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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
1章:消えた女子高生とギャングと猿の面
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12話:海の家で集まろう(浅倉朝太郎)

「それじゃあ作戦会議だな!」


村尾は勢いよくそう言い放った。明日は土曜日。当然自分に予定はなかった。みんなも同じらしく、海岸沿いにある店で、今後の事件捜査をどのように進めていくか会議をすることになった。


これまたカンカン照りの道中をひたすら歩いた。鎌倉駅前の大通りをこれから海に繰り出す人々の車が行き交う。それぞれが、軽快な音楽を流している中、自分は再び汗に塗れながら、足を漕いだ。


昼前の待ち合わせ時刻には、何とかたどり着いた。


──ビーチボーイズ。


少し階段を降りれば、砂浜というところに、その店はあった。潮風のせいか、すこしボロボロになった2、3階立ての住居。1階が、飲食店。筋肉隆々の水兵が笑顔を向けるその看板には『SHRIMP』と書かれている。


自分の記憶では何度か通った道の店であったが、このくたびれた風貌から見るに、自分がこの存在に気づかなかっただけなのかもしれない。


カラン、とドアを開ける。すると、看板にあった水兵さながらの黒人の大男がカウンターに立っていた。彼と目が合い、すこし訝しげな顔をされる。


「──あ。ええと」

「あ。浅倉くん!こっちこっち」

知った声が聞こえた。そこには、キャップを被った浜辺がいた。


「なーんだ。ハマちゃんのお友達ネ」

「そうだよ。店長。怖い顔しないでよ」

彼女の手招きにて席に座る。


「ごめんね。浅倉くん。ここ、私のバイト先でさ。ほら」

彼女は壁にかけられたサーフボードを指差す。


「ほら。ここエビ料理のお店なんだけどさ。海近くて、ここで働いてるんだよね。店長もほら私の友達ビビらせないでよ!」

「ソーリソーリ。それで君の名前は」

彼は大きな声で、尋ねる。


「ええと、朝太郎です」

「朝太郎……」

長い名前だったのか、彼は何度かその言葉を繰り返す。


「オーケー。アサタロー」

店長はさっきと打って変わり笑顔でブイサインする。


「まだ、みんな来てないみたいだからご飯たべちゃお! 店長。エビバーガー2つ!」

「あいよ!」 

そういうと店長はいそいそとキッチンへ戻る。あまり店に人はいないようでもあった。カウンターに金髪の女性が一人。彼女もまた異国人にも見える。どこかで会った気もするが。


「ねえねえ。浅倉くんって意外とオシャレなんだね」

浜辺は帽子を被り直し、ストローに吸い付く。


「そ、そう?」

「うん。なんか素朴で質素で」

「それ地味ってことじゃないの?」

「アハハ。いや、もしかしたら私が村尾の服装の記憶が強すぎてそう思ったのかも」

「はあ」


こんな田舎から来た自分をオシャレだと錯覚させるほど、強烈な彼の服装は一体どんなものなのか想像してみる。

いや、検討がつかない。


「でも、浜辺。ええと浜辺さんは、いつからサーフィンしてるの?」

「ちょっと、浜辺でいいよ。サーフィンは小学生からずっとしてる」

「ずっと続けてるのか、それは、そのすごいなあ」

彼女は頭をかき、素直に喜んだ。


「そ、そうかな。ほら、あんま私趣味ないからさ。ほら。浅倉くんも昔こっち住んでたんでしょ。江ノ島ボーイでもあるんだから、浅倉くんもサーフィンしてなかったの?」

「いやあ、俺はそういうのは。あ、ほら。前の体育の時間でバレちゃったかもしれないけど、俺、運動音痴でさ」

「ああ。まあ気にしないで。ほら。サッカーは手を使っちゃダメってそれだけだから。気にしちゃだめだよ」

個人的には手を使った覚えはなかったが、側から見てそう映ったのならば、事実はそうなのだろう。


自分の運動センスに愕然としていたところ、再びドアのベルが鳴る。

「トラマル!。それにチーチャン!」

店長はこれまた太陽が弾けたような笑顔を見せる。


「お。みんな揃ってるなあ」

村尾は、真っ赤なシャツにレザーの黒ズボンというメタルバンド顔負けの服装だった。たしかに、浜辺が引くだけはある。それに引き換え、峰岸は、印象通りの自分と同じ素朴な服装であった。


「ごめんね。お待たせ」

席につき、それぞれが注文をする。


「さて。それじゃあ、第一回捜査会議を始める。浅倉。いや朝太郎くん。じゃあ頼む!」

急に無茶振りされる。


「頼むって言われてもなあ。何を頼まれたんだ?」

質問した後、店長からエビバーガーが提供される。

「ほら。どっから調査するんだよ。それを教えてほしいんだ」

「なんで俺が」

「けど、昔新聞部だったんでしょ。まとめるの得意なんじゃない?」

隣に座る峰岸はウインクしてみせる。窓越しに海が優しく動いている。


「──そうだな。ええとまず、俺たちが持ってい情報を整理しよう。まず、彼女はどんな状態で亡くなっていか」

顎に手を置き、口を開くのは浜辺。


「確か、江ノ島近くの海岸沿いに遺体として見つかったんだよね。その、水死体として」

「そう。第一発見者は、どうやら犬の散歩に来ていた老人らしい。事件との関係はないらしい」

村尾は勢いよく立ち上がる。


「浅倉、お前よくそんな事知ってんな」

「ええと、柊木から聞いた話だよ」

「そうか。柊木さんのお父さんって刑事だったんだよね」

峰岸は一つ頷く。


「まず一つ。桜井は水死体として発見された。だが、柊木の話だと殺されたらしい」

「ちょっと待って。何で水死体ってだけで、殺されたってわかったわけ? それこそ、先生たちが言うように自殺って可能性もあるんじゃないの?」


「それは、彼女の血が『かなり』無くなっていたかららしい」

「『かなり』?」

「桜井の遺体には、頭の横に打撲の後があったらしい。けど、これは致命傷ではなくて、死因は失血死」


ひえ、と浜辺は声を出す。

「それってつまり、抜き取られちゃったってこと?」


「頭に一撃を浴びて気絶。その後血だけを抜き取られた。そういうことね」

峰岸は俯きながら、その残酷な事実を呟く。


「おいおい。急に随分とオカルトじゃねえか」

さすがの村尾もため息を着く。


「でも、待って。そうなると海に晒される前に、その献血? みたいに注射器で気絶したところに血を抜かれたってことだよね」

「そう、なるね」

浜辺の言っていることは確かにその通りだった。彼女は結果的に海を漂い、砂浜に漂着した。だが、それは死んだ後だったと考えるのが自然だ。


彼女の死因は「失血死」だったのだから。


「でもわざわざ、海で注射器たくさんもって、血抜くか?普通」

村尾のコメント。


「それは考えられないわね。おそらく、違う場所で彼女は血を抜き取られた。気絶させられたところをどこかに運ばれたって考えるのが自然だと思う」

それに対し峰岸が返す。


「と、なると、その場所がいわゆる『殺害現場』ってわけだ」

村尾は指を鳴らす。


「あのさ。格好つけてるけど、その場所はどこなわけ?」

浜辺は村尾をどつく。

「いやあ、あれじゃね。ほら、桜井のインステ!あそこにヒントが隠れてるんだよ」

「たしかに」

思わず、声を出してしまった。


「俺も少しあの写真気になってたんだ。その桜井さんのアカウント今見れるかな」


「あ、ちょっと待って」

峰岸はそういうと自分のスマホでインステを立ち上げる。その時、当然だが彼女、峰岸千里のアカウントを経由する。その時彼女のを見てしまったのだが、フォロワー数が3万人を超えていた。


「峰岸、お前」

自分の言葉に対して、彼女は急いで画面を変える。


「今、アカウント数めちゃくちゃ多くなかったか」

「え。いや。そんなことないよ。ほら、これが桜井さんのアカウント」


彼女は桜井のアカウントを皆に見せて、話をそらす。


「この投稿が、最後か」

皆の興味が、桜井に移ってしまったため、自分もそれ以上突っ込むことはしなかった。


「『これからもっと楽しくなるよね』」

浜辺は画面を覗き読み上げる。

「文章に比べ、投稿されている写真はなんていうか暗いよな」 


彼のいう通り、以前も見た写真のように全体が暗い。それは彼女が撮られた場所が原因なのかもしれない。野外であり、夜更けの時分なのだろう。彼女の周りにはカメラのフラッシュ以外の光源はない。


「──これ、どこなのかな」

幼い記憶を辿るが、検討もつかない。そもそもこの街なのか。


「あれ。これって。江ノ島じゃない? ほら。この高さ、それに街の景色は、ほら、山のぼった先にある展望台じゃないか?」

峰岸は思い当たりがあるようだ。


「あ。そうかも。ここが中腹ぐらいだと思う。暗くてよく見えないけど、これ双眼鏡だよね。ほら百円いれたら見れるやつ」

浜辺も同意する。


「つまり、すくなからず桜井は江ノ島を登ったってこと、か」

自分で呟きながら、窓を見る。すると、青々しい木々を宿す島、江ノ島を望むことができた。


「いってみるか」


自分がぼそり、と呟く。


「そうだな。行くしかねえ」

4人は急いでエビバーガーを平らげ、勘定を済ませる。


「アサタロー」


最後にレジを済ませたのが自分だったせいなのか、ドアを開ける時に店長から声をかけられた。

「は、はい」


自分の返事に対して、店長は沈黙で答えた。何も言わず、ただ黒い瞳がこちらをじっと見つめている。


「な、なんすかね」

「……ろよ」

「え?」

「ナンデモナイデスヨ。またキテネ」

「ええ。それはもちろん。はい」

 店長は手を振っていた。ただ、扉が閉まる寸前に合った目は、なぜかとても冷たく見えた。

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