71:弟をたぶらかした悪女セレーネ・ケニルワース?
王宮で保護されていたクレアさんは第二学園の春学期の開始に合わせて学園の寮に戻ってきていた。今は私と一緒に学園内の噴水が見えるベンチでのんびりしている。
授業の合間に休憩がてらのほほんとしていると、なんかこう息巻いていそうな騎士っぽい服装をした男の人がずかずかとこちらに向かってきた。
「お前がセレーネ・ケニルワースか?」
急に、道端のゴミを見るような目線を向けられた。
初対面のはずだけど・・・?
「そうですけど・・・」
「そうか!弟をたぶらかした悪女セレーネ・ケニルワース!今すぐ弟から手を引いてもらおう!」
「はい?弟というのは?」
全然!全然話が見えない!
「この場に及んでとぼけるつもりか!お前が誑かして付け込んでいるイオーゴ・レスターだ!」
話が!見えない!あのかまってちゃんに私がつけこんでいる!?
というかこの人はあのかまってちゃんの兄?
「あの、かまっ、いえ、イオーゴ様のお兄様ですか?」
「お前にお義兄様と呼ばれる筋合いはない!」
「そんなつもりではなかったのですけど・・・。お名前をお聞きしても?」
「ヴェリタスだ」
「わかりました。ヴェリタスさん、私がイオーゴ様を誑かしたことはないのですけど・・・」
「とぼけるな!」
えー。どういうことだ?
「そ、そうですよ!セレーネさんがそんなことするはずがありません!」
「お前は?あぁ、夜会でみたことがあるな。フローリー子爵の娘か。この悪女といると貢がされるぞ?」
「セレーネさんはそんなことしません!」
「はぁ・・・なるほど。王宮魔法師団の副団長の娘もたらしこんだのか。生粋の悪女だな」
「お、思い込みと決めつけでセレーネさんをそんなふうに言わないでください!」
「思い込みと決めつけ?地方の男爵家の娘が、普通に考えて王女の視察に同行できるわけないだろう?あらかた俺の弟に頼み込んでレスター家の権力をうまく利用したんだろう。この虎の威を借る女狐が!」
おっと!普通に考えればそうかもしれないけど!普通じゃない場合もあるでしょう!
クレアさんが「ぐるるる」と憤ってくれてるのはちょっと嬉しいけど、チワワがサーベルタイガーに噛みつこうとしてるようにしか見えない!これはまずい!
「おほん!ヴェリタス様。誤解があるようです。少しお話をしませんか?」
「はっ!俺にもつけ込もうという魂胆か!その性根を叩きなおしてやる!決闘だ!」
「はい?」
「ただし!俺も騎士の端くれ、女狐悪女といえど生物学上の性別が女相手に大人気ないことはしない。こちらは訓練用の剣で相手をしてやる。俺が勝てば弟の半径30mに近づくな。お前が勝ったら、そうだな、なんでも一個言うことを聞いてやる」
「えっ?いや、ちょっと」
・・・待って、でもこれチャンスじゃない?わざと負ければかまってちゃんと距離を置ける?貴族間の正式な決闘ならその効果は絶大だ。いくらあのかまってちゃんでも従うざるを得ない?
「その決闘、うけ「おい!何してる!」
おっと!!決闘を受けようと思ったら遮られた。
誰だ!?と思って声の方を見ると、グレイスがいる!?
「お前は?」
「グレイスだ。それより話は少し聞かせてもらった。私の友達に手出しはさせない」
やだイケメン!
・・・じゃなくて、この決闘は私にとってメリットしかない。勝てば言うこと聞かせられるなら、あのかまってちゃんを遠ざけてもらえる。負けても遠ざけられる。
グレイスにとりあえず落ち着いて、と目線で訴えてみた。
「安心してくれ。セレーネに手出しはさせない。強者の気配を感じたから来てみれば、勘違いか?ただの猪だったのか?」
グレイス!かまってちゃんの兄にそんな挑発的な視線を向けないで!
「・・・ほう。いいだろう。決闘は代理人が認められている。お前が代わりを務めればいい。見た感じ腕は立つようだが、学生のごっこ遊びだと教えてやる。かかってこい」
「後悔するといい」
「威勢だけはいいな。それともう一つ、ここは学園内だから決闘とはいえ致命傷以上は禁止にしよう」
「わかった」
私が止める間もなく、
「「いざ、尋常に勝負!」」
決闘が始まってしまった。
剣と剣がぶつかり合って、ガキンガキンいってる。
あのグレイスについていけるなんて、かまってちゃん兄はかまってちゃんと違って思った以上に本物の実力者みたい。
「これほどの実力がありながらなぜあの女狐を庇うんだ!」
「女狐?誰のことだ?」
「セレーネ・ケニルワースだ」
ガキンガキンとかヒュンヒュンとか剣が空を切る音の中、なんか今更2人が話をしてる。
「なぜセレーネが女狐なんだ?」
「おい、話を聞いていたんではないのか?」
「決闘をやる、と聞いたぞ」
「・・・それだけか?」
「ああ」
「・・・説明してやると、あぶね!」
「決闘中におしゃべりして、おっと危ないだろう!」
激しい剣戟の中、2人で会話してる。
器用ね・・・。
「試合中だ!決闘の目的くらい知っておけ!弟を誑かすなとセレーネ・ケニルワースに要求したんだ!」
「弟?」
「イオーゴ・レスターだ」
「・・・なるほど。しかし、セレーネが誑かしたか。実際は勝手にやってるだけだぞ。裏どりはとったのか?」
「はっ?」
「実際はセレーネはすべて断っている。お前の弟が自己満足で勝手にやってるいるだけだ。見たところ騎士だろう?騎士なら裏どりを取った上で行動するべきではないか?それとも理解した上で、私怨か?」
「・・・いや、裏どりはとっていない」
「そうか。騎士失格ではないか?」
「なんだと!・・・いやそうかもしれないな」
あれ?かまってちゃん兄がおとなしくなった?
剣も下ろした?
「どういうつもりだ?」
「この決闘は俺の負けでいい。裏どりを取ってから改める」
「そうか・・・。しかし、それはそれ、これはこれだろう」
「どういうことだ?」
「お前との戦いは楽しい。決闘の根拠がなくなっても、勝負をやめる理由にはならない」
「・・・いいだろう!俺もこの戦いは楽しかったんだ!久しぶりの本物の強者との戦い楽しませてもらうぞ!」
・・・あーあ!落ち着いたと思ったのに!2人して楽しそうに戦闘を再開しちゃって!
似たもの同士お似合いよ!
「クレアさん、行きましょう・・・」
「あっ、はい!」
戦闘狂2人を残して、私はクレアさんと一緒に場所を移動した。
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クレアさんが生産系の授業に向かったので、私は1人でカフェでのんびりしていると、かまってちゃん兄がやってきた。
「探したぞ」
「・・・そうですか」
「なぜ何も言わずにいなくなったんだ」
それはあなたたちが楽しそうだったからですよ・・・。
「それより、試合はもういいんですか?どっちが勝ったんですか?」
「3番勝負をやったが、1勝1敗1引き分けだ」
「引き分け?」
「訓練用の剣だったから折れてしまった。また改めて試合することにした」
なるほど、2人の実力に追いつかず訓練用の剣が折れたのね。
というか、再戦するんですかそうですか。
「それで、何かようですか?」
「勝手に決めつけて悪かった。もしもグレイスのいう通りなら、問題があるのは弟の方だ」
おっと!かまってちゃんと違って、兄の方は冷静になると話が通じるかもしれない?
「裏どりを取っていただければ、私が誑かしたわけではないとはっきりすると思います」
「そうか・・・」
「それにしてもどうしてこのタイミングだったのですか?かまっ、えっとイオーゴ様の件は学園入学時からなのですけど・・・」
「今まで忙しくて弟とはほとんど会えてなかった。だが、王女殿下の護衛で2度もやらかしたと噂を聞いてな」
あー、なるほど。
”無能、全国デビュー”に加えて、先日の1月28日から2月4日かけて行われた海外視察の件も、”無能、海外デビュー”として、国政の関係者の耳に広まっていたらしいし。
「さすがにまずいと思い、弟に会ったら君の話しかされなかった。美しいとか可憐だとかプレゼントをたくさん送ったとか、将来の妻だとも」
「はい!?妻!?そんな事実はありませんよ!プレゼントも一度も受け取ってません」
「・・・そうか。もし、君が誑かしたのではなくて弟が勝手にやらかしたのなら、それは騎士としてあるまじき行為だ。いや、誑かしたとしても、いいように権力濫用させられたのは問題だが・・・」
・・・おっと!かまってちゃん兄、いえ、ヴェリタス様はしっかりとした本物の騎士かもしれない!さっきは冷静じゃなかったのでしょう。さすがに、王女相手に2度もやらかしたとなる冷静でいられないでしょうし!
「当事者である私が証言しても信憑性がないと思うので、第三者にしっかりと確認してみてください。ちなみに、もしも、私が無実でイオーゴ様に責があるとわかればどうするんですか?」
まぁ、本人である私としては、あのかまってちゃんが勝手にやったことは自明なので、今後どうなるか気になる。やっぱり、庇うのかな?
「・・・王都を守る騎士をまとめるレスター家には、高い倫理観と実力が求められる。国家権力を私物化するなどもってのほか。もし、イオーゴがそれに反していることがわかれば、組織として毅然とした対応をとる」
「そうなのですね・・・」
「ああ。裏どりをとり忘れた俺が言うのもこっけいかもしれないが、王都治安維持部隊でしか、できない仕事がある。王都を守るプライド。それを汚すなら、身内でもしっかりと対応しよう」
国家組織あるあるの揉み消しとかにはならなそう。
しっかりと、権力と実力は別物だとあのかまってちゃんに教えて貰えばそれでいいかな。
そういえば?と思って、水の都ヴェネを舞台とした迷探偵ケイブの税金泥棒のこともついでに伝えておいた。あの件はラズウェル家が調べたけど時間が経っていたから証拠がなかったけど、余罪はありそう。王都治安維持部隊が内部調査をすればそのあたりもはっきりするでしょう。




