77:たしかにコロッセオは魔物と戦う場所だけど
「それで、カール君どういうこと?」
「そうだ、説明を求む」
教会のコーバン枢機卿の棄権させられ、控え室に戻った私とグレイスはカールに説明を求めた。
「これであの枢機卿は国民の一部を敵に回した」
「確かにコロッセオの闘技大会は毎年恒例でかなり人気があるし、そこで勝った方のチームを退場させたのは反感を招くと思う。不正もしていないし」
「だが、それを行なった理由はなんだ?」
「教会が、必要以上の戦力を持たないのは知ってるな?」
「うん。確か、”神の使いである我々は、武力ではなくて話し合いで解決する。そのために相手を傷付ける戦力はもたない”、だっけ?」
「そうだ。流石に大きな組織として自衛するだけの戦力はあるが、あの枢機卿は、密かに自分専用の戦力を用意していたんだ」
「そうなの?」
「ああ。それ以外にも権力濫用や私物化をはじめ、色々と後ろ暗いことがある。けれど、教会の枢機卿の権力は絶大だ。それを隠すこともできてしまう。だから、民からの信用を一部でも崩した」
「それが何になるんだ?それと、私たちを棄権させた理由がわからない」
うん。グレイスの質問通り私も気になる。
「まず、俺たちを棄権させた理由だが、俺がその戦力の1人だからだ」
「え?」
「は?」
「今まで隠していたはずの自衛用ではない戦力が、あろうことか大会で勝ち進んだ。ベスト8なら、まだなんとか誤魔化せるだろう。ただ、もしもさらに勝ち進んだら?聖職者なのにどこでその戦闘能力を身につけたのか、気にする人が出てくるだろう。そうして、俺からコーバン枢機卿に繋がるのを恐れたんだ」
「それだけでそうなるものなの?」
「・・・いや、実はグレイスさんがいたのも大きい」
「グレイスが?」
「ああ。これについては今は言えない。すまない」
グレイスもよくわかってないようだった。本人も知らないこと?
「それともう一つ、民からの信用の一部を崩した件だが、教会は信仰を大事にしている。そこには、民からの支持や評判も含まれる」
「そうね?」
「だから、その信仰の一部を失えば、教会内での力も一部失う。そうすれば、あのコーバンの後ろ暗いことの調査がやりやすくなる」
「なるほど・・・?」
「ふむ。細かいことはわからないが、私たちはカールに利用された、ということだな」
「・・・それに関しては申し訳ないと思っている」
「埋め合わせは期待していいか?」
「・・・俺にできる限りのことはする」
「なら、強者と戦わせてくれ。コロッセオでの棄権は、強者と戦う機会を逃したことを意味する。その埋め合わせなら、強者と戦わせるのが筋だろう?」
「わかった」
カールは「わかった」とは言ってるけど、苦笑いしている。確かに、その気持ちもわからなくもない。
「それで、カール君私は?」
「・・・治癒魔法を組み込んだ魔道具はどうだ?クレアさんに相談してみる」
「確かにあっても困らないけど・・・」
「表情筋や、足の疲労を軽減できるようにしよう。最近貴族令嬢っぽくふるわないといけない場面が増えて大変だろう?」
「それは助かるわ!いいでしょう、今回の件は水に流しましょう!」
貴族令嬢の大変さが軽減されるなら、カールに一回利用されるくらい安いものだ!
「2人が理解してくれて助かる。棄権されたとはいえ、出禁ではない。残りの試合を観戦しよう」
というカールの提案を受けて、私はまた仮面をつけた。さすがに、行って戻ってきてセレーネでした!みたいなミスは犯さない。
闘技場に戻ろうとしたら、なにやらすごい騒がしかった。
きゃー!とか、うわー!とか聞こえてくる。ただ事ではない!
「グレイス!カール君!」
「ああ!早く向かおう!」
「治癒魔法は任せてくれ!
闘技場に着いた私たちの視界には、魔物の群れが暴れているのが目に入った。観客席まで入り込んでいる。
魔物はどこからか入り込んだのか、それとも通常運用のコロッセオだと剣闘士と魔物が戦うから、元からいた魔物が脱走したのか。
たしかにコロッセオは魔物と戦う場所だけど、これは明らかに異常事態!
観客を助けないと!
戦闘体制に入った直後、近くから私を呼ぶ声がした。
「ディアーナ!」
「おに、ケニルワース子爵!?」
「非戦闘者を逃す。手伝ってくれ」
「もちろん!ところで婚約者様は?」
「市民を優先してくれと言われた。貴族席なら一般席よりも防御魔法が施されているからと」
ちらっと貴族席を見ると、誰もいない?
「お兄ちゃん!貴族席だれもいない!」
「・・・ほんとだ!」
突然、市民が多く残っていた付近から声が聞こえた。
「民を傷つけさせません!」
ミラ!結界の魔道具で防戦してる!
「お兄ちゃん!」
「ああ!グレイスさんとカール君も手伝ってくれ!」
「「わかった」」
スピード重視で魔物を討伐して、市民が多く残っている、つまりミラが守っているエリアに近づいた。というか、他のエリアより、ここの魔物が多いし、対結界能力の高い魔物も多い?
パリン!
「きゃあ!」
なっ!まずい!ミラの結界が割れた!
魔物を一掃するなら風魔法よりも、闇魔法だ。
「ダーク「私の友達に手出しはさせない!!」
私が闇魔法を発動しようとした瞬間、グレイスの周りに優しい、けれど、力強い光が集まっていた。どこか神々しくもあり、私の闇魔法とは逆の印象をうける。
「魔物ども!これでもくらえ!」
グレイス本人は魔王みたいな形相をしているけど・・・。
そんなグレイスが手を掲げると、光の魔法の剣が発現し、グレイスが腕を横に薙ぐのに合わせて、魔物を消滅させていった。
「光の勇者」
「えっ?カール君、今なんて?」
「グレイスさんが光の勇者なんだ。コーバン枢機卿が棄権させたのも、崇めれている光の勇者が実は野蛮でした。しかもそこに俺が一緒にいました、というのを避けたかったからだ。おおかた外堀が冷めるまでの時間稼ぎをしたかったんだろう」
「そうなの・・・?というか今はそれどころじゃないわ」
戦闘に意識を戻すと、お兄ちゃんがミラの場所にたどり着いていた。
私も急ごう!カールなら1人でも大丈夫でしょ!すぐに対応できるように、風魔法で周囲の声は拾っておこう。
「ミラ!無事か!」
「・・・無事です」
「何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「お言葉ですが、民を守るのは貴族の勤めです。それに、万が一何かあっても光の勇者の覚醒に貢献できたなら本望です」
「こういう時くらい強がるな!」
お兄ちゃんの一言で、それまで張り詰めていたミラの緊張の糸が切れたようで、その目には涙が溢れていた。
「・・・怖かった。怖かったよ!なんでもっと早く助けにきてくれなかったの!うわーん!バカ!!!」
「遅くなって悪かった・・・。必ず守るからもう安心してくれ」
「エリックさん・・・!」
感動的な場面なのはわかるけど!実の兄と友達のこういうシーンを目の前で見るのはちょっと!
「追いついた!お兄ちゃん、ミラに傷一つつけさせないで」
「もちろんだ」
「ちょっと!2人とも大袈裟よ!」
ミラよ!お兄ちゃんの腕の中で!ちょっと嬉しそうにしながら言っても!説得力ないわよ!




