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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
3章:五頭龍と鉄巨人と此処に来た理由
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85話:パニック(聡美雄吾)

目覚めると、どこかの家屋の中にいることに気がついた。


「だ、大丈夫ですか!?」

自分を覗き込んだのは一人の少女であった。浅黒い肌に大きな瞳がこちらを見ていた。


「ちーちゃん! 起きたみたい!」

彼女は誰かを呼ぶ。するともう一人の少女が顔を覗かせた。


「ここは、鎌倉第一高校です。あなたが、パラシュートで落ちてきて、気を失っていたので保健室まで運びました」

ちーちゃん、と呼ばれた少女は冷静に状況を告げた。


窓をちらりと見る。空は赤くなり始めている。夕時に近づいていることを悟った。なんとか体を起こす。じりりと鈍い痛みを感じるが、五体満足で、問題なく動いた。そして、ようやく次第を思い出す。


自分は五頭龍と接触したのだ。乗り込んでいた戦闘機の翼が折れ、なんとか脱出した。


「自衛隊の人ですよね。まだ動いちゃダメです」

起き上がり、あたりを見渡すと学校の保健室のようであった。そこには所狭しに怪我人が肩を寄せ合っている。


「──で、電話。電話はあるかい」

とりあえず、本部に連絡を取らなければならない。そう思い、近くにいる少女へ尋ねる。


「電話は通じないんです。あ。でも今、やっとヘリコプターが来たって」

浅黒い肌をした少女はいう。救助がようやく動き出したということなのだろうか。自分が眠っていた間に何が起きたのか。


「五頭龍は。あの怪物はどうなった」

「ロボットが現れて、その今戦っています。でも、龍がどんどん大きくなってロボットも負けそうです」

──ロボット?

そんな作戦聞いていなかった。ベッドから体を下ろす。


「う、うごけるんですか」

「大丈夫。僕じゃなくて他の人をベッドで寝かせてあげてくれ」

「わ、わかりました」

困惑する少女達を背に、扉を開ける。廊下にも、避難している人たちが大勢いた。そして、迷彩服を着ている自分にそれぞれ気がついた。


「じ、自衛隊の人ですか。一体何が起きているんですか。はやく避難させてください!」

「子供がいるんです。私達を助けて」

懇願するように、近寄ってくる人たち。自分達は守るべき人たちを守れてなんていなかったのか。


そもそも、作戦を開始した時に避難はされていなかったのか。自分達は民間人がまだ逃げている最中に攻撃をしかけていたのか。


す、と血の気が引いていくのが感じ取れた。本部は一体何を考えているのか。押し寄せる人たちを(なだ)めながら、廊下から校庭へと飛び出した。すると輸送ヘリが一機、着陸していた。


搭乗できる以上の人だかりが校庭にできている。それ以上に風が強すぎる。よく、ヘリはここに着陸できた。


そして、ごうん、ごうんと地響きが鳴り響く。


その音の先を見る。すると凄まじい光景が存在していた。夕日に照らされた五頭龍。それは、気を失う前に対峙した時よりも倍以上の大きさに巨大化していた。それを隻腕になったロボット。謎の兵器が立ち向かっている。そして、さらに五頭龍とロボットに対して、爆撃とおそらく戦車の砲撃が浴びせられている。


「む、むちゃくちゃだ」

ビュウン、とジェット機の空を切り裂く音。それはF80、航空自衛隊の戦闘機の音。そして、どん、どんと爆撃が行われる。街は火の海で黒煙が待っている。


この状況を見るに、避難が完了しているなど全くの出鱈目(でたらめ)だ。そして、謎のロボット。あれは一体どこの国のものなのだ。


少なくとも我々自衛隊の攻撃が五頭龍には全く効いている様子はない。


ぐるぐると思考が回る。しかし、正当で、納得できる答えは出てこない。輸送ヘリへと走り、案内をしている隊員に声をかけた。


「三沢の聡美少尉だ。状況は?」

「あ。少尉殿ですか。わ、私は横須賀の。ちょっと、もう乗れません!」

まだ若い男。おそらく二十いくつかの新米と思われる隊員が誘導を行なっていた。


「状況は。状況はどうなっている!?」

「わ、わからないんです。私たちだけが、とりあえずここに辿りつけたんです」

「どういうことだ?」

「風が。突風の影響でヘリがまったく使えないんです。私たち以外のヘリも飛んだんですが、うまく着陸できたのは私たちのだけで」

「本部に連絡を取らせてほしい。機内の無線は使えるか」

彼は押し寄せる人を押させながら、何度も頷く。


運転席へ向かい、手を振るう。それに気がついた隊員は降り立った。


「あ、あなたは」

「空自の聡美少尉だ。無線機借りられるか」

「しょ、承知しました」

「助手席を借りる。ちなみにこの風の中で民間人を乗せて飛ぶつもりだったのか」

「は、はい」

「馬鹿野郎。今はやめとけ。ただでさえ降りたときと重量が違うんだ。この風だと墜落するぞ」

「は、はあ。しかし、任務は避難民を運ぶことです」

「それは一旦忘れろ。避難民を運ぶことが確かに任務なのかもしれないが、それは無事に安全にという但し書きが頭につく」

助手席に座り無線を回す。


「こちら三沢所属の聡美。聞こえるか。こちら第二師団の聡美」

ジジとノイズが混じるだけで、本部との更新が取れない。


「ずっとこの調子なのか」

「はい。ここ数時間、本部との連絡も途絶えています。磁気嵐なのか、なんなのか」

「──そうか。とりあえず避難は、空路は避けた方が良い。陸路だ。乗り捨てられた車を片っ端から集めるんだ。それで、そのまま東京方面へ逃す」

「わ、分かりました」

彼らは明らかに狼狽していた。おそらく本来であれば隊長職がこの場を仕切るはずなのだろうがリーダーは不在となってしまった。


「皆さん! ヘリは危険です。陸路で、陸路で避難をお願いします」

今もおしくらまんじゅうになりかけているヘリの内部へ叫ぶ。


「どういうことだ!? 飛ばないのか」

事態は最悪であった。パニックが起きている。


少しは、保健室で介抱してくれた少女達を見習ってほしいものだった。



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