47話:留学生の正体(浅倉朝太郎)
「な、何であなたが」
彼女の登場に合わせ、花火の打ち上がる音が止んだ。そして、あたりの提灯や屋台に灯りが戻る。
「話はあと。さあ、来るなら、きなさい」
ビアンカは仮面の男たちを手で招く。
一人の目の前の男が彼女に襲いかかる。ビアンカは掴み掛かろうとする腕を逆に掴み返す。
そして、勢いよく背負い投げる。
「ふぁっ」
宙に浮いたと思いきや、まるで布団叩きのように男はしなり、そのまま叩き落とされた。
一瞬にして、ファーストペンギンとなった男は動きを止めた。死んではいないが無事ではない。
「次は?」
ふ、ふ。と仮面の男たちの呼吸音が聞こえる。
すると今度は背後に迫ってきた男が一人迫ってきた。
「きゃあ」
狙いは柊木。彼女は叫ぶが、ビアンカはそれを読んでいた。男に足払いをして、そのまま転ばした。そして、追い討ちをかけるように踵落としを後頭部へ。鳴ってはならない音が聞こえた気がした。
「つ、つええ」
金のポニーテールが、名前の通り黄金のテールランプのように、彼女の戦いの動きを追従する。
美しく強い。自分の吐露した感情は小学生のようではあるが、事実なのだから仕方なかった。残りの男たちは相手が手だれである事をようやく察したらしく、ナイフを取り出した。
しかし、ビアンカはそれを見た瞬間さらに驚きの物を、取り出した。
「け、けんじゅう」
柊木はビアンカの手に持たれた漆黒の道具を見て小さく呟く。
「そこをどきなさい。さもなくば撃ちます。これは最後通告です。花火が無数に上がった今、ここの人たちは音に慣れている。きっと、今発砲したとしても、打ち損ねなた花火の音と勘違いするだけでしょう」
カタコトではない流暢な日本語で、残った男たちを順番に銃口を向ける。
すると前方にいた男たちは、部が悪いと判断したのか、道を開ける。
「よろしい。二人は私の後ろへ」
銃は構えつつ、次第に明るみへ。
男たちとすれ違うと、そのまま後ろ歩きになりながら、茂みから出た。
表通りは花火が終わったと同時に再び人が流れ出していた。
てっきり拳銃を構えた異国人が茂みから現れたとなると、パニックになりそうではあったが、今日は祭り。テキ屋の景品にも見えるのか誰も気に留めない。
「アサタロー。ミス柊木。走れる?」
「は、はい」
ビアンカは自分たちの腕を掴み、すすと人の流れに乗る。
振り返ったが、仮面の男の姿はない。
少し安心はしたが、次に気になるのはビアンカ本人だ。
「ビアンカさん。あなたは一体」
「アサタロー。今まで黙っててごめんね。私はこういう者です」
ビアンカはタンクトップのどこに隠していたのかわからないが、一つの手帳を、チラリと見せる。
──CIA。特別捜査官、ビアンカ・アルバイン。
黒い革の手帳には、険しそうにこちらを見つめる写真と共にそう書かれていた。




