78話:龍 VS 巨大ロボット(村尾虎丸)
五頭龍は侵攻を開始した。境川を北上する形で龍は市街地をゆっくりと進んでいく。その最中も自衛隊からと思われる攻撃が無数にあった。
「まだ、逃げ遅れた人がいるんだぞ」
父、毅は爆撃による風圧を腕で防ぐ。
まだ、自分たちも含め避難は全く終わっていないはず。にも関わらず、五頭龍への攻撃がなされている。五頭龍とは一キロメートルほど、離れてはいるが、砲弾の地響きはここにも届いている。
「親父どうする?」
柊木の父親についての消息は依然不明のまま。今も逃げ遅れた老人たち十名程度を引き連れ安全な場所を探し歩いていた。
「川とは逆。鎌倉第一高校なら安全なはずだ。虎丸。周りをよく見ておけ。まだ逃げ遅れた人がいたら担いででも逃すんだ」
父が先導し、自分が最後尾で学校を目指す。
五頭龍の活動が激化したことを受け、風は台風よりも強く吹きつけくる。おそらくその影響からか、建物の一部は窓ガラスが割れ、中には屋根が吹き飛んでいる家屋もあった。
──なんで、こんなことに。
正直、腑に落ちるわけもない。祭の日以降、この街は誰も想像できない事態に巻き込まれている。はるか昔から存在する物を壊していく。本当だったら夏休みも終盤。バンドメンバーで集まって納涼ライブをしているころだ。彼らは無事なのだろうか。浜辺たちも無事なのだろうか。ぐるぐると重い足を漕ぎ考えた。
しかし、この事態の一端。桜井の死から始まり、父は登鯉会のメンバーであったこと。少なからず、この波紋の中心部に自分はいる。
「俺がやらなきゃ」
足を突っ込んだからには、自分ができることをやらなければならない。
どうせ、自分の強みは考えることじゃなくて、体を動かすこと。そう決心し、少し先にいる父親を追って歩く。
だが、もしこれが終わったら。五頭龍はいなくなって、この事態が終息したらどうなるのだろう。今回の事件を招いた源は捕まるのだろう。CIAも動いていたんだ。当然だ。
じゃあ、源を助けた人たちはどうなる。入道は死んだ。しかし父は生きている。それならば当然父も捕まるのだろう。
親父はいなくなるんだ。
ぐっと心に手が突っ込まれたような感覚。
その時、再び爆音が響いた。しかし、それは今までとは違う音色であった。
「な、なんじゃあれ」
前を歩く老婆が立ち止まり指さした。
「おいおい」
上空から巨人が飛来した。そして、それは五頭龍に向かい合うように着陸した。
「ロボット?」
自衛隊の秘密兵器なのだろうか。いや。浅倉との別れ際の会話を思い出した。浅倉の父は企みを持っていたこと。彼は五頭龍の復活までのシナリオを描いていたこと。
ロボットはとても大きい。それこそ五頭龍と並んでも遜色ない大きさであった。
「神の使いか」
「ばあちゃん。そんなわけない! 急ごう」
一体全体どうなっているんだ。興奮よりも先に、恐怖を感じる。
ふたたび振り返ると、ロボットは五頭龍に向かって歩き出す。それに対し、五頭龍は五本の首全てがその巨人に向かい伸び吠える。すると、龍の周りに瓦礫が浮かび上がるのが見えた。
「みんな伏せろ!」
数秒後、今まで感じたことがない勢いの突風が押し寄せる。自分の体も浮いてしまいそうだ。
映画でしか見たことがない大激戦が始まった。




