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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
3章:五頭龍と鉄巨人と此処に来た理由
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73話:村尾親子の戦い(村尾虎丸)

「いたか?」

風の影響で、木々は倒れ、店のドアも何処かに飛んでいったのか、さまざな家財が道に転がっている。

ぼろぼろの商店街から戻ってきた父に向かい尋ねるが、彼は首を横に振るった。


空を見上げる。天気は良いが、少し見上げただけで、龍の姿が入り込む。


浅倉たちと別れた後、柊木たちを探しに江ノ島に戻ってきたのだが、その日何の成果もなかった。代わりに源の映像から、柊木鈴音が生きていることは分かった。そして今日、再び江ノ島に戻ってきた。柊純也を探しにきたのだ。だが。


「──けて」

風の音の間を抜ける形で微かな声が聞こえた。


「親父! こっちだ」

店が崩れかけている瓦礫の中、音の主を耳を頼りに進む。

岩をどかすと、額から血を流している老人がいた。


「こっちだ。こっち」

「虎丸が見つけた。みんな来てくれ」

「じいさん。気張れよ」

覆い被さっていた瓦や、柱のかけらを取り除き老人を解放した。すると、父たちを含めた男たちが集まる。


「くそ。この様子じゃまだまだいるな」

「消防はまだ来られないのか」

「他のところで手一杯なんだろ。俺たちでできる事をするしかない。五頭龍さんも時間までは動かないみたいだしな」


昨日、公民館で一夜を明かした。風の影響と五頭龍が現れたことにより警察も,消防も大パニックとなった。しかし、実際に被害は出ており鎌倉周辺では火災や事故が多発していたのだ。

龍は動かない。であれば。


「じいさん。今車が来る。斉藤さん!こっちに車回してくれ」

公民館にいた地域の大人たちが、自然と動き出した。登鯉会と警察であるかも関係なく、「逃げ遅れている人がいるかもしれない」ただ、その善意で龍が鎮座する周辺の捜索が始まったのだ。


五頭龍の復活によって江の島の内陸を向く北側の一部は残り南側が崩落した。おそらくそこにも人はいたはずだ。観光客もいれば住民もいたかもしれない。すでに事が起きてから十時間以上が経過している。つまり待ったなしだ。


「虎丸! もう少し踏み込むぞ」

「わかった」

毅はずんずんと奥に入っていく。


父が登鯉会で重要な役割を、つまり彼自身も国を変えるために行動を起こしていた危険な人物には変わりない。実際それを許しているわけではなかった。

少なくとも、桜井や土肥のような子供を,狙ってまで目的を果たそうとしようとした事は、たとえ寸前で立ち止まったとしても許されるものではない。


しかし父はそれも分かっているのだろう。


だからこそ先陣を切って、一番危険な場所へと進んでいく。上の方の視界には常に五頭龍はいる。


龍が動き出した時おそらく自分たちは下敷きになってしまう距離だ。見上げると、陸の方をそれぞれ見ているようであり、動く様子はない。当然今の自分たちがいる場所はとてつもなく危険だ。


「やっこさんは昼が苦手なのかもしれんね」

作業を手伝ってくれている老人の一人は言う。


「夜行性ってことっすか?」

「わからん。でも、なんだか眩しそうにしている」

実際のところ、ここからでは龍の顔まで見る事はできず、顎付近までしか見ることができない。


「虎丸。次はこっちだ。駄菓子屋の婆さんが座っていた」

毅は手をこまねく。


「今行く!」

父の元へゴミだらけの通路を避けつつ向かう。


「婆さん。立てるか。ここは危険だ」

「ありがとうねえ。でもまさか五頭龍様が実在したとは」

特に目立った外傷はなく無事な様子だ。老婆は龍の方を向いて拝んでいる。


「婆さん立って。ここは危ない」

父は彼女を担ぐ。自分は後ろから、何かあった時のために控えるような形で本島に続く道を戻る。


──その時。


背後から誰かが強く激突するように体が押し出された。


「うわ」

父も体が煽られたのか、前に転げそうになるのを何とか踏ん張った。


目の前の瓦礫たちが一気に宙に舞う。これまで以上の突風が吹いたのだ。そして、頭上からは雷鳴にも似た爆音が降り注いだ。龍が吠えたのだ。そして、建物が軋む音が響く。


「動き始めたぞー!」

前にいた男たちから叫び声が響く。


振り返るとその巨大な図体が迫りつつあった。


「親父!」

「分かっている。くそ。走るぞ」

ガガ、と鈍い音を後ろに感じながら、懸命に走る。


思いのほか五頭龍の動きは遅いらしく、なんとか江ノ電場所まで逃げ切ることができた。


「五頭龍様も意外と優しいのねえ」

毅の背中から降りた老婆は龍を見てつぶやく。


「どういうこと?」

「いや。ほら、最近できた展望台あるでしょうに。そこは人が汗水流して建てたものってわかっているのか、避けようとしているでしょう」

確かに言う通り、龍は江ノ島から離れたところから、そのまま直進すれば良いものを迂回し、横浜方面の陸地を目指しているようにも見えた。


「あ」

放映された内容と、今の話で気がついた。


「親父。多分、源と柊木は展望台だ。だから、龍が避けているんだ」

父は頷く。すると、今度は陸地である背後から飛行機の音が聞こえ、それが龍の頭上を通り過ぎると同時に、ピューと風切り音が響いた。


数秒後、五頭竜の背中が爆発した。


「やば」


自衛隊の攻撃が開始されたのだ。


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