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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
1章:消えた女子高生とギャングと猿の面
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22話:放課後の部室、そして(浅倉朝太郎)

柊木は、真剣な顔つきで自分達に向かってきた。


「──浅倉。アンタなにかわかったんでしょ」

「柊木さんっ!?」

浜辺は彼女の存在に気がつき少したじろいだ。


「ギャザラーズの浦賀。やっぱりアイツが京子を殺したの?」

ぐいとまた一歩近づく。


「それが、違ったんだ」

自分の一言に柊木は明らかに狼狽した。


「どういう、こと。教えてよ!」

「柊木。あのなあ、俺たちも分かんないことだらけなんだよ……。まさか、峰岸が」

村尾は頭を掻いた。


「峰岸? 生徒会長がどうかしたわけ」

「あ、いや。ええと」

村尾は再び気まずそうに頭を掻く。


「今日、どこかで作戦会議しようと話してたんだ。柊木は桜井とも仲が良かったんだろ。色々教えて欲しい」


彼女は金のウェーブ髪を数回指で回す。そして、口を開く。

「分かった。あとで集合場所教えてちょうだい。


ヒロとさとみにも声かけるから」

そう言って彼女は踵を返し、ツカツカと消えていく。




放課後、七月下旬まさに夏真っ盛りのはずなのにもかかわらず、湿気を帯びていない涼しい風が部室へ入ってきた。


「本当に柊木とか来るのか? あいつ、俺たちが桜井のこと調べようとした時、途轍もなく怒ってなかったか?」

村尾はぼんやりと、窓から海を眺め呟く。


「確かにそうだった。でも今日は柊木自身が参加したいって言ってたんだ。きっと来るさ」

「みんなお疲れ様」

ドアを引き、現れたのは峰岸と浜辺だった。こないだの一件があったからか、二人は少しぎこちない様子だ。


「浅倉くん、村尾くんもお疲れ様!」

「コ、コンタクト……」

「ちょっと、その呼び名は学校では無しでしょ。今は生徒会長、峰岸千里」

「浦賀はその、大丈夫だったのか? 警察に行ったのか」

自分の質問に対して、一瞬だけ彼女はギャザラーズのボスに戻る。


「今は連絡が取れないわ。けど、それは警察のところにいるということだと思う」

浦賀。確かに見た目は恐ろしい男だが、この目の前の女子を良くも悪くも信頼しきっているようにも見えた。


しかし。


あの時、峰岸は警察と取引をしたと言っていた。さらに柊木刑事を尋ねるようにとまで、言っていた。一体何をどう、取り引きしたのだろうか。一介の高校生にそんなことができるのだろうか。


思案を広げようとした時、香水を纏う三人組が現れた。


「うわーっ。相変わらず汚い部室」

「あんた。来たことないでしょ」

佐々木ヒロコの水無月さとみが、そして遅れて不機嫌そうな柊木鈴音が続く形で部室に入ってきた。

「流石にちょっと狭いね……」

いつもの倍ちょっとの人間がワンルームほどの小部屋に居るのだ。仕方がないと言えば仕方がない。


それぞれがスペースを求める。偶然か隣には柊木が座る格好となった。


「なんか、ワクワクするねぇ」

「ヒロ。遊びじゃないんだから」

柊木の一括で彼女は少し小さくなる。


「それで、アンタたち何がわかったの?」

村尾と浜辺は峰岸を見つめる。しかし、そんな峰岸は自分を見つめていた。


柊木たち三人も結果的に自分へ眼差しを向ける。


「結論から言う。浦賀は犯人じゃなかった」

「え、転校生もしかして浦賀に喧嘩売ったん?」

佐々木は素朴な質問を投げかける。


──顛末を言うべきか。


峰岸に目配せすると、ぷるぷると首を横に振るう。黙っとけという意味なのだろうか。

「いや。俺たちでギャザーズの溜まり場を突き止めたんだ。その時に奴の話を聞いた」

「え。すご……」 

水無月は驚きの声を小さく上げる。


「それで、どんな話だったの。確か京子と浦賀って付き合ってたって話じゃなかったっけ」

浦賀があの夜、桜井といた事。それは謎の人物からの指示であった事。そして、二人は謎の面をかけた人物に襲われたことを、かいつまんで話す。


「──女だったの? その京子と浦賀を襲ったのが?」

「随分と喧嘩慣れしている奴だったって、確かそんなこと言ってたよな」

村尾はシュッと拳で空を切る。


「うん。浦賀くんって喧嘩強くて有名じゃない? そんな浦賀くんでも歯が立たなかったって」

浜辺も続けた。


「でも、一撃は入れたって言ってたぜ」

村尾は再びシュシュっとパンチする。


「鬱陶しい! 村尾」

水無月がそれこそ一蹴する。


浦賀の力は凄まじかった。体格も自分より大きく、一度胸ぐらを掴まれた時どうすることもできないほどだった。


そんな奴の一撃をしかも女性で受けたとなると、ゾッとした。まあ、犯人であるからこそ同情はおかしいかもしれないが、暫く痛みで苦しむだろう。


──ん?


その時、頭の中で何かが光った気がした。それと同時にカバンからカタカタと言う音が聞こえる。

──またか?


しかし、その音はすぐ鳴り止む。


「浅倉?」

柊木は心配そうな顔でこちらを伺う。


「あ。いや。それで浦賀曰く、桜井と彼自身を襲ったのは女だった。そして、おそらく犯人も女だと思っているんだ」

「なるほどね。あのインステの投稿は浦賀を犯人に仕立てるためのインペイコウサクだったわけだ」

佐々木は顎に手を置き頷く。


「それで、柊木たちに改めて誰か心当たりがないかなと思ってさ。この学校で桜井と浦賀が付き合っていたことを知ってた人物とかさ」


──そして、峰岸がコンタクト、すなわちギャザラーズのボスであることも知っていた人物。


「そうねえ」

水無月は天を仰ぎ考え込む。


「すずちゃん誰か思い当たる人いる? わたしとさとみは、結局桜井ちゃんとは、一瞬同じグループだったぐらいだし」

柊木は黙って思考を続けているようだった。


「あと、浦賀くんが言っていたのは、桜井さんが、その犯人を見た時に驚いていた、と言うことよね」

「つまり桜井はその人物を知っていて、且つ意外な人物だった……」

結局のところ今の自分に桜井京子の交友関係など分からない。理由は不明だが、かつて仲良かった柊木が頼りだった。


しかし。


「──わたしも京子のこと、よくわかってなかったのかも」

その目には涙のようなものが浮かんでいた。


「京子は、こんな私なのに初めて声かけてくれた友達だった……」

柊木はいつもとは異なり小さくしおらしい声で、桜井との関係を話し始めた。


なぜ、京子と下の名前で彼女を呼ぶのか。その出会い、そして次第に離れていってしまった経緯について。

「京子とは段々わたしとは違う人たちと遊んでくようになった。だから、わたし自身も京子のこと全然知らないんだ」


鼻を鳴らし始める柊木。彼女は真剣に桜井と向き合っていたのだ。

項垂れる彼女の首筋に金のネックレスが映える。


「柊木でも検討がつかないか……」

「一旦今日はお開きにしましょう、か」


峰岸は手をポンっと叩く。


「そうだな……。わりいな柊木! 辛い話をさせちまった」

村尾は柊木を労わる。そして、彼に続く形で、浜辺と峰岸も部室を後にする。


「すずちゃん帰ろう」

佐々木と水無月が顔を手で覆う柊木に近寄る。


しかし、彼女は突っ伏したまま鼻を鳴らすだけだ。


「すず……」

水無月は、彼女の頭を少し撫でる。そして、自分を見る。


「浅倉くん。たしかすずと家近いんだよね。送ってってよ」


「え!?」

急に立った白羽の矢に、驚いてしまった。


「じゃあ、よろしくね! 浅倉クン」

「えー! 私も転校生と帰りたい~」

「っばか! いいからいくよ」

慌ただしく、佐々木と水無月も部室から消えていく。


そうして、部室で鼻を鳴らす柊木と二人だけになってしまった。


日が少し落ちかけ、部室の麻雀卓など備品を照らす。

「なあ、大丈夫か」


返事はない。なぜ、俺だけを残し皆消えていってしまうのか。何か誰か勘違いしているんじゃないか。


「ねえ。朝太郎」

これまた急な下の名前呼びで驚いた。それと同時に小学生の頃を思い出す、懐かしい響きだった。


だからこそ、自分も。

「な、なに。す、す、すず」

「これから京子のお母さんに会いに行こう」 


鈴音、そう呼ぼうとした時、柊木は提案してきた。


「急だな。どうして」

「お母さんなら何か知っているかもしれない。それこそ私も何度か京子のお母さんには私もあった事あるから」

彼女の目は本気だった。正直な話、柊木達のアテが外れたところで、言い方はアレだが萎えてしまっていた。


しかし、彼女はまだやる気だ。たしかに、桜井京子。被害者の母とはまだ話せていなかった。いや。話そうとはしなかった。あくまで対岸にいたい、そんな気持ちがあったからだ。だが。


「朝太郎も付いてきて」

柊木はメイクの落ちた目を拭い、再び問いかける。


「わかった。行こう」


死んだ娘の母に会いにいく、これはもう、遊びじゃない。

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