90:2つの開戦
裸の王様の公開諮問会、コーバン枢機卿の罷免検討会から数週間経ち、2月8日。
歴史に残る1つの開戦と、歴史には残らない1つの開戦が起こった。
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それら2つのうち、歴史に残る方の開戦。
セレーネとグレイスは、オリバーとアナスタシアに呼ばれ王宮にきていた。
王宮の庭も見渡せる見晴らしの良い部屋に通された。
「オリバー殿下、あっいえ、陛下とお呼びした方がいいですか?」
「良い良い。オリバーと呼び捨てで構わない。セレーネ嬢と朕の親密な間柄だからのう」
アナスタシアが「何をふざけているんだこいつは?」という目線をオリバーに向け、グレイスは興味なさそうにしている。
そして、セレーネ本人は乗り気じゃないけど返事をした。
「・・・オリバー陛下。その喋り方、なんとかなりませんか?それと、誤解を招くような言い方はやめてください」
「むう。あの裸の王様兼狼オジサンを退位させて、新王になったのだ。・・・それっぽく振る舞ってみたが、ダメかのう?」
「なんか、キショいです」
「キショ!?一応俺は新王だぞ!」
「でしたら、それっぽく振る舞ってください」
「さっきやっただろう!」
「あれではなく、ちゃんとした方です。というか、なんで私とグレイスが呼ばれたんですか?」
「王様に対して敬意が足りないんじゃないか?」とぼやいているオリバーをよそに、王妹となったアナスタシアが口を開いた。
「セレーネさん、ごめんなさいね。このポンコツ、ちょっとおかしいの」
「誰がポンコツだ!妹だろうと不敬だぞ不敬!」
「お兄様、キャラ付けに困っているのはわかりますが今まで通りにしてください。あれだけの騒ぎを起こした裸の王様でしたので、彼の退位に対して同意的な国民や貴族ばかりです。王位を簒奪したからと、変に警戒されないようにちょっとおかしな言動をするのは見当違いです。キショいです」
「キショい!?お前までそんなこと言うなんて!」
「はいはい。それで、セレーネさん、グレイスさん」
兄妹のじゃれあい?の途中に、アナスタシアから突然話を振られるも、セレーネとグレイスは普通に返事をした。
「はい」
「なんだ?」
「このポンコツは一旦おいておきましょう。お二人を呼んだ理由をお話しするわね」
「おい!誰がポンコツだ!」
「あ・な・た、ですよ!少々お静かにしててくださる?」
アナスタシアの冷たい視線を受けた新王オリバーは思わずと言った様子で、おとなしくなった。
「話がそれましたが、お二人には機密性も緊急性も高いお話があります」
一瞬で真面目な雰囲気になったアナスタシアに、セレーネもグレイスも真剣な眼差しを返した。
「端的に言うと、インネルト帝国が戦争の動きを見せています。我が国では、光の勇者と闇の賢者である2人を重要な戦力としてカウントしたいと考えています。有事の際には、参戦をお願いできますか?」
セレーネが少し驚いた様子をしている一方で、グレイスは好戦的な表情に変わった。
「今までマーウデンで起こっていたような小競り合いとは違う、という認識か?」
「グレイスさん、そうですね。本格的な戦争です」
「なるほど。わかった。参戦しよう。白黒つけてやろう」
「ありがとうございます。セレーネさんはどうですか?」
セレーネはグレイスほど決断していないようで、
「・・・闇魔法の使い手としてその責任は果たそうと思います。国を守るために、私にできることはしましょう」
「迷っている様子ですが、そう言ってくれてありがとうございます」
「正直迷ってはいます。けれど、王族として命令することもできたはずなのに、こうして事前に聞いてくれて配慮も感じますし、それに、私も自分の国と国民は守りたいです」
アナスタシアはホッとし様子で、オリバーに顔を向けた。
「ほら、陛下。話がまとまりましたよ」
「ああ。俺は何もしてない気がするが・・・」
「細かいことはいいではないですか。今後の具体的な作戦の見通しに移ったらどうですか?お茶受けに甘い物でも用意させましょうか?」
「ああ、そうだな。それじゃ、当面の間、作戦部と2人との連絡がかりを任せるヴェリタスも呼ぼうか。年齢も近いし、うまくやれるだろう」
すると、部屋のドアがノックされて、ドアが開きヴェリタスが入ってきた。
「陛下、呼んだか?」
「ああ、呼んだ。2人の賛同が得られた。これから作戦を、」
「その前に報告がある」
「なんだ?」
「インネルト帝国が宣戦布告してきた」
「はっ?」
「だから、インネルト帝国が宣戦布告してきた。マーウデンに攻め込んできたな」
何食わぬ顔で報告するヴェリタスに対して、新王であるオリバーは
「なんで先に言わなかった!」
「先に言っただろう?」
「違う!なんでドアの前で待ってた?宣戦布告を知った瞬間に入ってこい!」
「そこの2人のお伺い中、だっただろう?宣戦布告と言ってもまだ先遣隊がマーウデンの向こう側についただけだ。マーウデンの戦力だけでなんとかなる。それよりも、その2人の話の方が重要だろう?」
「・・・それはそうだが。まぁ、いい。今から場所を移そう」
騎士団、宮廷魔法師団、などを含めた全体の作戦会議の場には、先ほどまでポンコツなどと言われていたオリバーの姿はもうなく、新王とはいえ、極めて有能な国の指導者がいた。
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王宮で危険な開戦の話をしている一方で、王立第二学園では、少年少女らしい?甘酸っぱい?開戦の話が始まるようだった。
学園のカフェには、1組の男女が座っている。ミラとカールだった。
「カール、相談って?」
「実は、セレーネに『私のために生きなさい』って言われた」
「・・・どういう状況?」
「枢機卿に対して敵討を済んだあとに襲われた。殺されればダメ押しができるかなって思って死ぬつもりだったところを助けられた。でも特にやりたいことないしなーって思っていたら、『私のために生きなさい』って言われた」
「・・・色々と聞きたいことはあるけれど、今の様子を見るに、それで意識してしまったと?」
「まぁそんなところだ。表情筋とか足がパンパンになるからそれをなんとかしてほしいらしい」
「・・・なんで?」
「俺もわからない。ただ、斜め上すぎて思わず笑ったし、よくよく振り返れば、セレーネって色々とやってるだろう?だから人生飽きないかな、って。そう考え始めたら・・・」
「セレーネの魅力に気付いてしまったと」
「そんなところだ。でもあの状況なら誰でも手を伸ばすだろう?だから俺に対して恋愛感情はないと思うんだ」
「言いにくいけどそれは正しいと思うわね」
「だろう?だから、ミラに相談している」
ミラは少し考えるそぶりをした後、
「・・・まずは政略結婚として婚約を目指しましょう」
「理由は?」
「セレーネは恋愛に対して鈍いと思うの。それにあのかまってちゃんのことがあったからさらに悪化している。恋愛感情を抱いてからの婚約を考えると、何年かかるかわらかない。それに、今はセレーネ自身が女男爵になる話があるのよ。貴族当主になるなら配偶者は必須。あのかまってちゃんの件をさりげなく出して、全く知らない人と婚約してあんな感じのハズレを引いたら?って言えば多少は・・・」
「なるほど・・・。でも今婚約を申し込んだら失敗しないか?」
「・・・正しく現状を理解しているわね。たぶん『確かに、知り合いの方がいいかも。カールなら元から知ってるし、政略結婚の相手としてはありかも?・・・いえ、カールよね。ないわ』ってなりそう」
「・・・言いそう」
「だから、まずは、『カールならまぁいいか』くらいを目指しましょう」
「わかった。でもいいのか?将来の義妹だろう?俺はただの平民だ」
「エリックさんにも確認するけど、ケニルワース子爵夫人としてはありよ。カールって教会の不正を暴いた英雄的な扱いでしょ?でも教会内部だといつ自分たちの不正を暴かれるか気が気じゃないから、あまり懐にいれたくない。でも、民衆から見ると教会の不正を暴いた英雄だから、無碍にできない。他方で、王家は裸の王様の破門騒動がある。元第二王妃の証言はでっちあげとはいえ、裸の王様の愚行は事実で、教会からの破門騒動で国王が交代したのも事実。そこで、教会でも扱いに困っている英雄様と、王女、いえ、王妹のお気に入りと言われているセレーネの婚約はお互いのわだかまりとかを解くためにもメリットがある。ケニルワース子爵家がその中心に近い立場に入れるから、子爵家の立場も強まる。だから、政略結婚として、ケニルワース子爵家として、義妹としてのセレーネとカールの婚約にメリットがある」
「・・・わかった。政略結婚的にありだとしても、セレーネ自身の気持ちや幸せは?」
ミラは、ピシッとカールを指差した。
「それはカールが頑張るところでしょう!何言ってるのよ!甲斐性を見せなさい甲斐性を!」
「お、おう」
「でも、最終的にはセレーネ自身の気持ち優先だからね?そこはいい?」
「もちろん!」
「よろしい!それじゃ、対セレーネ戦、開戦よっ!」




