79:サック・ラダモン侯爵の後継者様
ウィリアムと方針を話し終えたセレーネは、魔物に向かって早速魔法を打ちはじめた。
「私は観客席から降りてこのまま加勢しますけど、フローリー子爵はどうしますか?」
「全体の指揮を優先しようと思う。見たところ、闘技大会の参加者や兵士、騎士、冒険者が戦っているが、それぞれバラバラに応戦している。効率が悪いから、全体を指揮する人物は必要だ。すぐに僕の部下もくるから情報伝達経路も構築できる」
「わかりました!難しいことは任せて私は戦ってきます!それじゃ!」
そう言いながら浮遊魔法を使いつつ観客席から飛び降りたセレーネの背中を、ウィリアムは見送った。
「光の勇者と闇の賢者だけに頼りっぱなしはよくないし、我々も頑張りますか」
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「グレイス!加勢する!」
「助かる!」
セレーネはグレイスと一緒に魔物を討伐し始めた。
が、途中から魔物よりもグレイスの様子が気になるようだった。
「む、まずい」
グレイスが思わず呟いた。光の剣を振るった時に、光の斬撃も飛んでいる。ただし、威力がありすぎて魔物を貫通し、そのままコロッセオの建物に向かっている。
コロッセオは歴史的価値があり、壊すと文化的に損失になる。
それを危惧したセレーネが、
「ええい!」
半ばやけになりながら闇魔法を発動して、光の斬撃を打ち消していた。
「助かる!すまない、加減が難しい」
「気にしないで!今まで身体強化だけだったから、いきなり魔法を放つことに慣れてないんだと思う!私がフォローする」
セレーネがグレイスをフォローしながら戦っている様子を、ウィリアムは全体が見える場所から戦闘の指示を出しつつも眺めていた。彼は、イバラ魔法で味方が戦いやすいように戦場を整えてから、指示に回っていた。
「光と闇の魔法はこれほどまでか。全力でぶつかれば地形も変えかねないだろう。ルクス・テネブレ湖ができるのも納得だ」
「ウィリアムさん!ご報告です」
部下の1人がウィリアムに戦況の報告に来たようだ。
「ディランか。どうした?見ての通り、あの王女の手記に残っていた『闇魔法使いが光魔法を見ると襲いかかる』というのは偽情報だ」
「それは良いニュースですね。それより、悪いニュースです。ワイバーンの群れがコロッセオの北側から到来しました」
「やれやれ・・・対空戦力を用意してくれ」
「はい、それともう一つご報告があります」
「なんだ?」
「ワイバーンの群れの真下に人影があり、魔道具を発動している模様です」
「・・・ワイバーンを操っている可能性は?」
「断言はできませんが、可能性は高いです。グレイス・フェレーラがズンルト近郊で撃退したドラゴンについていた魔道具と似たような魔力を放っています」
「そうか。今使われている魔道具を確保してくれ。以前はドラゴン相手は難しかったようだが、今回の黒幕が同じなら、ワイバーンくらいならコントロールできる性能になっている可能性がある。できるだけ魔道具の情報を集めたい」
「承知しました」
ウィリアムが指示をだした直後、
「GYAOOOOO!」
と咆哮を上げながら、ワイバーンの群れがコロッセオの上を旋回しだした。
一方で、ワイバーンを見たグレイスが光の斬撃を飛ばすが、なかなか命中しないようだった。
「くっ!なかなか難しい!」
「グレイス!ワイバーンを地面に叩き落とす!」
セレーネが重力魔法をワイバーンの群れに使い、刃が直接届く距離になった。優位に戦闘を進めている間、セレーネとグレイスは既視感を抱いたようだった。
「グレイス。この感じ、どこかで経験したことがあるかも」
「実は私もだ」
「となると、私たちが一緒に戦った時だよね・・・うーん、ズンルトのファイヤードラゴン?」
「それだ!ということは、ワイバーンも操られている可能性があるのか」
「おそらく」
グレイスは改めて周りの気配をたどり、セレーネは魔法の痕跡を探った。
「向こうから嫌な気配を感じる」
「私も変な魔力の波動を感じた」
アイコンタクトをした2人は、急いでワイバーンの大半を戦闘不能にした。そして、ここは大丈夫だろうと判断したセレーネとグレイスは、先ほどの場所に向かった。
そして、向かった先にいた集団の中に見覚えのある顔がいて驚きを隠せない様子だった。
「サック・ラダモン侯爵の後継者様?」
「誰だ?」
「ほら!第一学園との交流会で揉め事を起こしていたあの!」
「なるほど・・・?」
ピンときていないグレイスとは裏腹に、セレーネは警戒しつつもサック・ラダモン侯爵の後継者に歩み寄った。
「ここで何をしているのですか?それとその魔道具はなんですか?」
「なぜだ!なぜサック・ラダモン侯爵の後継者である俺が負けている!この道具を使えば蹂躙できるはずじゃないのか!」
(取り乱しているわね。”はず”ということは唆された?)
「誰からそう言われたのですか?」
「なぜだ!これでは、サック・ラダモン侯爵家に不当な評価を下したあいつらにお仕置きができないじゃないか!スミヒロ子爵もそう思うだろう!」
「全くですぞ!わしのものにならないミラ・ラズウェルなど消してしまいたいのに!生きてるではないか!」
この一言でグレイスから殺気が放たれた。
「ひっ!だ、だれだお前は!わしがスミヒロ子爵だと知っての狼藉か!」
「お前が、ミラを殺そうとしたのか?」
「それの何が悪い!わしのものにならないからだ!」
「そうか・・・」
(おっと!グレイスが今にも斬りかかりそう!)
「グレイス!落ち着いて!私もあいつは許せないけど、おそらく黒幕がいるわ。その情報を吐かせるためにも生け取りにしましょう!それに、私の記憶が正しければ、あいつは女学生をストッキングで殺害した疑いもある。どのみちしっかりと取り調べと罰はある」
「・・・わかった」
「はっ!たった2人で何ができる!」
武器を構えた相手の集団を前に、グレイスが申し訳なさそうにセレーネに、
「今の私がやると、消滅させるか、消し去るか、真っ二つにしかできないから捕縛は頼みたい」
「・・・わかった。”ダークハンド”、”ダークストリング”」
闇魔法で手の形を作り相手を抑え、その間に闇魔法で作った糸で縛りつけた。
スミヒロ子爵の動機はわかったからか、収納魔法にしまってあったクレア作の催眠効果のある植物を粉にしたやつを吸わせてついでに寝かせていた。
「お前たち!サック・ラダモン侯爵家の後継者である俺にこんなことをして許されると思うな!」
「不当な評価を下したあいつらはピンピンしているようですけど?」
セレーネはとりあえず煽ってみることにしたようだ。あいつらが誰なのかかぽろっとこぼしてくれないかな、という期待があったようだ。
「マーサ・テミスとその身内はここにいないから仕方がないとして!セレーネ・ケニルワースの兄のケニルワース子爵はなぜ無事なんだ!婚約者も無事じゃないか!それと、セレーネ・ケニルワース本人はどこにいるんだ!」
(簡単に名前を言った!それにしても、マーサ様と私か!ということは、)
「サック・ラダモン侯爵の没落への逆恨みですか。彼自身が無能だったからいけなかったのではないですか?」
「そんなわけない!我が侯爵家は有能なんだ!お前たちもそう思うだろう!」
サック・ラダモン侯爵の後継者の周りの取り巻きも「うんうん」うなづいている。
「・・・なるほど。あなたたちは、サック・ラダモン一派だったのですね。そこにつけ込まれたと」
「なんのことだ!」
「あなたちにその魔道具を与えた人物ですよ。私もマーサ・テミスとセレーネ・ケニルワースには思うところがあるので、協力できることがあるなら協力したいです」
「お前もそう思うか!」
(一瞬で手のひら返し?楽すぎない?)
「ええ。不当な評価を下したあいつらにお仕置きをしたいです。どこにいけばあなたの協力者に会えますか?」
「こちらから会う必要はない!」
「というと?」
「こちらが必要な時に必要なものを提供してきた。国を担う象徴であるサック・ラダモン侯爵家に相応しい下僕だと思わないか!!」
「・・・そうですね。どういう見た目でしたか?」
「フードをかぶっていたが、身分の高いサック・ラダモン侯爵家に気を遣って醜い顔を隠したのだろう!お前が仮面をつけているように!高貴な人を前に萎縮したのだろう!」
(・・・なぜか勘違いされたけど、このまま利用させてもらおう。それより黒幕の情報が0!私でもこれだけ簡単に御せたのだから、その協力者はさらにうまくやったのだろう・・・どうしようかな?あれ?というか誰か近づいてくる?)
「ディアーナさん。ここからは我々は引き継ぎます。捕縛ありがとうございます」
「ディランさん!わかりました。この人たちをお願いします」
(流れ的には黒幕が口封じに消しにくる流れだけど、ディアンさんなら大丈夫でしょう。私の闇魔法の訓練にも付き合ってくれたし、ウィリアムさんの右腕だし)
「なぜだ!国を担っているサック・ラダモン侯爵の後継者である俺を引き渡すのか!王女の犬じゃないか!」
「その国に損害を与えのだから当然でしょう?彼らが王女の犬ならあなたがたは負け犬ですね」
「なんだと!チキン野郎!このサック・ラダモン後者の後継者である俺を」
サック・ラダモン侯爵の後継者様の口先だけ威張り散らしが言い終わる前に、ディランが魔法で眠らせた。
「差し出がましいかもしれませんが、手を出させていただきました」
「いえ、感謝しています」
「ご理解いただきありがとうございます。それでは、我々の方で保護し尋問を行います」
「お願いします」
(それにしても、最後まで自分のことをサック・ラダモン侯爵の後継者としか言わなかったわね。国を担っているとか言っていたけど、虎の威を借る狐、ってこういう人のことを言うんだろうな・・・)
「ディアーナさん」
「あれ?まだ何か?」
「副団長からの伝言です。『そろそろ夕方。影が伸びる頃ではないですか?』とのことです」
「あっ!承知しました」
セレーネはグレイスに「ウィリアムさんとの約束で姿を消すわ」と伝え、物陰に行くと影移動の魔法で建物の影を道がわりに静かに最前線を離れて簡易転移魔法陣を使い、転移した。
「ここは、王宮の訓練場?ウィリアムさんとディランさんと魔法の連取をした場所よね?」
「そうですよ」
「うわ!シャノンさん!いたんですか!」
物陰からクレアの母であるシャノンがヒョコと出てきていた。
「セレーネさん、別の簡易転移魔法陣を起動するからちょっと待っててね」
そう言いながらシャノンが魔力を使うと、もう一つの魔法陣が現れた。
「これで王立第二学園の建物内に飛べます。セレーネさんは、”今日は学園にいた”、いいですね?」
「は、はい!」
そして、もう一回転移したセレーネが目をあけると、
「ここはアナスタシア様によく呼び出された部屋ね。なるほど!王宮との直通通路がある。この部屋ってそういう感じだったのね!
そうして、収納魔法にしまっていた制服に着替えたセレーネは、女子寮の自分の部屋に戻った。




