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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
1章:消えた女子高生とギャングと猿の面
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25話:新聞掲載(浅倉朝太郎)

数日後、鎌倉第一高校の正門を抜けた、ほぼ全校生徒が往来する下駄箱に、A1版の巨大な新聞を掲載した。


「いよいよ、だな」

村尾は恐怖を紛らわすように笑っているようだった。


時刻はまだ七時。朝練をし始める運動部はチラホラと見えるが、大多数生徒はまだ眠りついているか、朝ごはんにありついているかの二択だろう。


新聞の一面、その見出しにはこう書かれている。


「桜井京子は殺された! 私たちは犯人を知っている」

我ながら随分と挑戦的なタイトルだと感じる。


「まさか新聞部として、こんな形で活動するとはね……」

遅れてきた浜辺は新聞の一面をまじまじと見て呟く。


「まあ、な。でもこれで、校長との約束は果たせるんじゃないか? ほら。峰岸も言ってたろ。夏休みが始まる前までに、この学校の生徒に活動を認知してもらうっていう約束」


「そうだね。多分これなら約束は果たしたと言えるだろうね、でも」

「今回の目的はそうじゃない。犯人を呼び出すためだからね」

浜辺の言葉に対して、自分が付け足してしまった。


新聞には、自分たちが今まで調べてきた事実。


桜井京子は自殺ではなく他殺であったこと。あの日、桜井はギャザラーズの二番目のボスである浦賀と逃避行をしていたこと。しかし犯人は浦賀ではなく、新たな第三者から脅されて行った行為であること。そして、桜井京子を殺害した真犯人が他にいること。


一面の写真は、この話の発端でもあった、桜井京子が生きていた時間を偽装するためのインスでグラムの写真だ。浦賀が取ったであろうあの、歪な写真。


秘密にすべき情報は伏せた。それが切り札にもなり得るからだ。


そして、新聞の最後にはこう記している。

「真犯人へ。今日の夜、桜井京子が殺された場所で待つ。真実を知る者より」


柊木と共に桜井京子の家を訪れた次の日、柊木を含めた新聞部の仲間たちへ辿り着いた事実を話した。部室は再び満員だ。



「ごめん。浅倉くん。その話は確認だけど、本当なのよね」

峰岸は半信半疑で尋ねる。


「うん」

再び隣にすわる柊木へ目配せをした。彼女は何度か頷く。


「まじかあ。桜井さん。殺されちゃったんだ」

佐々木は空気感とは合わないのんびりとした返事をした。


「──この事件。私許せない。だからみんなの力を貸して欲しいの。京子のためにも」

「でも、ほら。こういうのって警察の仕事なんじゃないの?」

水無月は諭すように言う。


柊木はゆっくりと立ち上がる。


「私のお父さんは警察官、刑事なんだ。でも、あの人たちは当てにならない。だって、殺されたのに自殺ってことにしてるんだよ。それじゃあ何もできない。京子も浮かばれない。わたしが、私たちがなんとかしないと」

柊木は周りを見回す


「俺もまさか鎌倉に引っ越してきて、こんなことになるとは思わなかった。新聞部。初めは廃部を免れるための遊びだったのかもしれない。けど俺たちは気付いてしまったんだ。桜井の真実に。やるべきことをやらないとけない」

自分の手を村尾は握る。


「アサタロー。よういった! やるぞ! 俺たちで」

村尾はランボー張りに叫ぶ。


「よし。それじゃあ作戦はこうだ」

今朝まで考えていた作戦を皆に伝える。




新聞というものは、このSNSが広まった今の世の中じゃ目にする人は少ないだろう。それこそ学生なら尚更だ。MYTUBEやらテレビやら、インスグラムやら。娯楽は山ほどある。


しかし、今日のこの鎌倉第一高校のこの時間だけは違った。


全校生徒が下足を履き替え、いつもなら無意識に通り過ぎる廊下に自分たちの新聞が()()()と掲載されてある。

村尾と二人で遠くから、人だかりができる光景を眺めていた。


「アサタロー。すげえことになってきたな。ほんとに。しかし、新聞作りも悪くねえな。俺のライブより集客できるんじゃないか」


村尾のライブに行ったことがないのでわからないが、自分でも驚いていた。


自分の過去の新聞なんて、誰も目に留めやしなかった。


「こらぁ! なんだなんだ」

数学の教師、名前はまだ覚えられてないがこの騒ぎを嗅ぎ付けたらしく近寄る。


例の人物は現れない。しかし、この話はきっと伝わるはずだ。


「村尾、行こう」

「あれ。もういいのか?」

「多分。村尾呼び出されるけどごめんな」

「え? なんで」

察しの悪い彼を置き、教室に戻る。


クラスの中は新聞の、話題でもちきりだった。


自分と村尾が入ってくるなり、ざわざわと響めきだつ。柊木は自分たちの姿を見るなり金の髪をくるりと回しながら一つ頷いた。


そして、ガラガラとドアが開く。


藤井香が現れる。


「おっはよー。いやあ今日も暑いねえ」

いつも通りの調子で入ってくる。


──しかし。


一瞬目があった。それは1秒も満たない時間だった。しかし、体感では恋人と見つめ合うほど長い時間のように感じた。まあ、恋人などいたことはないが。


「よし、じゃあ出欠!」

隣に座る柊木は心配そうな顔でこちらを見る。


答えはまだわからない。しかし、夜。夜になれば明らかになるはずだ。


授業はまるで耳に入ってこなかった。自分が仕込んだ作戦、それがどうなるかだけを気にしていた。その日、彼女の授業は入っていなかった。だからこそ、姿を見たのは朝のホームルームの時だけだ。


全てのチャイムが終わり下校時間になる。


察しの通りで、村尾は職員室に呼ばれ、こっぴどく叱られたようだ。しかし同時に峰岸も呼ばれたようで、うまく収まったらしい。新聞部の今後は要検討とのことだった。正直、そのことはどうでもよかった。来たる時に備えて緊張の糸を張っていたからだ。

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