86:裸の王様の公開審問会と黒幕
裸の王様と呼ばれるアーサー・ビネンツェの破門が決定してから数日後の1月19日。
破門に関する公開審問会が、教会本部の広場でおこなわれている。
非審問席には、裸の王様であるアーサーが立ち、教会側の席の中央には、コーバン枢機卿が満足げな表情で座り、その横には、第二王妃であるはずのアンが座っている。彼らの後ろには、カール・ワーグナーが護衛として控えていた。
コーバン枢機卿以外の教会関係者も揃っているが、国を跨いで存在しどこの国にも肩入れせずに中立を主張している教会が一国の国王に関与していいのか、と懐疑的な雰囲気を出す者もいる。そもそも、破門の公開審問会を開催すること自体も異例である。
一方、聴衆側の最善席には第一王妃であるカトリーナがいた。カトリーナがアンの存在を認め「だからちゃんと出自を明らかにしたほうがいいと言ったのに・・・」とつぶやている間にも、アーサーへの審問は進んでいた。
「して、アーサー・ビネンツェ。貴殿の破門理由だったか?」
見下す視線でアーサーにそう伝えるのは、コーバン枢機卿。
「そうだ!身に覚えがない!」
真っ青の顔ながら、強気な雰囲気を出しながらそう答えるのは裸の王様であるアーサー・ビネンツェ。
「そうか?税金を無駄遣いし、国を傾け民に厳しい生活を強いた。その上、インネルト帝国が攻めてきたなどどという偽の警報を発した。ビネンツェ王国と、インネルト帝国の仲が悪いのはしっているが、偽の警報など、武力衝突を望んでいると言っているようなものだ。対話で解決する気がない。破門としては妥当である」
「し、しかし!余は、愛しのアンのためにしたまでだ!愛するものを喜ばせるのは教義に反するのか?」
「ふむ、言葉通り、愛する者を大事にするためなら教義に反することはない。しかし、本当に愛していたのか?」
「なんだと?余の愛を疑うのか!!!」
「第二王妃は、先日我々で保護した。なんでも、貴殿に虐待を受けていたとのこと」
言っていることが理解できないという表情をするアーサーと、か弱そうに泣いているアン。そのアンが口を開いた。
「数年間に及び、夜な夜な寝室で虐待を受けていました・・・。しかも、このことをバラすとお前の命はないと思えと脅され、人の目があるところでは仲睦まじくするよう強要されました・・・」
民衆はざわつき、アーサーの溺愛ぶりを間近でみていた第一王妃のカトリーナはこの茶番に悔しげに下唇をかむ。
そして、アーサーは、
「そんなことはない!大事にしていた!」
「口先だけです!偽の敵襲の警報を嬉々と鳴らす人物の言うことを間に受けるのですか?」
泣きながらもはっきりと伝えたアンの言葉に、民衆は納得の色を示す。
そして、コーバン枢機卿が、
「愛していたと言うが、数年間も夜な夜な一緒に過ごしていたのに、子供ができていないでないか。その時間に、虐待しかしていなかったからではないか?」
最初は中立の雰囲気を出していた教会関係者のなかには、うなづき始めるものもでてきた。
それを確認したコーバン枢機卿が、満足げに、
「もうよいのではないか?アーサー・ビネンツェを破門とする!!」
同意的な雰囲気が広がる中、コーバン枢機卿の背後から、待ったがかかった。
「コーバン枢機卿。少々よろしいですか?」
「なんだ?カール・ワーグナー。今は大事な話し合い中だ」
「知っております。だからこそ、お伝えしたいことがございます。コーバン枢機卿以外のみなさんも、今から配布します私の調査書をご覧ください」
カールが指示を出すと、調査書が教会関係者に配られた。また、民にも見えるように大きな紙に印刷したものも貼り出される。
「行き渡りましたか?ここにありますとおり、今回の件はコーバン枢機卿のでっちあげです。まぁ、偽の警報などは国王陛下が本当にやってしまいましたが、アン第二王妃の発言は偽物ですね。細かいことは色々とありますが、インネルト帝国から依頼を受けたコーバン枢機卿が、ビネンツェ王国の国王をはめた、というのが事実です」
民衆は先ほどよりもざわつき、勝利を確信していたコーバン枢機卿は、感情を押し殺したような雰囲気で口を開いた。
「何をでたらめを。民衆を惑わすこの悪魔を摘み出せ!衛兵!」
コーバン枢機卿の勢力以下にいるであろう衛兵が、数人がかりでカールを囲むも、カールはすぐに衛兵を倒してしまった。
「コーバン枢機卿のおかげですね。戦闘能力を磨けたおかげで撃退できました」
余裕そうにつぶやくカールに、教会関係者の1人が険しい表情で質問した。
「今のはどういう意味だ?それに、かなり腕が立つようだが」
「司祭様。今のですか?言葉通りです。コーバン枢機卿に戦闘能力を鍛えるように命じられていました。そのおかげで撃退できました」
この発言で、民衆以上に教会関係者がざわつき始めた。
「カール・ワーグナー。教会が必要以上に戦力を持たないのは理解しているか?」
「もちろんです、司祭様。対話で解決するためですよね?そこの、コーバン枢機卿も先ほどおしゃってましたね」
この状況をいかに乗り切るか考えていたコーバン枢機卿はいきなり名指しをされ、驚いた様子で、
「違う!この者の独断だ!」
「そうですか。ではこちらをご覧ください」
そう言いながら、カールが大きな紙を収納魔法から取り出した。
「収納魔法だと!?」
「そんなに驚いてどうしたのですか、コーバン枢機卿?友達に魔法が得意な子がいるので、教えてもらっただけです。それはそれとして、こちらをご覧ください。コーバン枢機卿からのこれまでの指示です。場所や日時、連絡媒体、同席者や目撃者がいる場合はしっかりと記載されております。あなたは独自の戦力を持ちたかったのですよね?」
教会関係者のざわめきが大きくなる。
「こんなの無効だ!」と吠え出したコーバン枢機卿を横目に、カールは収納魔法からどんどん調査書を取り出していく。
「話しを戻して、こちらがコーバン枢機卿と第二王妃殿下のやりとりですね。そして、こちらが、インネルト帝国からコーバン枢機卿への依頼ですね。ビネンツェ王国を弱体化してほしいらしいですね?依頼をうけた際の報酬も記載がありますが、なんと!小国の半年分ほどの国家予算に相当しませんか?さすが、帝国はふところが潤ってますねぇ」
さきほどまでざわついていた教会関係者は、今度は一気に静かになり、黙々とカールの調査書を読んでいる。
これが事実なら、国を跨いで存在しているゆえに中立をとっているはずの教会のスキャンダルにつながる。
「カール!いい加減にしなさい!」
「コーバン枢機卿、何をですか?」
「こんな茶番をいますぐやめなさい!」
「茶番ですか?」
「そうだ、根拠のない!」
「根拠でしたら、この調査書ですが・・・」
「お前の調査能力を考えると全部の証拠が偽物だろう!」
「心外ですね。これでも、王立第二学園では、ノースブルック家の跡取り、ラズウェル家のご令嬢がいるサークルで代表をしているのですよ?一度も事務能力を疑うことは言われていません。あの2家のご子息に恥じない事務能力があると自負しております」
教会関係者も、ビネンツェ王国の文官をとりまとめる2大伯爵家は知っている。両家がこの証拠を承認しているとは言っていないが、この一連のやりとり、およびこの調査書は一方的に無碍にはできない。
「それがどうした!」
「コーバン枢機卿落ち着いてください。楽しいのはこれからです」
そう言いながら、カールはさらに調査書をとりだした。
「こちらは、以前王都に出回っていた、気分が良くなる粉を売るための諸々の指示ですね。次にこちらは、コーバン枢機卿の教会における日頃の業務指示や経費のまとめですね。中身を見れば見るほど、職権濫用や経費の無駄遣いが目立ちませんか?いったい何のためだったのでしょうか?もしかて、粉を売るなど私腹を肥やすためですか?」
「あの愚王の審問会のはずだ!今は関係ない!」
「関係ないかもしれませんが、教会関係者が揃う機会も少ない。せっかくなので説明を願います。それに、教会の経費はもとを辿れば民の寄付金です。この場に集まったみなさんに、納得のいく説明をする必要があります」
民衆の雰囲気は、言い逃れは許さない。というようなものになっていた。
それはそうだ、自分たちの寄付金を乱用していた可能性がある。
「カール!裏に来い!!!」
コーバン枢機卿は感情のままに、カールを掴むと審問会場の裏に連れて行こうとした。
「そんな乱暴しないでくださいよ!ちゃんとついて行きますから!あっ、そうだ。みなさん!調査書を読む時間も必要だと思うので、私は少々席を外しますね」




