17話:生徒会長のほんとの顔(浅倉朝太郎)
電車に乗り揺られ数十分。江ノ島駅に着いた。同じメンバーと来た時は晴れていたからこそ、この雨模様だと雰囲気が大きく違った。
江ノ島をつなぐ大通りは全くといって人はいなかった。少し勢いが弱まりつつあるが雨の影響のだろう。
「ちーちゃん、本当にここに来てるのかな?」
結局電車の中でも峰岸からの連絡はなかった。
「なあなあ。本当に行くのかよアサタロー」
村尾はビビり散らかしている。
ギャザラーズの溜まり場になっているという喫茶店ゴールデンステイトに辿り着いた。
着いたのだが、店のドアで二の足を踏んでいた。
「ほ、ほんとに行くのか……」
「びびってどうするの! ちーちゃんが中にいるかもしれないんだよ。そ、それにあんなにもか弱いちーちゃんが、この中でどんな目に合ってるか……」
制服がはだけた峰岸に対して無数の男の手が伸びる、そんな想像した。
「ま、まずい。いこう」
首をぶんと振り、扉に手をかける。
カラン、と乾いた音が響いた。薄暗い室内。人はあまりおらず、コーヒーの深い染みついた匂いがする。
「お、おじゃましまーす」
浜辺は小さな体をさらに小さくした。
「──だれだ」
声の主は店奥にいた。そこには男が数人座っていた。一人は知っていた。江ノ島で桜井が最後にいたと思われる場所、そこで自分の胸ぐらを掴んだ人物。
「浦賀」
「お前、あの時の」
喫茶店の暗い照明が、浦賀であろう人物の銀髪を鈍く光らせる。 取り巻きは二人。制服なんて着ておらず、派手なアロハの男、タンクトップ姿のガタイの良い男が凄みを利かしている。
「み、峰岸をどこにやったんだ」
村尾は引け腰に尋ねる。
「なんなんだ、お前は」
浦賀は立ち上がり、すとこちらに近づいた。
「──お前らが誰かは知らねえが、何のようだ? だいたいお前も何が目的なんだ?」
彼は眉間をすこし引きつかせながら、一歩、また一歩と進む。
それに呼応するように自分たちも後ろへ下がっていく。
「桜井、桜井京子を知ってるか?」
「──お前何を知ってる」
浦河の顔が自分の目の前まで来た。
「お、俺は鎌倉第一高校の浅倉朝太郎だ。同級生の桜井京子が死んだ理由をちょ、調査している」
「浦賀、ええと浦賀さんが桜井さんが亡くなる前日に江ノ島にいたことはわかってるんだからね!」
浜辺は自分の後ろから、震えながら声を発した。
「お前が殺したんだろ!」
村尾も自分を押し退け言い放つ。
ふう、ふう、と浦賀の呼吸が荒くなるのが分かった。取り巻きの男たちも立ち上がり、自分たちに迫る。
店員はいないのか。辺りを見回すが、そんな人物は見当たらなかった。他の客もいない。
浦賀は村尾の胸ぐらを掴んだ。
「ぐっ」
その力強さに驚いた。村尾の体が少し浮いたんじゃないか。
恐怖もあったが、どうにかこの状況を打開しなければ。何故か、ふつふつと心に熱い何かが込み上げてくる。
その時。カタカタと再び音が鳴った気がした。自分のカバンの中だ。ダ、と走りその場から少し離れる。カバンからカメラを取り出す。
「おい、お前何してやがる!」
取り巻きの男が殴り掛かろうとする。
その瞬間、パシャリとシャッターを切った。フラッシュが辺りを照らす。
男が少し怯んだ瞬間。胸ぐらを掴む浦賀にも一枚。何度か写真を撮った。
「何のつもりだ」
浦賀は彼ら手を離す。
「今の暴行の瞬間を捉えたまでだ。腕のタトゥーも抑えた。これと、桜井のインステの写真を警察に突き出すぞ」
ナイスと、浜辺の小さな声が響く。
「おい、お前ら。こいつら無事で帰さねえぞ。この生意気なヤロウのカメラを奪って壊すんだ」
「このご時世でスマホじゃなくてカメラとはなぁ」
男たち三人が自分のカメラに手を伸ばす。
転がりながら何とかそれを守る。蹴られたのか、殴られたのか、ズンと鈍い痛みが走る。
村尾も飛びかかり、いよいよ、もみくちゃになる。
浜辺が外に出て助けを呼んでくれるかと思ったら、彼女は「やれ!いけ!」など手を上げ応援してる始末だった。
万事休すか、そう思われたときドンと扉が開かれた。
「今取り込み中なんだよ、女」
アロハの男が立ち上がり脅かした。そこにいたのは峰岸だった。メガネを外していたから、誰かわからなかった。
「退きなさい」
「退きなさい、だぁ? てめえも同じ目に合わせてやろうか」
タンクトップの男が自分から離れ、彼女に近づく。
「やめとけ」
男二人を制したのは浦賀だった。
「やっと見つけた。浦賀くん」
す、と峰岸は浦賀に歩み寄る。
「コンタクト」
浦賀は小さくそう呟いた。
どこかで聞いた名前。
ギャザラーズのボスは浦賀ではない。もっとやばいやつがいて、確かそのボスの名前が確か──。
「ごめんね。みんな。私がギャザラーズのトップのコンタクトなの」
何を言っているのか誰も理解できなかった。
「どういうこと? ちーちゃん」
にこり、と微笑む彼女。その笑顔は学校の時と変わらないあどけなさがあった。
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