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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
1章:消えた女子高生とギャングと猿の面
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13話: 江ノ島で出会ったタトゥーの男(浅倉朝太郎)

「それじゃあ。浅倉くんと私がペアか」

峰岸はメガネを少し光らせ微笑んでみせる。


場所はなんとなく想像がついたが確実な場所はわからなかった。だからこそ、江ノ島についた時、四人は二人組に分かれ、桜井が写した場所を探すことにした。


江ノ島に通ずる橋を渡ると、そこそこ大変な坂道が続く。その道を挟むように、名産を売る売店や、居酒屋が並ぶ。久しぶりに見たが、懐かしさ反面、その


「さすがに、あついなあ」

休日、それもシーズン真っ盛りということもあり、人で溢れかえっていた。


「この人混みであの場所を探すのも少し堪えるね。ちょっと飲み物買わない?」

峰岸は売店で二人分のサイダー買うと、自分に一つ手渡した。


「はい。これ。ほら、引っ越し祝いってことで。随分と安上がりで申し訳ないけど」

「あ。いや。ありがと」

彼女から受け取り、それをごくりと飲むと喉に強烈な刺激が通り過ぎるのだった。


「じゃあ、ゆっくり登ろうか」

峰岸の後ろをついていくように坂を上る。進む道が一本外れているらしく少し人通りは減った。

「こうして、きちんと話すのって初めてだよね」

彼女は少し振り返り、にこりと微笑む。ちらりと白いスカートの間に華奢な足が見えてしまい、目を逸らした。


「そうだね。峰岸は生徒会長なんだよね。すごいよなあ。ほら、あんまり俺、そういうのになりたいと思ったことないから」

そもそも生徒会長になろうと思っても、なれることなんてないのだが。

「そう、かな。なんていうか、『っぽい』て言われることが多かったからかも」

峰岸はそういうと再びふふ、と笑う。


「なんか、意外な動機なんだな」

「まあ、ね。人に期待されるとさ。なんだか断れないじゃない。それすくなからず内申も稼げるしね。別に嫌じゃあないよ」

「はあ」

彼女の言葉に対して、素直に尊敬した。打算的でありつつも、それを感じさせない人の良さを感じる。


「浅倉くんはすごい良い人だよね」

「え。そんなことないけど」

「いやいや。転校してきて、まだ一ヶ月も経ってないのに、新聞部のために、こうして頑張ってくれてるしさ」

「ああ、それは」

それは、すくなからず今自分の居場所がここしかないから。そんなことは言えるわけなかった。


「もともと新聞部だったから」

「そうだよね。いやあ、助かるなあ」

彼女も今回の依頼をしてきた一人でもあるからこそ、その言葉は素直に受け取った。


人の流れは激しい。ただでさえこんなに暑いのに、ここまで人が多いとなるとその熱気は倍増する気がする。


彼女と共に坂道を進む。シーズンでもあるからこそ並ぶ店はここぞとばかりに、客へ声をかけている。なんのこともない土産屋。それにタコ煎餅のお店などなど。


その時、一つの共通点に気がついた。

「なんだろ。あれ」

「あ。あれ、あれは登鯉会(とうりかい)()()()ね」

彼女はそれの存在を知っていたようだった。赤い旗のようなものが店の屋根にぶら下がり、風にはためいている。


それは「鯉」の絵柄が描かれているようだった。

「登り鯉って知らない? ほら鯉のぼりにもあるように、鯉が頑張って滝を登り切ると、その鯉は龍になるって話」

「ああ。それは聞いたことあるかも」

教科書だったか、それとも漫画の知識かは忘れた。だが、そんな話を聞いたことあるのは事実だ。


「ここらの商店街の人たちも自分達が商売繁盛させて、いつかは成り上がろうって気持ちで『登り鯉』の旗を掲げているんだよね。その集まりの団体の名前が登鯉会なんだって」

「なるほど」

彼女の知識に素直に関心しつつ、道を急ぐ。


そのまま歩みを進めていく。といっても坂が長く続くため、しんどかった。どうやらエスカレータで頂上まで行くことができるようだが、桜井のヒントとなる場所は頂上ではなく、中腹にあたる場所であるため、歩いて行く他なかった。


峰岸との会話も一通り尽きてしまったので、少し気まずい雰囲気になっていた。


空模様も先ほどの快晴から曇り空へと変わって行く。


「──あれ。ここじゃない?」

彼女はスマートフォンと睨めっこをしながら指さす。

「ほら。浅倉くん。これ見て」

彼女が見せてきたその画面には、桜井の姿があった。転校初日、柊木の友人が見せていた写真。確か、インステか何かにあがっていたと聞いたが。


「ほら。そこの双眼鏡。この写真に写っているのって同じ。ほら、この角度から撮ったんじゃない?」

確かに彼女の言う通りだった。階段はまだ続いてるが、その中腹に位置する踊り場。桜井は「この場所」で写真を撮られたようだった。


「おそらく、この階段から撮ったんだ」

数歩階段を登り、画角を定める。いつも持っていたカメラを持ってこなかった。だからこそ、スマホで代用するしかない。


「ちょっと峰岸。左に寄ってくれるか?」

「ここ?」

「そう。そこ、あ。そのまま止まって」

カシャリ。

「あ、意外といい写真だね」

峰岸は顔を近づけ、自分が撮った写真の出来栄えを関心していた。シャンプーの匂いを感じ、戸惑ってしまう。

シャッターを押す時、咄嗟に彼女も笑顔をしてくれたため図らずも出来の良い写真が撮れた。


少なからずの人の流れがあったため端に寄り、思考を巡らす。

「桜井さんのこの写真が投稿されてからだよね亡くなったのは」

峰岸は顎に手で摩りながら考える。


「確か、桜井は家に一度も帰らなかったんだよね。その間どこにいたんだ?」

彼女が殺されたという話が本当ならば、海で水死体として見つかるまでの期間、その間の行動を追うことが、事件の真相に近づくことになる。


少なからず、このインステの投稿がされた七月十二日二十二時までは生きていたという事になる。だが。


「でも、桜井さん何でこの投稿をしたんだろう」

彼女が画面に指をすべらせる。


「あれ。ごめん。ちょっと気になるものを見つけたかも。ちょっと見てくるね」

そう言って峰岸は展望台から離れ、辺りを探しに行ってしまった。自分も付いていこうとした時、背後から妙な視線を感じた


その違和感の先を目線で追うと、一人の男と目があった。


銀髪で剃り込みが入り、鋭い眼光でこちらを見ている。明らかにヤバい奴だった。

男はそのまま、大股にこちらに近寄ってくる。明らかに不味い雰囲気だ。


そして、男は自分の胸ぐらを掴んだ。その腕からチラリと三本の線の引っ掻き傷のようなタトゥーが見えた。


「おい。お前、ここで何を撮った?」

「べ、べつに何も」

周りの通行人もざわついていた。


この男が迫ってくる時には小便をちびりそうになったが、意外とこうなると冷静であった。だからこそ、一つ分かった。

この男は何かに怯えている瞳をしていた。苛立ち、怒り、そして何かの恐怖。

「その写真……。見せろ」

男は自分のスマホを勢いよく奪い去る。そして、何やら確認をしている。


「はあ、はあ。くそ」

彼は、目当てのものが無かったのか、明らかに苛立っていた。


「な、何もないだろ」

「チッ」

男はそのまま投げるように自分のスマホを渡す。

「お前、ここで何してるんだ」

鋭い瞳で自分を再び睨むと、胸ぐらを掴んでくる。

「だから。な、何もしてないって」

「本当のこと言いやがれ。お前何を知ってるんだ」


──この男は一体何を言ってるんだ。会話が通じていない。


男は今にでも殴りかかりそうになっている。喧嘩なんてしたことがないが、やるしかないのか。


「あれやばくない?」

取り巻きが次第に増え始める。

状況を察したのか、男は手を離し消えていった。変な不良といえばそこまでだが、何か違和感があった。


そしてそのすぐ人混みの中から声が上がった。


「大丈夫!?」

そこにいたのは、峰岸と担任の藤井香であった。


「浅倉くん!」

その瞬間思わず、膝から崩れ落ちてしまった。恐怖から解放され、安心したのかもしれない。

「だ、大丈夫?浅倉くん」

担任である藤井が偶然現れたのには助かった。あの男が一体誰であったのかはわからないが、同じくらいの年齢にも見えた。


「いやあ。びっくりした」

「怪我はない?」

藤井は手を差し伸べる。

「先生、す、すみません」

彼女の手を受け取り、立ち上がる。


「しかし、最近の不良も困ったもんね。全く。私の生徒に手出したらただじゃおかないんだから」

腕を組み、男が消え去った方を、きりりと睨んだ。


「でも先生、どうしてここに」

「え。それはパトロールに決まってるでしょ」

「パトロール」

復唱した自分の言葉に対して彼女は頷く。


「桜井さんが亡くなった事もあるし。生徒の安全は大人である私たちが守らないとだから」

えっへん、と藤井は偉そうに背筋を伸ばした。


「でも、浅倉くん。あなたも気が早いわね。転校早々、生徒会長に手を出すとわね」

「え。ちょ、ちょっと違いますよ」

「そ、そうですよ」

自分達の反論に対し、彼女は豪快な笑い声で返事をする。


「分かってるわよ。でもどうして、あなた達ここに?」

茶化した笑顔から、す、と真顔になる。


「あ、ええと。僕たちは新聞部として……」

途中まで言いかけた時、峰岸が手で制した。


「ちょっとした道案内ですよ。浅倉君がこっちに引っ越したてでもありますし。それに私だけじゃなくて。浜辺さんや村尾くんと一緒に懐かしの街並みを見て回ったんです。そうだよね。浅倉くん」

峰岸は笑顔を向ける。


「あ、そうです。ここにくるのも久しぶりなものですから」

「ふうん。そうなのね。まあ、楽しみなさいな」

そう言って彼女は踵を返し、消えていった。


「──わざわざ、桜井さんの事件を捜査していることは言わない方が良いわ」

「ご、ごめん」

「教師側の目線に立てばわかるよね」

彼女に優しく諭され、理解した。桜井という生徒が死んだ事は学校側にとっても大きなイベントだ。マスコミも出てきたからこそ、学校側としては穏便に過ごしたいだろう。「事件捜査」なんてことは御免被りたいに決まっているのだ。


「あ、それで変な男に絡まれたから、聞きそびれたけど、気になってることって何?」

峰岸は「そうだった」と小さく呟き、スマホを見せる。


「これさっきの写真だけど、ほら。この端に手が写ってない?」

「ええと」 

桜井を中心に据えられた写真。その左側に画面は暗いが腕が映っていた。


──あれ。


これは、左手であった。そして偶然か、この手は見たことがあった。それも数分前に。

「さっきの男だ」

「え」

「こんな事があるのか」

あの銀髪で剃り込みを入れた男。胸ぐらを掴んだ時にチラリと見えた三本の傷のようなタトゥー。


紛れもなく桜井の写真に、その腕があった。改めて峰岸はその写真を見る。すると彼女は何か確かめるように考え込んでいるようにもみえた。

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