5話:暗躍(秘密結社?謎の集団)
「とりあえず、事態は順調ということで理解して良いのか」
蚊帳の奥に揺れる影から低い声が響く。
「はい。五つの封印のうちの二つの結界は破りました」
返事はない。独特の香の匂いがひどく不快であった。花の匂いとは異なる、甘ったるい匂い。まだタバコの煙の方がマシだと思う。
「となると、残るは三つ。次の結界破りはいつになる」
自分は立ち上がり、強く言い放つ。
「七月七日に再び事を起こそうかと考えております」
「ふむ」
「お主だけできるのか?」
口を開いたのは犬の面を被った男だった。
「もちろん」
心の中で隣の犬の面をつけた小柄な男を蔑んだ。正体は全くわからない。しかし、この主人の野望に憔悴していることはわかる。自分が行おうとしている手柄に嫉妬しているのか。
「猿」
「は」
「行うであれば滞りなくやれ。野望の成就には必ず封印を解かねばならぬ。最近ここいらを根城にしている連中も気にはなる」
「例の企業の事ですか」
「左様。猿は耳が早い」
「ありがたきお言葉です」
「いいか。事態は一刻を争う。我々の動きは今後次第に大きくなっていくだろう。そうなると公僕はおろか国家の犬にも嗅ぎ付けれる」
低い声が獣の唸り声のごとく室内に響く。主人は怒っているのだ、とその時はじめて悟った。
「定例は終わりだ。皆の衆の活躍を祈る」
そう最後に言葉を残し、蚊帳の明かりが消える。すす、と服が擦れる音が聞こえ、棟梁が退室したことを悟った。
気がつくと、隣の犬の姿もすでにいなかった。身のこなしが早い男ではあるが、その素性は全くわからない。少なからず、この鎌倉に住む人間であることは間違いはないが。
自分たちの組織を構成する者たちの名前はおろか、顔も見たことはない。ただ、区別するための「面」と「呼称」だけを知っており、自分はそれ以外の情報は全くしらなかった。
彼らそれぞれの者共はたった一つの野望に向かって、駒となり動くこと、ただそれだけだ。性別、職業、出自、年齢はおろか犯罪者なのか、はたまた富豪であるのか、そのどれもは関係ない。ただ目的を完遂することだけを追い求める。
自分はと言えば問題は山積みであった。この活動の他にも日々の仕事もある。
だが、そうも言ってはいられない。我々には大義がある。そのために、何もかもを犠牲にしなくてはならない。
波打ち際、そう物思いに耽りながらひたり、と歩く。
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