21話:真実のために。私も(柊木鈴音)
「おはよー」
教室の中で明るい声が聞こえる。しかし隣の浅倉は浮かない顔をしていた。
「あのさ……」
彼に声をかけようとした時、水無月たちが先に声かけてきたため、阻まれてしまった。
「すずちゃん! おっはよー!」
「すずおはよう」
佐々木ヒロコと水無月さとみだった。
「どしたの?転校生が気になん?」
水無月が耳打ちをする。
「は? そんなんじゃないわよ」
「はいはい。あ、先生来たよ」
教師の藤井は胸をさすりながら、教室に入ってくる。
「痛たた。年かなぁ。えーと」
彼女は眉をひそめ、一つ咳払いをする。
「ええと。一つ皆さんに注意があります。桜井京子さんの件についてです」
藤井は何かを見た。視線の先にいたのは、浅倉だった。
「最近、自殺……。亡くなってしまった桜井さんについて調べてまわる生徒がいる、そんな話が出てきています。悪ふざけならば止めてね。それこそ、亡くなった桜井さんが悲しむから」
藤井は少し項垂れて言い放った。
彼女が誰のことを指して、忠告したのかは分かっていた。それを証拠に浅倉は目線を合わさずそのまま顔を沈めている。
──でもなぜ浅倉はここまで滅入っているのか。
「もしかして」
彼は京子の死について何か知ったのだろうか。
ホームルームが終わり、生徒は次の授業に向かうため散り散りに教室から出ていく。
浅倉も暑そうに襟元をばたつかせ、教室を出ていく。彼の後ろをついて行こうとした時、ドンと誰かとぶつかった。
「柊木さん、大丈夫?」
藤井が忘れ物を取りに戻りにきていたようだ。
尻餅をついた自分に向かい、彼女は手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます」
その手を取ると、ひょいと持ち上げられる。彼女はなかなかの力持ちだ。
「あ。柊木さん」
藤井は床に落ちたネックレスを拾う。
「ほら角のネックレス落としてるわよ。あ、そもそも学校にアクセサリーなんて禁止だぞ~」
そう言っては手のひらに載せると消えていく。うっかり、外したそれを手に握っていて落としてしまったようだ。
「すみません、でした」
消えゆく背中を見送りながら、浅倉の事を思い出した。
──どこいったんだろう。
移動教室で混み合う廊下で長い髪をした彼を探す。
すると、廊下の突き当たりに、村尾と浜辺と一緒にいる彼を見つけた。
何やら神妙な顔持ちで顔を突き合わせている。
彼らの元へ行くのを少し手間取った。
あの日、見かけた談笑している姿を思い出したからだ。京子の事件を面白おかしく捜査しようとしていた彼らの姿を。
しかし、何とか一人で真相を追い求めようとしたが、限界はあった。
そもそも京子とは最近ほとんど話すことも無くなっていたから捜査のヒントはこれ以上なかった。バイトもしなければいけなかったし、中々時間もなかった。
──あれ。
二の足を踏みながら、考えていると一つの事実に気がついてしまう。
「浅倉たちの方が真面目に京子のこと」
彼らのほうが京子のことを考え、真実に向かい歩もうとしているのではないか。自分はバイトなんかして片手間で、心の底では、本当に彼女のことを思ってなどいなかったのではないか。
ぶん、と首を振るう。
──もう変なプライドもやめよう。
決心をして、彼らの元へ歩みを進めた。
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