84:セレーネ・レスター城!?
1月10日、王立第二学園の女子寮を出たところで、私は馬車に連行された。今は、やたらと豪華な馬車の中で、セレーネさん側でしてほしい結婚式のやり取り、という謎の冊子を眺めている。
しばらくすると、馬車が停まった。行き先であった私の結婚式会場に到着したようだった。
魔力を探る感じ、周りには警備兵が隠れていそう。確かに、ここを強行突破するとなると、戦闘は避けられない。
馬車の外で小声で何か話しているようなので、風魔法を最低出力で発動させて音を拾う。
「追手は巻いたか?」
「はい。追っての馬車に対して、下り方面の乗合馬車を2本待つ、という指示を騎士団命令で出しました。足止めとしては十分かと」
「よし!」
・・・なるほど?魔力探っていた感じ、私の護衛は一度も巻かれていない。その謎の作戦も時刻表にない、からと一瞬で看破したんでしょう。さすが、王家が手配する護衛は優秀ね。いえ、かまってちゃん側の作戦が稚拙なのかな?
そんなことを考えている、馬車のドアがノックされた。
「レスター伯爵夫人。馬車からお降りください」
先ほどの声の主であり、名前は忘れたけど、かまってちゃんの取り巻きの1人が馬車のドアをあけて下車を促す。
「まだ、夫人ではありませんよ」
「これは失礼しました。イオーゴ様はあちらにいらっしゃいます」
目の前には、人工池に囲まれた荘厳な庭と、立派な城があった。
そして、タキシードを着飾ったかまってちゃんイオーゴ・レスターがいる。
「急に呼んで悪かったね、セレーネ嬢、いや、我妻よ!セレーネ・レスター城にようこそ!!」
セレーネ・レスター城!?
なんてネーミングしてるの!
しかも、シャッキーんとでも音がでそうな感じでカッコつけてる。
「・・・妻ではございません」
「その照れ隠しも愛おしい!けれど、これから夫婦になる我らに遠慮はいらないよ!さぁ、結婚式をあげようではないか!!!」
このかまってちゃんのセリフと共に、人工池の方で花火が打ち上がった。
・・・花火って結構高いわよね?これにも横領した税金が使われているとなると、嘆かわしい。
とはいえ、今はまだ相手に有利だと思い込ませるために表情に出さないようにしないと。
「お気持ちは理解しました。けれど、馬車の移動で疲れてしまって、先にお部屋で休ませていただけませんか?」
「それは気がつかなくてすまない!これから一緒に過ごす時間が増えるのだ、少しくらいお預けをくらっても問題ない!式は明日にしようか!今日は部屋に案内させるから休んでくれ!」
かまってちゃんが手をぱん!と叩くと使用人みたいな人がきて、私を案内してくれた。
道すがら、城の経路や警備体制などを確認する。さて、どこがいいだろうか?合図をするにも、城の外から中が見やすい場所を探さないと。
私が考え込んでいるのを、マリッジブルーかなにかと勘違いしたのか、使用人みたいな人が、
「奥様、まずは移動の疲れを癒してください。そうすれば、純粋に結婚式を楽しめますよ」
まぁ、確かにある意味では楽しみにしてるけどね!これで、あのかまってちゃんと縁を切れる!
「ありがとう。ところであなたは?レスター家の関係者かしら?」
「兄がレスター伯爵様の指導を受けたんです。そのおかげで、騎士として成果も残すことができています」
「そうだったのね。お兄様がいるということだけど、ご実家はどちら?」
「地方の男爵家です。家柄にとらわれず騎士として重宝してくれたレスター伯爵家には恩があります。この度は、レスター伯爵家に恩返しができる機会をいただきありがとうございます!それにしても、想い合っている2人を引き裂こうとする悪魔のような勢力がいると聞いて・・・奥様は大丈夫ですか?
地方の男爵家!私と一緒!というか、地方だから正しい情報が入ってなかったのね。この結婚式はあのかまってちゃんの独断なのに。それを知らされていないこの人も被害者ね。
「慣れてしまったので大丈夫です。それと、あなたはこの城に滞在中、使用人の部屋が割り振られているのですか?」
「ええ、そうですけれど・・・?」
「そう。なら、今日の夜は絶対にその部屋から出ないで」
「・・・あっ!そ、そうですよね!新婚ですものね!夜は邪魔されたくないですよね!」
夜、という単語を変な方向に解釈したのか、顔を赤くしている。
けどこのまま勘違いを利用させてもらいましょう。今回だけ呼ばれた人をできるだけ巻き込まないようにするのも、私の責務だ。そうじゃない相手は、裏でヴェリタスさんが密かに説得をすることになっている。
「・・・ええ。他の使用人というか今回だけ手伝いにきてくれた方々にもそう伝えてくれる?」
「は、はい!」
部屋に到着した後は、「身内以外には知られるわけにはいかないほど、そんなに激しくする予定なのかしら?」という謎の呟きをしていた彼女を一度下がらせ、諸々の再確認を始めた。
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そして夜になり、「夕食を一緒にとろう」というかまってちゃんからのお誘いをうけた。けれど、「食欲がないので、サンドイッチなど軽食がいいです。それと、せっかく綺麗な庭があるので、庭が眺められるような開放感のある場所で、気兼ねなく少人数で食べたいです」と伝えておいた。
「セレーネが希望を伝えてくれて嬉しい!やはり夫婦だからな!」
「・・・そうですか」
「さぁ、遠慮せずに!この城で一番見晴らしの良いこの部屋で、俺たちの新たな門出を祝おうではないか!それとここにいるのは、俺の側近だ!」
あの取り巻きの2人がいる。けれど、他にはいない。少人数で、と伝えたとおり最低限にしてくれたらしい。
「改めまして。セレーネです」
「ケイです」
「コウです」
「ええ、学園ではお会いしていたけれど、こうしてお話しするのは初めてですね。これからよろしくお願いしますね」
まぁ、おそらくもう会うことはないと思うけど!私は、さも今思いつきました!とばかりに手をぽん、と叩いた。
「そうだ!せっかくなので、踊りませんか?以前、かま、いえ、イオーゴ様が110を一等星とおっしゃっていたじゃないですか?指で数字の1、1、0を表して、110ダンスでも踊りましょう!」
「それは名案だ!一等星である俺にふさわしい!それと、我妻は数字を用いた貿易歴を発案したな!2人の共同作業というというところか!さぁ、踊ろうか!」
”見晴らしのいい場所で踊る”ということは突撃してもいいですよ、という合図だった。それにもかかわらず何も疑わずに、私たちの手のひらの上で踊ったこのダンスは、関係者内で”何も価値を生み出していないものが踊る滑稽な無能ダンス”と呼ばれることになったと後から知った。
踊り始めて数分後、私の魔力検知にこの部屋に向かってくる人間がひっかかった。かまってちゃんよ!呑気に踊っていられるのは今のうちだ!
そして、部屋のドアが開き、かまってちゃんの兄であるヴェリタスさんが現れた。
「あ、兄上!?急にどうされたのですか?」
ぎくっとした様子のかまってちゃんと、顔色が悪くなった取り巻きの2人を前に、毅然とした態度のヴェリタスさん。
「イオーゴ、貴族令嬢の誘拐、および、税金泥棒の罪でお前を逮捕する」
「な、なんのことですか!?セレーネは自らここにきたんですよ!そうだよな、セレーネ?」
イオーゴからの目線を無視し、ヴェリタスさんに駆け寄った。
ミラから教わった必殺技、上目遣いの涙目!
「騎士様!助けに来てくださってありがとうございます!もう、私怖くて怖く・・・従うしかありませんでした」
「は!?セレーネ!?」と慌てふためいているイオーゴとは対照的に、冷静なヴェリタスさんが私に「怖い思いをさせて悪かった。もう安心だ」と保護をする仕草をしながら、小声でつぶやいてきた。
「・・・あの愚弟に足でも踏まれたか?その涙、痛いのを我慢してたんだろう?」
「・・・ええ、そうですけど、なんで一発で見抜くんですか?か弱い乙女の涙ですよ?」
「そうか、か弱い乙女か」
「そうですそうです。助けてください」
「はぁ・・・。傷1つつけずに君を守ると誓おう」
「・・・そうやって世の女性にいい顔をしてるんですか?」
「は?何を言ってるんだ?」
「兄上!兄上といえど、俺の妻に気安く触りすぎではないですか?」
「妻というが、その証拠は?教会への届出は?王宮への届出は?そもそもセレーネ嬢本人のサインは?」
「そ、それは、これからやろうと!」
「ふむ、だとすると、現時点で赤の他人だな。立派な誘拐だと思うが?それと、もう一つ。このリストに見覚えは?」
ヴェリタスさんが渡したリストをみて、かまってちゃんは顔を青くした。
「王都を守るレスター伯爵家として当然の権利を行使したまでです!」
「まさか我が組織にこんな税金泥棒がいたとは。セレーネ嬢のおかげで気づくことができた。感謝する」
「な、どういうことだ!セレーネ!?」
さも裏切られたましたみたいな顔で私を見てきても・・・。実際にそういった判断をしたのはあなたでしょうに・・・。
「どういうこともないです。今まで私はあなたからの贈り物を一度も受け取ってはいませんが、それらの購入資金がどこからきていたのか疑問でした。それを、レスター伯爵家であり、あなたのお兄様であるヴェリタスさんに相談しただけです」
「な!」
「そういうわけだ、イオーゴ。能力、才能がないだけならまだしも、なんで税金を私物化して使い込んだ?なんで権力を私物化して社会に損害を出した?お前は我々の組織に相応しくない」
「しかし!王都を守るプライドが俺にはある!」
「はぁ・・・。この愚か者が。恥を知れ。口先だけの正義ごっこならよそでやってくれ・・・」
「正義ごっこではありません!兄上にも俺の緻密な作戦による素晴らしい護衛任務の成果を伝えていたでしょう!」
「王女殿下の護衛のことか?自分では、緻密な作戦だと思い込んでいるようだが、客観的に見れば整合性のとれてないただのお遊びだ。護衛の計画にも、これだけ権力を使い、税金を私物化してこれだけ使い込み、失敗するだけで成果が無い。恥ずかしくないのか?というか、権力と税金で隠しきれないその無能っぷりは、逆に最早かわいそうだよ…」
「もう十分だろう?」と言いながら、ヴェリタスさんは私を保護しながらこの場を去ろうとした。この後、正規の騎士団がくることになっている。ヴェリタスさんが先行したのは、かまってちゃんが反省を示せば、多少融通を利かせようとしたからなのだけど、当のかまってちゃんは、
「コウ!ケイ!セレーネを奪還する!力をかせ!」
「「は、はい!」」
とりまきの2人が音魔法と煙魔法を発動するも、私の風魔法で対処した。風魔法なら空気を操ることができるので、音も煙も私には効果がない。
「なんだと!?」というように、かまってちゃんと取り巻き2人が驚いている。一方、真横にいる人はからかうような目線を向けてきた。
「か弱い乙女じゃなかったのか?」
「ヴェリタスさん、うるさいです。あなたが迎撃の体勢すらとってなかったので、私が対応しただけです」
「それは悪いことをした」
・・・この人、グレイスと対等に戦える実力者だから、この程度しっかり迎撃する必要もなかったんだろうな・・・。思わずジト目的なものを向けていると、それを勘違いしたらしい人物の声が聞こえた。
「な、セレーネ!?そんな熱烈な視線を兄上に向けるなんて!俺への愛は!?」
「イオーゴ様、まだ気付かないのですか?観察眼を養ったらどうですか?そんなもの元からありませんよ」
「でも、俺の妻になりたいんだろう!?ほら結婚指輪だ!」
それも税金の横領ですか・・・。
私は文官になりたいのに、口先だけかまってちゃんが税金で貢いできてキショイわね。しょうがない、自分では気付けないようだから言ってあげましょうか!
「その指輪も税金でしょう?いいですか、私は文官になりたいんです。口先だけかまってちゃんが税金で貢いできてキショイわよ」
「な!」
ちょうど騎士たちがこの部屋に到着し、かまってちゃんとその取り巻きは連行された。
ヴェリタスさんとその仲間が、かまってちゃん側の警備兵の説得を成功させていたようで、余計な戦闘は起こらなかった。




