88:カール、襲撃される
「セレーネ、準備できた?」
「できたできた。ミラは?」
「私も!」
「じゃ出発ね」
王立第二学園の女子寮をミラと一緒に出発した。目的地は王宮。
先日の事件、王様の破門はなくなったけれど、あれだけの騒ぎを起こしたので、王位を退位させられることになった。元第二王妃も行方がつかめず、意気消沈していた王様は退位をすんなり受け入れた。
そして、王太子であったオリバー殿下が王位につくことになった。国王が変わるということで、色々と手続きやら準備やらがあり、アナスタシア王女から人手が欲しい!と言われた私たちが学園が休みの今日、手伝いに向かうことになった。
女子寮から学園の門に向かう最中、やたらとご機嫌なカールにあった。
「どうしたの?カールくん、そんなにご機嫌で」
「セレーネさん!!!俺は憎き仇を討ち果たし最高に気分がいい!今から街に繰り出す!君たちも良い週末を!アデュー!」
「なんか、気持ち悪い」と言った私に、「まぁ話を聞く感じかなり緻密に準備してたようだから解放されてテンションがおかしいんじゃない?大目に見てあげましょう」とフォローするミラ。
まぁいっか、と気持ちを切り替えて王宮に向かった。
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王宮での手伝いを終えると日が沈みかけていた。
「じゃ私は学園に戻るね。ミラはお兄ちゃんのとこ?」
「そうね。明日も休みだし、新しくできたケニルワース子爵家のタウンハウス!」
「いってらっしゃいー」
「・・・なんか淡白じゃない?エリックさんと同じ屋根の下で一夜を過ごすのよ?」
「言い方言い方。使用人もいるから2人きりじゃないし、まだ正式に結婚式もあげてないじゃない?貴族だし、婚前交渉は無いんでしょう?それに、」
「それに?」
「実の兄と友達のそういう話は遠慮したい」
「友達だけど貴族でもあるわよ?」
「はいはい。それじゃ今晩はお楽しみください!」
ミラと別れて第二学園方面の乗合馬車に乗っている。
狼オジサンの偽警報のせいで起こったデモや暴動は落ち着いてきたとはいえ、まだ、たまに暴れている人もいる。「日も暮れたし、頼むから変な人に会わないでくれー」と思っていると、道から外れた林の中に不自然に止まっている馬車に気付いた。外から中が見えないタイプか・・・。
念の為、魔力検知をすると人がいるようだった。
・・・しかも、1人が複数人に囲まれている?
「御者さん!私ここでおります!」
「えっ!?」
出発時にお金は払っているから、とりあえず馬車から飛び降りる。
身体強化魔法を掛けながら馬車に近づいた。
勘違いの可能性もあるし、とりあえず当たり障りなく、
「あのー、すいません。道に迷ってしまって・・・。どなたかいませんか?」
「えっ、その声は」
「えっこの声、カール君?」
「そうだけど、今すぐにこの場から離れ」
突然馬車の扉が開き中が見えた。
縄で手を縛られているカール君が真ん中にいて、その周りをいかにも裏稼業です、みたいな人たちが囲んでいる。
「嬢ちゃん、この男の知り合いだな」
・・・なんという場に私は遭遇してしまったんだろう。どう返事をするかと考えていると、お頭みたいな人がカールに向かって話しかけた。
「おい、カール・ワーグナー。このお嬢さんを傷物にされたくなけば、異端だと認めろ。お友達なんだろう?」
カールがこっちを見てきた。
「君はなんて間が悪いんだ」
「否定はできないけど、この状況は?」
「王都で遊んだ帰りに色々とあったんだ。それと、悪いけど俺は異端だと言うわけにはいかない」
「異端って教会の?」
「そうだ。俺は敬虔な信徒だから異端じゃない」
ほんとにどうゆう状況?と考えていると、お頭的な人が
「嬢ちゃん、この男に売られたな。可哀想に、慰めてやろうか?よく見れば、可愛いじゃねか」
「そういうの結構です。というか、カール君ほんとにどういう状況?」
「おいおい!嬢ちゃん!今は俺が話してるんだ!そうだ!逆転の発想、嬢ちゃん、この愚かな男に『私を助けるために異端だと認めて』ってお願いしろ」
ナイフをちらつかせて脅しのつもり?戦闘経験はありそうだけど、これくらいならなんとかなるかな。
私が戦闘体制に入った瞬間、カールが声をあげた。
「待て!その子は関係ない!さっき『異端だと認めなければ殺す』と言っていただろう?俺が異端だと自ら言うことはないし、その子はお前らが思っている以上に強いから、利用することもできない。早く俺のことを殺したらどうだ?」
カールの挑発的な視線をうけ、お頭たちはたじろいでいる。
あれ?口先だけの脅し?
「教会の影のことを知っているようだが、いいだろう!後悔するんだな!」
「ぐっ」
えっ!刺した!?
「カール君!」
「これくらい大丈夫だ、それより早く逃げろ」
「そういうわけにはいかない!というかなんで治癒魔法を発動しないの!それくらいすぐ治せるでしょう!」
「細かいことは気にするな」
「細かくない!私が治す!」
治癒魔法を発動しつつ、カールの身柄を取り戻すために風魔法を発動した。
「無詠唱のマルチキャスト!?それに治癒魔法が使えるとか、教会関係者か!なぜだ!偽の証拠で枢機卿をはめたこの男を教会は見捨てたんじゃないのか!」
お頭さんの発言、どういうこと?安全を確保したカールに視線を向ける。
「別に教会は俺を見捨ててないぞ」
「じゃさっきのは?」
「そろそろわかると思う。はぁ、なんでこうお人好しなんだ。逃げておけよ」
「なんで助けたのにそんなこと言われなくちゃいけないの!」
「余計なお世話だったんだよ」
そっぽを向くカールにさすがにイラッとした。
「じゃ状況くらい説明しなさい!」
「その必要はなさそうだ」
カールが私の背後を見ている?人の気配?
「おい!カール・ワーグナーは異端だと認めたか!」
こちらに向かっている影から声が聞こえ、それにお頭が答えていた。
「い、いえ!まだです!」
「なんだと!俺には時間がない!使えないやつだな!こんなのが教会の影か!」
「お、お言葉ですが、教会はこの男を見捨てたのではないのですか?あなたからはそう伺いましたが、この治癒魔法が使える少女に邪魔をされました」
・・・それは私か!そういえば、治癒魔法って教会の専売特許よね。私の場合は、誰でも使える日常魔法のヒールの効果がちょっと高いだけなんだけど・・・。
って今はそれじゃない。カールが説明しないなら、自分で探ってやる。
「あらー?知らなかったの?教会はカール・ワーグナーを見捨ててないわ。私がここにいることが証明ね」
「だが、この場所にくるはずがない!工作が失敗したのか、あいつらも使えないやつだな!」
悪態をつきながら、こちらに歩いてくる影。
距離が近づき、姿を認識できるようになった。
・・・コーバン枢機卿?いえ、元枢機卿か。
罷免されたはずだけど?なんでここに?
よくわからないけれど、良い状況ではないことはわかる。
「こんな小娘はどうでもいい。おい、カール・ワーグナー。異端だと認めたらどうだ?」
「そちらのむさ苦しい男どもにも伝えましたが、敬虔な信徒である俺が異端なわけないでしょう?それにしても、この人たちを動かすくらいの権力残ってたんですか意外ですね。それとも金を積みました?いずれにせよ、権力もお金を使っても、一般人1人思い通りできずになんてザマですか。おとなしくしていればよかったものを、完全に判断ミスでは?」
「なんだと!認められないなら殺してやる!」
「はいはい。どうぞ。でもいいんですか?」
「当たり前だ!お前を殺すことが目的だ!」
「はぁ・・・ここまで無能だと思わなかった、というのが正直な感想ですよ」
「調子に乗るな!殺されたくないだろう!」
「一般的にはそうかもしれませんね」
「強がるのも大概にしろ!」
「強がってるわけじゃないありませんが・・・。それとも、根本的なところで、とても自明だけどあなたの作戦がなりたなくなる致命的な矛盾を解消してくれるんですか?」
「何を世迷言を!お前はコロッセオで、死にたくない的なこと言っていただろう!話を逸らすな!」
「ふっ、笑えますね。今言った矛盾とはそれではなかったのですけど、いつからあなたが得た情報に手が加えられていないと思ったのですか?」
「は?」
「大きい組織を動かそうとするほど小回りが効かない。一度方向性を間違わせればどんどん自滅する」
「は?」
「俺の最も好きなことの1つは、自分は緻密な作戦を立案してると思ってる人にそれは違うと突きつけることだ!」
「先ほどから何を言っているんだ?恐怖で頭がおかしくなったか?早く異端と認めろ、さもなければ殺す。枢機卿にはそれくらいできる!」
「枢機卿枢機卿って・・・。元、でしょう。上部だけのプライドでは何もできませんよ。上部だけそれっぽいことに固執し、柔軟に対応しなかったのがあなたの敗因です。負け犬の遠吠え」
私からすると話の流れが見えない!
ただ、教会の影と言われたお頭さんとかもよくわかってないみたいなので、一旦様子見をしよう。今は情報が欲しい。
「いいから異端だと認めろ!殺すぞ!死にたくないんだろう?」
「・・・そもそも前提が違うんですよ。いつからそう思い込まされたと思いますか?」
「何を言っている。いいから、異端だと認めろ」
「勝ち逃げ、という言葉を知ってますか?」
「それがどうした!いいから異端だと認めろ!あの時から、今までずっと長い間、お前を監視し利用してきたんだぞ!」
「それが何か?その間、俺はやりたいことをやり終えました。長い間といいますが、こちらからすると、時間稼ぎですね。それに、あなたに無駄に費用を使わせることもできますし、稚拙な作戦立案の実績も増やすことができる。三種のメリットがあります。時間稼ぎという点に絞っても、あなたが色々としてる間は、絶対に捕まらないことが確定しているじゃないですか?」
「絶対に捕まらないだと?」
「そうですそうです。あなたが俺を嵌めようとした時、具体的にはとある女性の身辺調査をさせられた時、のぞきとして通報されたじゃないですか。俺の取り調べをした教会の息がかかった騎士は身元を調べているメモの存在を知っていたはずなのに、それに触れてなかった。つまり、現場はその時点で法的に入手が認められた証拠しか使えないってことでは?そういうわけで、捕まえられない。なので、多少はめんどくさいとは言え、100%の確率がわかるのでプラスマイナスむしろプラスです。おかげで、捕まる心配なく色々とできて未練はありませんよ。未練があるうちに、時間をかけずにさっさと対処すればよかったものを、これも1つの判断ミスですね。ちなみに、この人数相手なら逃げられますし、俺が逃げた後に、効果がないと理解しながら、まだ人員やお金を投入しますか?その前に、この状況を見てください。落ちぶれましたね。今まで権力が使えるからと胡座をかいてきたつけがまわってきたんじゃないですか?」
「なんだと!異端だと認めろ!クソガキだったお前を更生してやった恩を忘れるな!」
「認めないとあなたのキャリアの汚点にできるから、認めるわけないじゃないですか。というか更生?そうだ!育て方の方針を間違った、ということも汚点になりませんか?俺が王都の孤児院にいたのはあなたの采配ですし、あなたが今後孤児院を運営する上で今回の件はかなり致命的な失敗になりますね。子供を育てる能力がない、個人的にはこっちの方があんたの今後にダメージが与えられそうだ。ふっ、どうだ?見下していた相手に出し抜かれた気分は?」
「うるさいぞガキが!異端だと認めないと殺すぞ!ただし!異端だと認めるならその後の生活は普通に暮らせるように手配してやってもいい!俺がお前を殺したら、俺の勝ちだぞ!」
「その後の生活?」
「ああ、そうだ!あくまで監視をしていたら、お前が暗がりに入っていった。だから、保護しようとしたんだ!異端とかは言葉のあやだ!」
「そうですか・・・。では、なぜ学園入学後の2、3年、人員やリソースが増えたんですか?何か理由があると思うのですが、仮に監視と主張しても、1%でもそうじゃない可能性があるならその話にのりませんよ。というか惨めですね。思い通りにならないから、矛盾の解消もせずに必死過ぎです。まぁ、地べたに這いつくばった、『私の負けです。このままだと失脚確定です。許してください』といえば考えてあげなくもないです」
「なんだと!したてに出ればつけあがりやがって!殺してやる!」
「はぁ。ここまで愚かだったのか。殺すアピールしてるけど、教会の仕事は人を殺めることではないだろう?かなり大きな矛盾だな。でもまぁ、俺の言いたいことは一通り言えたな。俺はあんたと違って口先だけじゃない。殺すならお好きにどうぞ」




