番外編④:カレーの上塗り
これは、王立第二学園の夏休みになる前のお話。
兄エリックから交易に混ざっていた珍しい食品をもらったセレーネは、何か試作ができないかと第二学園の調理室に向かった。普段はミラが試作担当であるが、今回はセレーネに馴染み深い食品であったため、まずは自分で試してみることにしたようだった。
しかし、調理室に着くと先客がいた。
「あれ?カール君?」
「ああ、セレーネさんか」
「どうしたの?調理室にいるなんて珍しい」
「ああ、ちょっとな」
心なしか少しばかり上の空のカールの様子が気になったのか、セレーネはカールが使っているキッチンスペースに近づいていった。
「何作ってるの?」
「ああ、ちょっとな」
セレーネが鍋を覗き込むと、そこにはなんともいえない不思議な液体の中に、謎の物体が入っていた。
「えっ、何これ」
「ああ、ちょっとな。・・・ってセレーネさん!?なんで横にいるんだ!?」
「なんか心ここに在らずって感じだったから何を作ってるのか気になって」
「そ、そうか・・・」
気まずそうに視線を逸らしたカールに対して、セレーネは鍋の中の物体について聞くべきかどうか思考を巡らしたが、見てしまった以上触れない方がダメージが生じてしまうのではないかと考え、聞くことにしたようだった。
「あの・・・カール君。何を作ってるの?」
「・・・アクアパッツァ。になる予定だった」
「・・・そ、そっか・・・」
(普段ならいじるけど、これはなんかいじってはいけない気がする!カールは無駄に要領がいいから料理もある程度はできたはず。だけど、今はなんか、ガチで凹んでる、ガチな失敗だ)
「そんなに気を遣わないでくれ。『何このダークマター?失敗したんだ?うけるー!』くらい言ってくれていいんだぞ?」
「いや、そんなこと言わないけど・・・それに焦げてはないし・・・」
「なんで今回に限って優しいんだ!失敗をなんとかしようとしたらそれがさらに失敗を引き起こした。この失敗作の集大成を目の前にして!笑えばいいだろう!」
「えっいや、ほら、誰にでも失敗はあるわよ?料理は試行錯誤の連続だし、元気出して?」
「・・・お前本当にセレーネさんか?偽物じゃないのか?『リフレッシュ!』」
「えっ?状態異常解除の魔法?」
「・・・幻惑魔法では無い。ということは本物のセレーネさんか」
突然の状態異常解除の魔法と、カールのこの様子にセレーネは困惑しつつも、
「カール君、大丈夫?」
「状態異常にはかかってないから問題ない」
「そ、そっか・・・」
少しずつ話題を逸らそうとしたのか、セレーネは質問で会話を続けることにした。
「えっと、それで、どうして料理してたの?」
「ああ、グレイスさんに振る舞おうと思ってな」
「グレイス?今までそんなことなかったけど、賭けでもして負けでもした?」
「違う。どうしても頼みたいことがあったから、ご機嫌取りをしようと思ったんだが・・・この様だ!失敗を誤魔化そうとしてさらに失敗した・・・!これじゃ失敗の上塗りだ!」
本気でへこんでいるカールを前に、セレーネはどうしたものかと思案をしている。数秒後、カールが言った「失敗の上塗り」という言葉がヒントとなり良い案が思いついたセレーネの顔がぱっと明るくなった。
「カール君。まだ間に合うかもしれない」
「どういう意味だ?」
「今日お兄ちゃんから、交易品に混ざっていたカレーパウダーをもらったんだけど、結構風味が強いし味も強いから、ある程度は元の味を上書きできると思う」
「・・・どういうことだ?」
「この鍋に入れればなんとかなるかもしれない」
「いいのか?確かカレーパウダーなんて珍しいものだろう?」
「本気で困ってるようだしいいわよ。パスタとかも入れて少しアレンジしたら?」
「恩に着る!」
十数分後。
セレーネが提供したカレーパウダーにより、カールが作ったアクアパッツァ(仮)はカレー風味アクアパッツァパスタに進化を遂げていた。
軽く試食をしたカールは、
「これならいける!うまい!ありがとう、セレーネさん!」
「あっ、うん。いえいえ」
カールの勢いに押されてセレーネが戸惑っている間に、カールは持ち運び用に容器に料理を入れ終えた。
「カレー風味で誤魔化せいほどの失敗ではなくてよかった!失敗に失敗を重ねて恥の上塗りになるところだったが、カレーの上塗り!でなんとかなったぞ!」
「そ、それはよかったね」
「全くだ!それじゃあな!」
「あっ!聞きたいことが、」
ここまでしてグレイスに頼むことって何?って聞こうと思っていたセレーネを調理室に残し、カールはグレイスがいるであろう鍛錬場に向かった。
こうして、珍しいカレーを食べることができたグレイスは、まんまとカールの頼み、コロッセオに参加をするためにチームを組んでほしい、という依頼を受けることになった。




