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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
2章:秘密結社とCIAと江ノ島の謎
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30話:合同捜査(柊木純也)

一体問題、何が起きているというのか。


藤井香の立件が進む最中、自分は求められた資料を神奈川県警藤沢署の一室で集め続けた。


課長に立てついたためか、今刑事課の中でも俺は孤立した存在になっていた。

あいかわらず源は絡んでくるが、それ以外の人間と会話する機会は滅法減っていた。


「──柊木。来い」

そんな一人での仕事を楽しみ、順調に進める中、この空気を作った張本人である課長から呼び出された。


この事件は日本の警察が隠蔽している。CIAであるアルバインが、藤井の取り調べの最中に残した言葉が自分には引っかかっていた。


今こうして、課長の後ろを歩き、数人の警察官たちとすれ違う。一体誰が信用できるのだろうか。


いや、そもそも()()を信じてもよいのだろうか。わからない。わからないが、あの事件以来一つ決心したことは、この真実にたどり着けるのは自分だけ、そして信じるのも自分だけという感情であった。


「入れ」

課長室の中には、見知らぬスーツ姿の男が複数人いた。


「柊木警部補ですね」

課長を差し置き、メガネをかけたいかにもインテリな男が名刺を差し出す。


坂東(ばんどう)さん」

そこには警視庁公安部とかかれていた。


公安。思想犯や宗教犯罪を追う影の組織。しかも警察庁ならば天に近い組織の人物だ。


「公安部さんが一体何のようで」


「お前にヘッドハンティングのようだ」


課長は自分に一瞥もくれず呟く。


「先日の藤井逮捕では、孤軍奮闘されたとお聞きしています。今回、われわれ警察庁としてもこの一連の事件は怪しいと思っていましてね」

「どういうことだ」

「CIAが関与していることは、あなたもご存知でしょう。鎌倉女子短大に通う山下浩子の交通事故、桜井京子の自殺。そして」


「──そして?」


「今朝、横浜にて一人医療ミスにより亡くなった『田村ゆかり』」


また誰か死んだのか。


「いずれも、警察の初動捜査、見解としての死因は『それ』になっている。しかし実際は」


「失血死。そう言いたいのか」


「ええ。この神奈川県において警察が行った検死の内容と、結果的には異なった死因による事件。それも、同世代の若い女性。この連続性に何かを感じているんですよ」


坂東と名乗る男は続ける。


「警察の中で誰かが、意図的に情報を錯綜させていると?」


「CIAのアルバインと名乗った捜査員も同じ見解でしょう」


「それで」


彼らの狙いがわからなかった。坂東はメガネを外し、ハンカチで汚れを拭う。


「すくなくとも私を信頼いただきたいんですよ。警察庁。所轄のあなた方としては真っ先に疑いたくなるでしょうが、私にも警察官としての責任感はあるのでね」


「俺を呼び出した理由は何だ」


「アメリカはなぜ日本の事件にわざわざ見える形で介入してくるのか、我々としてはその真意を図る必要がある。それこそ、ここは我々の国だ。他国の力を借りるつもりもなければ、貸される所以(ゆえん)もない」


「結論が見えねえな」


「アルバイン捜査官から、本件を合同捜査とするならば、神奈川県警の柊木刑事を帯同させるよう要請があったんですよ」

課長が告げる。


「なんだと」

連中が俺を呼び立てたというのか。その理由は一体なんだ。


「──つまり。坂東さん。あんたたちサッチョウとしてはアメリカ介入の意図が知りたい。しかし、現状では連中からは何の情報も手に入らない。そこで、提案されたのが自分を媒介とさせること、そういうことか」


「柊木君。立場を弁えなさい」

課長の咎めに対し、坂東は手で遮る。


「その通りです。本件は、神奈川県警の署長の耳には入れていない。あくまで日本全体を守る警察庁としての特命と理解いただきたい。これは機密事項です」


「機密だというなら、そこの坊ちゃんを通したのは間違いだな」


「貴様!」

課長は眉間を震わせる。


「彼は問題ありません。つまり、柊木さん。一時あなたは警察庁の公安部預かりとさせていただきたいんです。表では神奈川県警の刑事として、裏ではCIAとの情報共有、そしてその情報を共有してもらうための協力員として東京を行き来してもらう。しばらく帰れない日がつづくとは思うが」


一瞬、娘の顔がチラつく。高校であった事件も含めて、心配は心配だった。


「オタクらは、事件を解決させるつもりがある、そう考えていいのか」


「もちろんだとも」


おそらく、あくまで米国の介入を避けつつ、情報仕入れ先として自分を使うつもりだろう。こんな所轄の刑事のもとまで直に来るくらいだ。相当東京の連中は状況が悪いのだろう。


アルバインがなぜ、自分を名指しするのかその理由はわからない。しかし、この奇怪な事件の真実に辿り着く自分の目的には、この話は近道にも感じた。


「わかった」


「快諾感謝しますよ」

そういって坂東は手を差し出す。その手を握るつもりはなく、無視を決め込んだ。


自分の中で、仮説としてあるもの。それが何かはわからない。きっと、思い違いだろう。しかし。


利用できるものは利用する。真実を知るため、そして娘を守るためにも。

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