87話:人類断罪(五頭龍)
天女は死んだ。
人のために、とかつて約束をした天女は死んだ。だから俺は言ったんだ。人間なんて信じるなと。
言いようもない怒り。そして、ようやく思い出した自分の力の本質。
今、こうして眼前に広がるのは大きく変わった関東の大地。櫓とは比にならないほど巨大な構造物が大木のように聳え立つ。自分に立ち向かってきた巨人はもはや敵ではなかった。
天女を屠った人間は三本目の咀嚼により肉塊と化した。今頃我が胃の中で、後悔と恨みを思い募らせているであろう。
夕焼けは相変わらず眩しい。しかし、それ以上に厄介なのが、時折浴びせられる閃光と爆音であった。
「ち。眩しいったらありゃしない」
二本目は面倒くさそうに吠えた。
「どうやら、人間は色々な技を覚えたようだな。だが、この光と音は鬱陶しいにもほどがある」
三本目も言う。
どれほどの眠りについていたのかは分からないが、弓矢の子供じみた攻撃ではない何かを我が身に向けて放っていることは事実であった。無論、鱗一つこの攻撃で剥がれることもない。
ふつふつと込み上げる怒り。天女が願った人間の未来というのは、こうも醜いものであったのか。
確かに人は増えたのだろう。だが、本来豊かであった緑は消え失せ、岩山にも似た灰色の世界と成り果てた。
これが、人々の想いだったのだろうか。人々が自身の数を増やすということ。ただ、そのために動植物の棲家を破壊しても良いということだったのか。所詮、人間というのは畜生の類と同じだったということだ。
彼らもまた動物で、自身の種を繁栄させることその一点のみを目指しているのだ。あのとき自身が鳴らした警鐘、天女の人の可能性についての願いなど意味がなかったのだと改めて悟った。
巨人は火花を散らしなお、向かってくる。
「なんだなんだコイツは」
四本目は再び小突いて見せた。何度もみた光景で巨人は遥か方法に吹き飛んでいく。
「天女も亡くなった今、この動物たちに慈悲はない。自然の調和を乱す生命は滅ぼすしかなかろうな」
自分の言葉に彼らも頷いた。
まずはこの地を見通しの良い開けた大地に戻してやろうではないか。そのために、一度あの江ノ島に戻るとするか。
飛び交う小蝿と、歯向かう蟻との戯れはもう終わりだ。




