地上よりも風の勢いは強い。原理は不明だが、五頭龍の周りには台風にも似た風が吹きつけ、より強まっているようにも見えた。


「聡美さん! 右下。あの首の方へ行けますか」

東の海に近い一本は村尾の演奏に明らかに気を取られていた。


初めてみるであろう小型船、そして初めて聞くであろうロックの音色に首はどんどん、と村尾に釣られて行く。


近寄るとしたら今しかない。


「浅倉くん。写真はこのまま撮れるかい?」

聡美が大声で尋ねる。


「か、確認します」

首から下げたカメラを取り出し、レンズを除く。


そして、その時改めてこのカメラは異質なものであることがわかった。ファインダー越しに見えるのは、肉眼で見る光景ではなかった。


真っ暗で漆黒の世界。その中で赤い気流のようなものが絶えず動いている。再びファインダーを外す。すると五頭龍の顔が迫りつつあった。そして、もう一度覗き込む。


すると、赤い気流のようなものが、龍の毛細血管のように張り巡らされ、流れていることがわかった。そして、脳に当たる部分であろうか。そこに赤い気は集まり、炎が燃えているようにも見えた。


そして、それを写真で捉える必要があると本能的に悟った。しかし今ヘリは揺れ、その全てをフレームに収めるのは困難だった。


「聡美さん! 揺れを抑えられませんか!?」

「バカ言わないでくれ! 墜落させないのが精一杯なんだ」

ヘリの窓を開ける。顔の皮膚が吹き飛びそうになる中、体を乗り出す形で再びカメラを構える。


手が風とヘリの振動で大きくブレる。ヘリは五頭龍の正面へ回るように動きだす。


──今だ。


一瞬ではあるが、赤い炎の全てをしっかりと収めることができた。そしてシャッターを押す。その時、キーンとかん高い音と共に自分の持つカメラが光る。


すると、先ほどまで牙を剥き出しに唸り、髭を逆立てていた龍が口を閉じ、まるで菩薩のような遠い目に戻っていた。


もう一度ファインダーを覗くと先ほどまで赤い炎が見えていた場所は、青く柔らかな水のような気へと変化していた。これが、草薙の剣の力。龍の怒りをこのカメラで抜き取れたということなのだろうか。


「風が少し柔いだ。浅倉君。もしかして、成功したのか!?」

「た、たぶん。でもまだ4本あります。次の頭のところまで飛んでください」


もう一本の首はギャザーズの爆音に吸い寄せられていた。再びファインダーを覗く。


するとこの頭も、先ほどと同じように赤い炎を宿していた。ここからでは距離は遠い分、フレームに龍の頭は収まる。一度シャッターを押した。しかし、さっきのような閃光は起こらず、また五頭龍の様子も変わらなかった。


そして、それ以上に、カメラを見た時に巨大な液晶に「6」という数字が書かれていた。


これは、つまり。


「聡美さん。ダメだもっと近いてくれ」

「くそ。無理難題ばっかだな。ちくしょう」

ぐわんという揺れと共にヘリは下降する。ギャザラーズ達は龍の近くまで迂回するようにバイクを走らせている。


次第にそのエンジン音も耳障りなほど聞こえてくる。


「グオォ」

龍は吠えると、走っているバイクの何台かが吹き飛んだ。


「くっそ」

ヘリが道路にぶつかるか寸前のところで、口を開く龍と倒れる人の合間に割ってはいる。


そして、再びファインダーを覗く。赤い気がフレームに入っていることを確認し、シャッターを押した。

すると、先ほどと同じように高い音と共に閃光が放たれる。すぐさま目視に戻した時、口を大きく開いていた五頭龍の顔は先ほどと同じように落ち着いた顔つきに戻っていた。


「いいぞ。いいぞ浅倉君」

聡美はヒャッホウと見た目にそぐわない喜びの声を上げた。


これで左の手のひらで言うところの小指と薬指の怒りは抑えられたことになる。


しかし、まだ三本残っている。そしてカメラの液晶には先ほどまでとは違い「5」の数字が書かれていた。さっき見たときより1減っている。これは、残りの枚数。つまりシャッターに押せる回数には限りがあると言うことだ。


そう分かった時、手のひらに汗が滲み出る。ミスは二回しか許されない。つまりそういうことだ。


浮上したヘリはそのまま江ノ島を周り、親指に位置する頭まで回り込んだ。上空では今も花火が打ち上げられており、龍の眼にそれが写ってみえた。しかし。空を見上げて、花火を見ていた龍はこちらにも気がついた。


「グゥオオ」

こちらに向かい雄叫びを上げる。その瞬間ヘリは大きく揺れる。


「く、くそ。あ、浅倉君! シャッターを押してくれ」

慌ててシャッターを押す。しかし、それは空振り。相手の気を捉えられていない。爆風が押し寄せヘリは煽られる。


「こ、この野郎」

聡美は暴言が放ちながらも、何とか墜落は阻止したようだった。危うく反動でカメラを落としそうになる。


龍は次第に慣れ始めたのか、ヘリの存在にも気づき始めていた。


「もう一度上がってください!」

「言われなくても」

バババ、とものすごいプロペラ音を響かせ、空へと上がる。


先ほどの頭が次こそ噛み砕こうと近づいた。しかし、それはチャンスでもあった。正面から向かってくるのであれば、それは絶好のアングルでもある。ファインダーで気を捉えた時シャッターを押した。


そして三本目の怒りも抑えることができた。

残りの枚数は3。先ほどは慌てて一枚無駄にしてしまった。


残るは龍の首は二本。だが、すでに人差し指と中指に当たる龍の頭は自分たちを捉えていた。

眼下の峰岸、海の村尾は懸命に陽動を続けてくれている。花火の光も止むことはない。だが、五頭龍も慣れ始めているのも事実だ。


「くそ。ちゃんとしろ」

ヘリは無茶な操縦を続けていた影響なのか言うことを聞かなくなっているらしい。


高度を上げようとしても、龍の頭は仰ぎの画角に止まってしまう。


そして人差し指の龍は自分たちへ正確に狙いを定めていた。そして、次の瞬間、鋭い動きで自分たちに突っ込んでくる。

そして、またしても反射的にシャッターを押してしまう。しかし、動きが止まることはない。


失敗。さらに眼前に龍の巨大な牙が。


「浅倉くん!近くに捕まれ!」

龍の頭が激突する。



そう思われたその時。


違う物音。違うエンジン音と共に、巨大な物が衝突し合う音。


「お、親父」

その龍の一撃を止めたのは隻腕となったイザナミであった。


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