73:国の癌(後編)
「では、お次はラソツ侯爵ですね」
にっこりと微笑むマーサ様と対照的に、ラソツ侯爵の顔は青い。
思い当たる節があるんだろうけど、私は詳しく知らない。
さっきのラダモン侯爵も、仕事ぶりに関して具体的な中身までは私は知らないから、正直ちょっと同情してしまった。
でも、たぶん、それそうおうの損害を出していたんだとは思う。
「テミス公爵!違うんだ!」
「ラソツ侯爵、何が違うのですか?」
「私はただ、騎士として悪事を許せなかっただけだ!」
「悪事を許さないというお言葉はご立派ですが、でっちあげるだけでも本物の悪事を捕まえられないなら、それは税金泥棒ですね」
「違う!本物だ!」
「・・・仮に本物だとしても、実力が見合ってないので、口先だけで逆に損害が出てますね。無い成果の内省をしてください」
「執念をもって対応しただけだ!」
「証拠が集められないと大人数で容疑者の周りをパレードすることがですが?執念ではなくて、無能ゆえの苦し紛れの遠吠えでしょ?事実を入れ替えてはだめですよ」
「なっ・・・!」
「あなたは、自分が手配した人員と使い込んだ税金が無駄になるのを、ただ指を加えて眺めることしか出来なかったのですよ。まさに税金泥棒ですよね」
「違う!しっかりと適切な人員を手配した。王都を荒らす不届き者の調査だ!」
「あの件ですか?能力の劣る人物を任命すれば逆に敵に利用され重大な被害を引き起こす可能性がある。権力とリソースをふりかざすも、逆にならず者に利用されて重大な被害がでてましたよね。いいですか、騎士団の仕事というのは、国を守るモノであって、低レベルのお遊びで自己満足に浸るだけの簡単なお仕事ではありません」
「それくらいわかっている!だからこそ、各地域で協力者を募ったんだ!」
「第三者の協力は有力ですが所詮手段なので、それを使う本人の能力が重要です」
「それもわかっている!時間をくれれば報告書を提出する!」
マーサ様は、ラダモン侯爵の時は違う紙束を取り出して、優雅にパラパラしながら、
「それは、無駄遣い無能自供書ですか?」
「なっ!あれと一緒にしないでくれ!」
「かつてのあなたの部下ではないのですか?彼の成果報告書は素敵でしたね」
マーサ様の微笑みがすごい。悪魔に見える・・・。
「彼、いえ、今は迷探偵ケイブと呼ばれてますね。かつての、捜査の連続の失敗は彼のせいだったのですよね?では、彼がいなくなったはずなのに、なぜ今も失敗ばかりなのですか?」
「それは・・・」
「その程度の能力でしかも上部だけで、思い通りになると思い込んでるなんて、虫が良すぎるのではないですか?」
「違う!」
「では、能力がないなら権力を使えばいいということですか?」
「違う!」
「金食い虫と負け犬の飼い主が気になりますね・・・」
「そんなのはいない!」
「無能の無能による無能のための正義ごっこ遊び、無能達のお遊戯会、などと呼ばれているようですけど?」
「違う!王都を騒がす大泥棒の捜索はそういうものではない!」
王都を騒がす大泥棒ってなんだ!そんな事件があったんだ。
「去年の夏の終わりに王都中からトツンカーナ産のワインが消えたことですか?」
「そうだ!」
そうなんだ・・・でも、聞き覚えがある。
確か、国王陛下が同じ時期に買い占めてなかった・・・?
まさか・・・?
「あなたは絶対にその泥棒を捕まえることはできません。それだけ間違っています」
「なんだと!言わせておけば!作戦が間違ってるわけがない!」
そう言いながらラソツ侯爵は、騒ぎ出した。
「国の犬ならまだしも、国の負け犬ではないでしょうか。本当に、これだけ権力と税金をつかって、国の恥晒し。国の犬から無様な負け犬にランクアップしましたね。その遠吠えもおにあいですよ。あなたが今まで注ぎ込んだ、人員、リソース、税金、それらが泡と消え無駄になる様を見せてあげます。我らが陛下のワインの購入の記録です」
「なんだと・・・?」
「ラソツ侯爵が言う泥棒と時期が一致していますね」
「違う!そんなはずは!」
「どんなはずなのかはわかりませんが、これほどまでに判断を誤った作戦立案者の処遇はどうしますか?これだけの損害を出して、戦犯です。権力と税金を使うに見合った能力を持ち合わせていません」
「捜査を行うためには俺が必要だ」
「全ての捜査が成果を出せる結末を迎えられるわけではありません。時には、作戦立案者の無能のせいで、無駄に終わることもあります」
「リソースを投下すればいい!」
「大量のリソースを投下しても、成果がでずつまづくこともあるでしょう。そういう時は、上部だけそれっぽく表面的に誤魔化すんじゃなくて本質的に理解することが大事だと思いませんか?そうすれば、ワイン泥棒も出なかったはずです」
「違う!国を守っているんだ!」
「口先だけで国を守ってると主張しても、やっていることの中身は社会に損害を与えるだけではないですか?偽物の泥棒を追った本物の税金泥棒。税金泥棒は、国民を裏切っている詐欺という名の公害だとは思いませんか?」
「正義のためだ!」
「確かに正義の鉄槌は大事ですね。しっかりと権力と税金を使うに見合った能力を持ち合わせていないと言う無能の烙印を押さなければなりません。これで、あなたの組織内といいますか騎士の間での評価はズタボロですね」
「俺たちはしっかりと騎士としての仕事をした」
「あのお遊びのことですか?あなた方は、国民からの税金をお遊びに使っていますが、騎士法で定められている中にお遊びはありません。公害に収まらず、国民を騙している立派な詐欺ですね」
そう言いながら、微笑んでるけれど目が笑っていないマーサ様は2枚の紙をラソツ侯爵に見せた。
「ラソツ侯爵、どちらが適切な警備案ですか?状況は要人のお忍びです」
「・・・テミス公爵が右手に持っているほうだ」
「残念ながら、事前に騎士たちを集めて解いてもらったところ、私が左手に持っているほうが適切と結果が出ています。右手に持っている方は、見かけは素晴らしく式典などのパレード向きです。一方で、万が一の時の戦闘には対応が遅れます。要人のお忍び、という観点では不向きでは?」
「・・・理解した上でこっちと言っている」
「そうですか。これが実務でしたら本物の税金泥棒になりましたね」
「素人にはわからないかもしれないが、全体を見ればこれでいい」
「他の騎士にも解いてもらったとお伝えしたはずですよね。お忍びの要人警護という状況ですと、全体を見れば見るほど矛盾ばかりで低レベルであることが露呈しているという評価があります」
「・・・警備案は今まで外注していたのを内製化したばかりだからだ」
「そうでしたか。内製化の立役者、いえ、無い成果の立役者ですね。見栄えと緊急時の対応、二兎を追って二兎をも得ず、ですね。そういうところがダメなんですよ」
そして、マーサ様は新たに取り出した紙束をラソツ侯爵に渡して、
「これを見てもまだ何かいうことがありますか?」
ラソツ侯爵はぐったりと項垂れて黙ってしまった。
私の隣では、たぶんあの紙束の中身を具体的に知っているだろうアナスタシア様が肩の荷が降りた、というような雰囲気で、
「いざとなれば、使用人服を脱いだわたくしが、王女としての身分を盾に、目出し帽の皆様やマーサさんの部下を守るつもりでしたが、その必要がなくてよかったですわ。ふう、これで裸の王様の取り巻きである国の癌は減らせました」
とおっしゃっていた。




