83:狼オジサンの余波が落ち着いたと思ったら
裸の王様に対するデモに、私が警備として駆り出されてから3ヶ月ほど経過し、季節は年末になった。
最近では情勢も落ち着いてきて、本来学生である私はお役御免になることになった。その手続きをするために、今日は王宮でクレアさんのお父さんで宮廷魔法師団の副団長であるウィリアムさんと諸々の話をしていた。
「警備隊の制服の返却を確認した。賃金は冒険者ギルドのセレーネさん名義の口座に支払うことになると思うから、年明けくらいに確認してもらいたい」
「わかりました」
「本来学生であるセレーネさんを巻き込んで申し訳なかったね・・・」
「いえいえ。国の一大事となれば馳せ参じますよ!それに、私よりもウィリアムさんの方が大変そうじゃないですか」
「まぁそれはそうだけど・・・」
「そろそろ落ち着くと思うので、できる限り休んでくださいね!」
「うーん・・・」
おっと!ウィリアムさんのこの感じ!休む気ないぞ!忙しいのはわかるけども!
「クレアさんがウィリアムさんの心配をしてました」
「クレアが?」
「はい。なので、クレアさんを安心させる意味でもしっかりと休んでください!」
こういえば休むでしょう!クレアさんが心配してたのは本当だし!
「そうか。それではそうしようか」
「言質取りましたからね!」
「・・・ははは」
あれ!冗談のつもりが呆れられた!?
「それはそうと、このあとアナスタシア殿下の執務室に向かってくれないか?」
「あっはい。・・・はい?今日何かありましたっけ?」
去年の夏に学園を卒業したアナスタシア様は王宮の執務室で王族としてのお仕事をしていることが増えたようだった。
裸の王様のせいで色々と大変なのかな?
「いけばわかる」
「そうですか・・・?わかりました」
ーーーーーーーーー
「アナスタシア様。セレーネ・ケニルワースです」
アナスタシア様の執務室につき、部屋をノックすると、アナスタシア様の専属メイドのユリアさんがドアを開けてくれた。
「セレーネ様、お待ちしておりました」
「ユリアさんお久しぶりです」
「さぁ、中へお入りください」
促されるままに来客用の椅子に座った。質素だけど品の良さが伺える椅子だなぁ!などと思っていると、この部屋の主人が向かい側の席に座った。
「きてくれてありがとうございます」
「いえいえ。アナスタシア様がお呼びとあれば、例え火の中水の中」
「あら、ほんとに?嬉しいわね」
優しく微笑まれてしまった!
「すいません。冗談です」
「それほど照れなくてもいいのですよ?しかし、すでに覚悟があるのでしたらよかったです。どう切り出そうかと思っておりましたので・・・」
えっ!何その不穏な言い方!
「アナスタシア様!さきほどのは冗談でして・・・!」
「大丈夫。わかっておりますわ」
また優しく微笑まれてしまった!これは!墓穴を掘った気がしてならない!
「ところでセレーネさん」
「はい、なんでしょうか」
どんな無理難題が降りかかってくるのかと身構えた私に、斜め上の発言が降りかかってきた。
「カール・ワーグナーが初めての相手なのですか?」
「はい?」
「ミラから聞きましたの。運命のお相手だと」
「はい!?そんなことありませんよ!!!」
「そうですか。それを聞けて安心しました。運命の相手がいるのに、結婚式に参加してほしいとはさすがのわたくしでも言えませんもの」
「結婚式!?誰の!?」
「セレーネさんのですわよ」
「はい!?私の?なんで!?いつのまに!?というか相手は!?私何も知らない!」
思わずびっくりして敬語が外れた事を咎められないくてよかった!って思ったのもつかのま、ユリアさんから労りの目を向けられ、私の意識は現実に引き戻された。
「まぁまぁ。セレーネさん落ち着いてください」
「・・・はい。取り乱して失礼しました。私も貴族の端くれなので政略結婚もしょうがないとは思いますれけど、婚約とか結婚は事前手続きとかありませんか?私何もしてません」
「それは、この結婚式が非合法のものですからね」
「はい!?」
「セレーネさんがかまってちゃんと呼んでいるイオーゴ・レスターが、貴女との結婚式を準備しているらしいのです。それももうほとんど終えているようですわね」
「はい!?」
「かまってちゃんと口ではイヤイヤ言ってるけど、本心ではびっくりして喜んでいらっしゃるの?」
「違います!意味不明すぎてびっくりしてるんです!説明を!説明をお願いします!」
アナスタシア様も、私が”あれだけはナイ”と思ってるのは知ってるはず!
「わかりました。その前に、謝罪をさせてください。止められずに申し訳ありません・・・」
本気で申し訳なさそう!えっ嘘、ほんとに結婚式?やだ、泣きそう。
「セレーネさん、そんな顔しないで。私の力が及ばないばかりにごめんね」
「あいつと結婚するくらいなら国を出る」
「えっ?待って!先に話をさせて!」
風魔法で部屋を開けて、浮遊魔法を発動していた私にアナスタシア様が抱きついてきた。
さすがにこのまま王女様を連れて王宮から飛び去るわけにはいかないので、座り直す。
「・・・セレーネさん。紛らわしい言い方をしてごめんなさい。結婚式は本当だけど、結婚はさせないわ」
「・・・はい?」
「この結婚式の会場であのかまってちゃんを逮捕します」
「はい?」
全然わからない!
「さっきも言った通り、この結婚式は非合法です。どこの許可も取っていません」
「はい」
「しかしながら、結婚式というからにはあのかまってちゃんはセレーネさんを必ず参加させます」
「はい」
「けれど、セレーネは事前に同意しない」
「はい」
「だから、あのかまってちゃんは、セレーネさんを誘拐するしかない。本人的には、計画の中ではエスコートだと言っているようですけれど」
「はい。・・・はい?」
「貴族令嬢の誘拐は重い罪ですからね。それを口実に逮捕しようという作戦です」
「えーと?」
「けれど、セレーネさんはあのかまってちゃんくらい撃退できてしまうでしょう?」
「それは、そうですね・・・」
「なので、事前にあえて連れされてほしいと、わたくしから話をすることになりました」
「・・・さっきのとめられなくてごめんね、というのは?」
「囮作戦ともいうべきこの作戦を止められなくてごめんなさい、という意味ですね。王家の隠密も動員しますので、セレーネさんの身の安全は確実に保証します」
「・・・なるほど。王家の隠密ですか?たかが学生の恋愛事情に?」
「・・・あのかまってちゃんはレスター伯爵家の権力をかさに、税金を横領してる証拠が揃っています。ヴェリタスが捜査に協力してから、騎士団や王都警備部隊の内部の情報が筒抜けになって、捜査が順調に進みました」
ヴェリタスさんというとあのかまってちゃんのお兄さんか。えーとあの決闘騒ぎがあったのは去年の3月くらい?1年弱で捜査を完了した、ということね。早い早い。それと、毅然とした対応をとってくれそうで嬉しい。
「1つ質問いいですか?」
「どうぞ」
「証拠が揃っているなら税金泥棒として逮捕できるのではないでしょうか?横領は重罪だと思います。結婚式までやるのですか?」
できれば避けたい!
「それは・・・。経緯を説明しますね。ヴェリタスからセレーネさんへの貢物とか将来の妻だとかの事実確認をされたかまってちゃんは、気持ちが先行しているだけだからセレーネさんに正式に婚姻を申し込みたいと伝えたそうです。しかし、ヴェリタスおよびレスター家は許可しなかった。それを、実績をあげれば問題ないと解釈したかまってちゃんは、なぜかコロッセオの優勝をすればセレーネさんが将来を誓ってくれると考えたようですのえ。結果は初戦敗退の惨敗でしたkれど。セレーネさんとヴェリタスの決闘騒ぎから半年くらい経っていたので、その時には捜査も進んでいまして、かまってちゃんが税金にアクセスするための権力もほぼ制限されていました。一発逆転とばかりに、既成事実を作ればいい!という謎の思考で、結婚式をやることにしたようです」
「・・・ツッコミどころは色々とあるのですが、大まかにはわかりました。それでも、結婚式前に逮捕できないのですか?」
囮でもいやよ!
「実はもうあのかまってちゃんは会場に篭っているのです。準備の業者や警備には嘘をついていて、『結婚に反対の貴族が刺客を送ってくるから、お互いに思い合っている若人を守ってほしい』と伝えているらしいですわね。レスター伯爵家に恩義のある人たちを集めているから、戦力も高いのです。下手に強行突破すると双方に大きい被害がでます。結婚式ごっこのために国の戦力を削る行為は避けたいという実情です・・・」
「それは、そうですね・・・。でも、アナスタシア様、王家が関わっているなら、かまってちゃんが会場に篭る前になんとかできなかったのですか?」
囮でも結婚式は嫌だ!これくらいのことは言ってもいいでしょう!
「最初はその予定だったのです。しかし、半年くらいかけて証拠が揃ったのが、王様誕生日祭の前だったのです。王様誕生日祭の警備に人員が割かれるのと、あのお祭りは、一応国を挙げてのお祝いじゃないですか。その前に税金泥棒という国家の恥を晒すのは、お祝いムードに水を刺すんじゃないか?という意見があって、お祭りのあとに逮捕する予定だったのです。ですが!あの裸の王様の偽の敵襲騒ぎが起こってしまいました。さすがに帝国からの攻撃となると色々なところがドタバタ騒ぎになってしまい、その隙をつかれた、というわけです・・・」
なんですと!あの偽敵襲のせいか!あの狼オジサン!!裸の王様!
「・・・わかりました。囮作戦の具体的な話をお聞かせください」
狼オジサンの余波が落ち着いたと思ったら、今度はかまってちゃんですか!




