53話:刑事 源の合流(村尾虎丸)
祭りは終わった。
浅倉と別れ、自分と浜辺、そして峰岸と共に父を探して回ったが、結局いなかった。
屋台も片付けられつつある江ノ島の入り口に三人以外のもう一人が現れる。
「おい。キンパツ。入道の家はもはや誰もいなかったぞ」
峯岸が裏で所属するギャザラーズ。そのナンバー2である浦賀は相変わらず派手な銀髪にピアスだらけ。そんな強面が、どうやら自分のために駆け回ってくれたのか汗を流していた。
「そうか。すまねえ浦賀」
「いや。お前たちには借りがある。また仲間連れて入道は探す」
そう言って浦賀はまた走る。するとどうやら近くにバイクを停めていたらしく、低い音を響かせ、消えていった。
入道と、親父は消えた。あとは、しらみつぶしに登鯉会の家々を回るしかない。
すると、峰岸は察したらしく提言する。
「ギャザラーズの仲間が、登鯉会に聞いてまわるようにする。何かあったら、村尾に連絡するようにするから」
そう言って峯岸はスマートフォンを片手に何処かへと向かう。
「ありがとう」
彼女を見送った時、自分の携帯電話が鳴った。
「はい。村尾ですけど」
「こちら、藤澤警察署の源です。通報してくれた方ですよね。いまどこに?」
「あ! ええと、江ノ島の入り口の、ええ。そうです。そこに立っています」
電話主は警察であった。
『源』という名前はどこかで聞いたことがあった気がする。そうこうして、五分後に源は現れた。そして思い出す。あの晩に、自身の父を尾行した時に、補導されかけた時の警察官だ。
比較的明るい場所で彼の姿をみると、髪はくるりとパーマがかっており、顔も整っている今どきの若い男という印象だった。
「すみません。村尾くんかな?」
「そうです。ええと、こちらは同級生の浜辺です」
浜辺はぺこりと頭を下げる。
「それで、お父さんが事件を起こそうとしているって、そういうことなのかな」
「あ。そうなんです。親父はこういう人で」
写真を見せる。そして、連絡した経緯を伝えた。昨晩から失踪し、机の上には木の面とそして、黒ずくめのジャンプスーツなどが残されたこと。そして、『十四日に決行する』と記されたメモが残っていたこと。
「なるほど」
源はメモを取り、相槌を打ちながら返事をする。
「そして、今日。また同級生が消えたんです。土肥さつき、という同じ鎌倉第一高校の一年生なんですけど」
「また、というのは」
「あ。ええと」
なんと説明したものか、困っていると浜辺が助け舟を出した。
「実は、桜井さんっていう同じ高校の女の子がつい先月攫われて、その。殺されたんです! その時と状況が似ていて、だから私たち……」
浜辺は言葉を詰まらせながら説明をした。
「──桜井さんってのは、桜井京子さんかな」
「あ。そうっす!」
「なるほど」
源は何度か頷き考え込んだ。
「実は僕、柊木さん。ええと、たぶん君たちの同級生にもいると思うんだけど、柊木さんのお父さんと一緒に桜井京子さんが不審な死を遂げたことついて、捜査担当をしていたんだ」
なるほど、あの晩よりも前に見たことがあったわけだ。
「そうか。通りで」
源は何かを悟ったように独り言をつぶやく。
「実は、今回の村尾くんが連絡してくれた件、藤沢警察署としては、大々的に動くなと指示があったんだ」
「それはどういうことなんですか?」
「圧力かな。俺は桜井さんの事件にも関わっていたし、柊木さんは今東京だ。だから指示を無視して、独自で来たんだ」
「そうなんすか」
納得がいった。
足りない頭でもわかる。だから、桜井の事件は『自殺』となったのだ。殺されたのに警察が隠していたのは事実だったんだ。
「でも何でそんな圧力がかかるんすか。おかしく無いですか」
「わからない。でも、少なからず俺は君たちの味方だ。まずはお父さんと、その土肥さつきさんを探さなくちゃ。今日は君たちは帰りなさい。村尾くんは、もしお父さんが帰ってきたら教えてくれ。浜辺さんも。明日また、村尾くんの家に行くよ。まずは君たちの情報が今回の事件解決の糸口だからね」
源はそう告げた。ひょうひょうとした印象ではあるが、しっかりとしていた。彼だけでも協力してくれるのは本当にありがたかった。
「じゃあ二人はまっすぐ家に帰るように」
そうして、それぞれは散り散りになり家に向かった。




