76:夏の終わりのコロッセオ
「今日は細かいことは気にせず体を動かすだけだ!よしっ!」
私は、普段は剣闘士と魔物が戦うショーが行われるコロッセオを眺めながら思わず呟いてしまった。
この夏は大変だった!気付いたら8月末になってるくらいには目まぐるしかった!
ケニルワース家が男爵から子爵になるので諸々の手続きや準備に奔走したし、子爵になるタイミングでお兄ちゃんが当主になるから代替わりの挨拶や申請があったし、エリック・ケニルワース子爵とミラ・ラズウェル伯爵令嬢との婚約が正式に発表されたし!それに伴って私にも縁談の話がくるし!
何より!私の誕生日8月15日に誕生日パーティと一緒に子爵お披露目会もやるし!慣れないドレスで疲労がすごかったし、令嬢っぽく微笑みを頑張ったら表情筋が固まったし!
ちなみに、子爵家の当主になったお兄ちゃんは、パーティーでもそれは堂々とした対応をしていた。ちょっといじったら「貴族の跡取りとして当然だろう?どうしてできないと思った?」と言われた。確かにね・・・!
婚約者として紹介されたミラも堂々としていたなぁ。
私は一応頑張ったけど、慣れないことはするものじゃないね!
「やっと解放されたから今日は暴れるぞー!!私は舞踏会よりも武闘会!夏の終わりのコロッセオ!」
闘技大会に向けてやる気に満ちていると、冷ややかな声が聞こえた。
「セレーネさん・・・いつから戦闘狂になったんだ・・・」
「あら、カールさん。ごきげんよう。やる気があるのはいいことではなくて?」
「そうだが・・・。まぁいいや。貴族ごっこは大変だったんだろう。今日は羽目は外し過ぎないでくれ・・・」
「あら?心配してくださるの?」
「・・・貴族令嬢っぽく振る舞われると調子がくるう」
「まぁこのくらいにしてあげるわ!確認なんだけど、私は風魔法しか使わない。実力が半分になるけどそれでもいいのよね?」
「問題ない。それでも予選は瞬殺だろう。本戦もいいところまでいけるだろう。なんといっても、うちにはもう1人化け物がいる」
「乙女に向かって化け物なんて!試合中に手元が狂って風魔法が当たったら自分で治してね!」
「はいはい・・・それと、これが今日セレーネさんがつける仮面だ。アナスタシア様が用意したらしい物をミラさんが俺に渡してきた。なんで直接渡さないんだ?」
「さぁ?」
「そうだ。それともう一つ。クレアさんが作ったらしい変声用の魔道具らしい」
「・・・それ爆発しないよね?」
「ちゃんと試験したと言っていたから大丈夫じゃないか?」
「それならよかった」
「なぁ、王女の後ろ盾があるのに仮面と変声機で素性を隠す必要あるか?」
「万が一、もう一つの魔法属性がバレた時の為よ」
「なるほど。大変なんだな」
「まぁね。というか教会関係者がそれをいう?光が神聖視されているから気を遣ってるんだけど」
「おほん!さぁて!細かいことはさておき、そろそろ予選の会場に向かおう。本戦が行われるコロッセオとは別だ。グレイスさんはもう控え室にいる」
「はいはい。了解ですよ、リーダー!」
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予選の初戦はなんとかまってちゃんイオーゴとその取り巻きだった。
カールとグレイスが学生として登録されているので、初戦の相手も学生になったようだった。ちなみに、私は武者修行でこの国に訪れたさすらいの魔法師らしい。
審判の人が、
「それでは、”月よ俺を見ているか”と”赤と栗と銀”の試合を始めます!両者位置についてください」
と宣言した。
ちなみに、”赤と栗と銀”が私達のチーム名だった。私は今変装して普段の黒髪から栗色の髪になっている。つまり、3人の髪の色という何のひねりのない名前だった。カールのネーミングセンスを疑った。
「ケイ!コウ!コロッセオでの優勝を手土産にすれば、あの人も俺に誓いをしてくれるはずだ!初戦の相手はあの人気だけが取り柄の優等生のカールと、野蛮な赤髪!もう1人は・・・誰だ?しかし!どうせ俺たちの相手じゃない!俺たちの実力を見せるぞ!」
と、かまってちゃんは息巻いていたけど、瞬殺だった。
それにしても、あれだけ普段私に対してかまってちゃんムーブをしていたのに、私だと気付かないとか上部だけしか見てなかったってこと??
確かに名前も偽名でディアーナって名乗ってたけど、気付かないのね。かまってちゃんが上部だけしか見れなくて本当によかった!
その後は、私達は順当に勝ち抜き、翌日に行われる本戦出場を決めた。
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予選の翌日、本戦に出場するために私とグレイスとカールはコロッセオについた。
夏の終わりの一大イベントとあって、観客が大勢いる。貴族専用の席もあり、お兄ちゃんとミラはそこから観戦するらしい。私に気付いたらしいミラが小さく手を振ってくれている。
一般席には、学園の生徒もいるみたい。
王族の貴賓席もあって、国王陛下と第二王妃様がいるのが見えた。他にも、教会のお偉いさんらしき席もあった。
私がキョキョロとコロッセオの観客席を見ていると、スタッフらしき人に声をかけられた。
「”牧師と迷える子羊たち”のみなさま、控え室にご案内します」
変なチーム名が私たち以外にもあったのね・・・。
「ディアーナさん、何している?行くぞ」
「えっ?カール君?チーム名違くない?」
「本戦だから再登録した」
「そっか・・・それにしてもなんでその名前?」
「ちょっと教会っぽさを出したかった」
そっか・・・。だとしても他に案はなかったのだろうか・・・。
私が何も言わなかったらから、カールはグレイスに向かって話しかけていた。
「グレイスさん準備はいいか?」
「ああ」
「それなら行こうか」
グレイスがいて普通の相手に負けるわけもなく、私たちは順当に勝ち上がった。
そして、ベスト8をかけた試合になった。
相手は優勝候補の一角らしい。
「カール君、ベスト8が目標だっけ?」
「そうだな」
「次の相手、優勝候補の一角よね?」
「そうだな」
「去年出場していないとはいえ、一昨年優勝してるらしいね?」
「そうだな」
「策は?」
「グレイスさんがやる気満々だからなんとかなるだろう」
隣でストレッチをしていたグレイスを思わず見ると、
「任せておけ!腕がなる!」
まぁなるようになるか、と思いながら私たちは試合場に向かった。
相手側は、剣士、アーチャー、魔法師の組み合わせのようだった。
「それでは、”トリリオンアロー”と”牧師と迷える子羊たち”の試合を始めます。相手チーム全員を戦闘不能か降参させた方の勝ちとなります。それでははじめ!」
ウィンドアローで先制しようとしたところで、自分の視界に違和感を覚えた。
これは幻影魔法?
けれど、今の私なら幻影魔法も解除できる。体の魔力の流れを意識して調整すると、違和感も消えた。
1年生の時に、森で迷彩羊に崖に落とされそうになったから練習した!私成長してる!
「グレイス!カール君!大丈夫?」
「ああ。気合いでなんとかなった」
「状態異常解除魔法を使いましたので、大丈夫です」
カールの優等生モード!まぁ確かに人目があるからね!
それはそうと、相手のアーチャーが驚いている。学生が一瞬で状態異常を解除したのは予想外だったんだろう。
弓に矢を構えようとしてたので、
「ウィンドランス!」
「まだまだだね」
魔法を放つも避けられてしまった。
「こちらからも行くわよ!」
相手の魔法師が無詠唱で、ファイアアローを放ってきた。相手は火魔法か。
「ウィンドウォール!」
ファイアアローを杖を掲げながら魔法を唱え、風の壁で受け止める。
「バブルエリア!」
おっと!二属性目!泡魔法?相手の動きが空中に浮いた泡で見づらくなった。
ちらっと横をみると、相手の剣士とグレイスが一対一で打ち合っている。この大会初めて、打ち合える相手に出会えてたのが嬉しいのか、グレイスが楽しそう!
「カール君!剣士はグレイスに任せて魔法師とアーチャーの2人をなんとかしましょう!」
「承知しました!」
剣士VSグレイス、アーチャー&魔法師VS私&カールとなり、お互いに一進一退の攻防を続いた。
しかし、相手の魔法師が2属性目の泡魔法と火魔法を合わせて爆発を起こしたタイミングで、私が今大会で初だしの浮遊魔法で土埃に紛れて空中に浮いた。浮遊魔法は一般的にも認知されてるし、闇魔法とは思われないと思う。
土埃が風魔法で払われないことで私が戦闘不能になったと判断した相手に空中から攻撃し、隙を作った。相手の意識が突如空中に現れた私に向いた直後に、カールが土魔法で地面にあり地獄を作り出し、まずは魔法師を拘束。そうして、2対1でアーチャーも捕らえたところで、グレイスが膝をついていた剣士に剣を向け、降参を引き出し、私たちの勝ちで試合は終了となった。
「よし。さぁどうでる?コーバン枢機卿」
うん?カールが教会のお偉いさん席を見ながら、呟いている?
枢機卿?
なんか、教会の席でも一際偉い感じのする1人の男性が前に出て、使用人?らしき人に拡声魔法を使わせながら、声を張り上げた。
「カール・ワーグナーのチームは棄権する!」
はい!?急にどうしたの!!
横目でカールをみると、それはそれは衝撃を受けたような雰囲気を出していた。
「なぜですか!コーバン枢機卿!私は不正をしていません!」
「それは問題ではない!教会の聖職者に相応しくない野蛮な行いを見逃すことはできない!」
「しかし!私はコロッセオの闘技大会の規則を破っていません!」
「だから!それは関係ない!教会の品位を貶める行為は認めない!この者らを場外に連れて行け!」
「そんな・・・!いつも目をかけていただいたのにこんなのはあんまりです」
・・・カールが、それはもうしおらしく、弱々しく地面に膝をついた。
本性を知っている私からすると、胡散臭さが拭えない!
「カール・ワーグナーよ!このまま戦えば命を落とす危険性もある。枢機卿として、そのような危険性を排除するのも務めだ。理解してくれるな?」
「・・・そうですね。死にたくはありませんし、おっしゃるとおり辞退させていただきます」
カールが急に言うことを聞いた?と不自然に感じたけれど、すぐに私の意識は別のところに向かった。
「解せない。取り消せ」
戦いの邪魔をされて、グレイスが完全にコーバンという枢機卿に殺気を放っている。
「ひっ!・・・ごほん!こ、このような野蛮な人物が栄えあるコロッセオで戦うのは相応しくない!退場だ退場!何をしている警備兵!」
「お前らも邪魔するのか?」
警備兵に向けてグレイスが殺気を放ってる。警備兵も困惑してるし、とりあえず落ち着いてもらおうとしたら、カールが弱々しくグレイスに寄りかかった。
「頼むグレイスさん。ここは引いてくれ。事情はあとで話す」
観客からみると、ショックで自分で立てなくなってチームメイトに寄りかかったように見える。けれど、グレイスと私にか聞こえないくらいの声量で話したさっきの言葉は、弱々しくなかった。
「・・・わかった」
カールの真剣な目を見たグレイスも承諾し、私たちは棄権扱いとなった。
しかし、勝った方が退場すると言う異常な事態に、観客は枢機卿に対して盛大なブーイングを始めた。
私たちは、その喧騒の中で会場を後にした。




