57話:機械の腕(浜辺みちる)
源という刑事が現れ、ちーちゃんと自分は登鯉会に所属する店や人を当たり、入道さんの居場所を探ることになった。だがその結果は空振りであった。
「入道さんは、しばらく空けるって言って、いなくなっちゃったよ」
雑貨屋を営む丸渕メガネの老人はそう言っていた。他の店にも聞いて回ったが、同じようなセリフを言っていた。
「──最初から、自分がいなくなることを告げていたようね」
「そうみたいだね」
土肥さつきが拐われた話を聞いた時、まさかとは思った。しかし、こうして自分の耳で話を聞いて回ると真実であることを実感する。
「ダメね。埒が開かない。浜ちゃん。サーフィン仲間に話を聞いてもらうことできる? きっと登鯉会に詳しい人もいると思うから」
「そうだね。わかった。ちーちゃんはどうするの?」
「ギャザラーズの仲間達の聞き込みの結果を確認してくる。きっと連絡がないから、期待できないと思うけど」
彼女はそう言うと、メガネを外しコンタクトレンズに切り替えた。
「それじゃあ、また連絡するから」
峰岸はたたと走り、街の方面へと向かっていく。自分は、反対に海へと向かった。
ざざ、と海が鳴いている。いつものスポットに足を運んだが、今日はなぜだか人が少なかった。波打ち際まで向かうも、やはり顔馴染みはいない。
待っていてもよかったが、日差しが厳しかった。何か良い手はないかと考えていると、ビーチボーイズが視界の端に映った。店長なら何か知っているかもしれない、そう思い向かってみる。
窓から店内を覗いてみると、いつも通り誰もいない。
カラン、とドアを鳴らし入ると、「ハマちゃん!」といつも通り景気の良い店長がカウンターから現れた。
「お店開けているところごめんなさい」
「ドーシタノ。慌てた顔シテ」
店長に事情を話した。
「ソウナノカ。入道さんが。でもソーリー。何も僕は知らなくって」
「いえ。いいんです。そうかあ。もう、どうしよう」
カウンター席の端に座り頬杖をついて考え込む。自分の非力さが情けなくなってくる。
「ねえ。忙しいトコロ、言いづらいんだけどさ。少し時間アルカナ」
「なんですか。今日のシフトならいらないと思うんですけど」
「いや。そうじゃなくって。前、お願いしていた、アサタローのこと何か分かったかなと思って」
そういえば、確かに店長からお願いをされていた。浅倉くんのお父さんがシリウスインダストリーの社長であるということ。
海の流れを変えた張本人。
「ごめんなさい。その、お父さんのことも聞けず仕舞いで」
「ソーだよね。じゃあさ、少し船で近くまで行ってみないカ」
「え」
急な提案であった。
「ヤッパリ僕も気になっているんだ。あの場所で何が行われているノカ。やっぱりここで店を構えている僕にとっても、サーファーがいなくなっちゃうのは、商売アガッタリだから」
「うーん」
村尾が困っており、土肥さつきがいなくなった今、そんな油を売っている時間はあるのか。
「でもタシカ、シリウスインダストリーが登鯉カイに多額の寄付をしているって話聞いたコトある」
「あ。そういえば、入道さんもそんなこと言ってた!」
シリウスインダストリーと登鯉階はそう言った意味では繋がりがある。もしかすると、入道さんはあそこにいるのか。
「店長行ってみようか」
「よしキタ」
そう言って、二人で店を出る。クローズの看板に変え、少し歩いた先の桟橋で待っていると、店長は小さなクルーズ船でやってきた。
「お待たセ」
「店長そんなの持ってたんだ」
「マアね。ローンはアロット残っていけどね」
たくさん残っていると脳内で翻訳し、船に乗り込む。
「ヨシ。じゃあ行くよ」
店長は慣れた手つきで、舵を取り工場の方へと進む。
波はやはり荒れつつ、船体は大きく揺れる。
「店長、アポイントとかは取ってるの?」
「ノープロブレム。行ったらわかるさ」
はは、と豪快に彼は笑う。
次第に工場の姿があらわになる。まるで、要塞のような巨大な白色の塊から、ダムの放水のように海水が流れ出している。
いつも砂浜から見る方向とは真逆。つまり沖合の方向へ船は進む。
高層ビルの建設でしか見たことがないような巨大なクレーンが、忙しなく動く。近くには大きな貨物船も
止まっていた。
「店長! どこに停めるの」
大きな声で、彼を呼ぶが、店長は何やら大袈裟なカメラで、工場の写真を撮っていて気づかなかった。
そして、その時。
ウー、と巨大なサイレンが聞こえた、その後。
「──そこの民間船。何をしている」
スピーカーで音声が流れた。どうやら自分達の存在が気づかれたようだった。
「シット。逃げるぞ」
「え! もう!?」
「バレたらおしまいだ」
そう言って店長は急ぎ梶を切って反転する。
「ちょっと、入道さんがいるか聞かないと!」
「今日は、向こうがご機嫌ナナメだ。立ち去ろう」
「そんな」
船は反転し、工場から遠ざかる。しかし、その時奇妙なものを見た。工場は巨大な壁に囲まれ様子はわからない。しかし、クレーン一つの巨大ま細長い鉄状の物体を上げたのが見えた。
目を凝らす。
「──うで?」
それは巨大な機械の腕であった。




